人にひけらかすもんじゃない
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~4巻発売中です。
「クランの話を聞きたいんすか? アタシで良ければ何でも答えるよ!」
目の前にいるターニャが、大きなハンバーガーを頬張りながらそう答える。
「悪いね、昼休み中に」
「いいっす、いいっす。むしろ嬉しいよ、頼ってくれて!」
「こういうのはギルド関係者のターニャに聞くのが一番と思ってさ」
俺とターニャは今、ファストフード店のテラス席に対面で座っている。
「でもアサヒくん、ずっとソロでやってきたっすよね」
「ああ。ソロと言っても、マヤね……あ、姉貴と二人だけどね」
「ここに来てクランなんて、どういう心境の変化っすか?」
「まあ色々あって…」」
前回グローリアの引っ越しを手伝った際、クオンにクラン結成を持ちかけられた俺。
グローリアもすっかり乗り気になり、別荘をアジトとして貸し出すからクランを作りましょうと意気込んでいるのだ。
ただ俺も、クランを作ることに憧れを抱いていた。
現実世界でのMMOやソシャゲでも、クランやサークルに加入してみんなとワイワイやるのが好きだったから。
まあレイドバトルやクランランキングなどを巡って、エンジョイ勢とガチ勢がバチる地獄も見てきたけど……古戦場からは逃げられない。
「でもギルドにとっても、アサヒくんがクラン作ってくれたら助かるっす!」
「え? なんで?」
「ジークフリートさんが所属していたかつてのバルムンクもそうだったけど、有名なクランがあると広告塔になるんすよ。「あんなクランを作りたい」…そんな憧れを抱いて、新規冒険者もいっぱい増えるんだ」
「なるほど。そりゃ生きた意見だ」
事実俺も、バルムンクが壮行式を開いていた光景を見て憧れを抱いたものだ。
ジークさんの中身を知ってからは、そんな憧れもどっかへ言ってしまったけど。
今日も今日とてあの人、ダウチョレース場へ行っているに違いない。
「他には例えばどんなクランがあるんだ?」
ターニャが頬張ったハンバーガーを紅茶で流し込みながら、答える。
「そっすね……バルムンクに比肩する実績を持つ『シロガネ騎士団』、商人だけで構成されている『ステイゴールド商工会』、夜襲や夜戦に特化した『血染めのフクロウ』、賢者の秘術の追究を目的とする『結社赤石』、報酬次第でどんな汚れ仕事もこなす『バスティアン猟兵団』、モンスターグルメを楽しむ『モンストル・マルシェ』……色んなクランが、色んな目的を持って存在してるんすよ」
「おお…この一気に風呂敷が広げられる感じ、オタク心に刺さるわー」
オタクは後ほど回収されるか分からない情報でも、どんどん開示されることにロマンを感じる生き物なのだ。
「それに依頼には、クラン限定のもあるんだ」
「ソロでは受けられないタイプのクエスト?」
「うん。別にクランに入っていてもソロでの活動は自由だし、なら選択肢を広げる意味でもクランは作っておいても損は無いと思うっす」
「へえ、それはいいことを聞いた」
「それはいいことを聞きました!」
背後から女の子が聞こえてきて、俺は驚いて振り返った。
そこにいたのは毒舌ヒーラーこと、ソフィ=ピースフルであった。
「クランを作るのであれば、ぜひこのソフィをお加え下さい!」
「うお!? ソフィ!?」
この子、相変わらず神出鬼没である。
「やっはろー、ソフィ!」
「あは! やっはろー、ターニャ!」
ソフィとターニャが笑顔で挨拶を交わす。
「いつの間にか、そんなラノベみたいな挨拶を交わす仲にまで!?」
この二人、年も近いし波長も合うのだろう。
年齢で言ったら、俺もこの二人とはタメなのではあるのだが。
「い、いや、まだ作ると決まったわけじゃあ……それにソフィは戦力にするには厳しいというか」
俺はなんやかんや修羅場をくぐってきたことで、今のレベルは30にまで上がった。
しかしろくに冒険をしていないソフィは、いまだ駆け出しのはず。
「そんなことはありません! 存外、私もやるのですよ? ステータス開示!」
ソフィは自分のステータス画面を開いた。
そこに表示されているパラメータを見て、俺はぎょっとした。
「レベル27になりました!」
「レベル27!?」
俺とさほどレベルが変わらない上に、何なら能力値のグラフが俺より大きいまである。
MPやINTが俺より高いのは分かるけど、何気にHPやVITもそう変わらなくないか!?
一体いつの間にこれほどレベル上げを重ねたのだろう。
「スライム大水害で私、救護のために方方でヒールしてたじゃないですか」
「あ、ああ」
「MPが切れたらアイテムで回復して、またヒール、またヒール……図らずもそれで経験値稼いじゃって、一気にレベルが爆上がりしたんですよ!」
「シ、シミュレーションRPGでよくある、ヒーラーのレベリング法……!!」
俺もよくシミュレーションRPGで、モンスターを逃げられないように四方で囲って、倒さない程度に殴りながらヒールを延々と繰り返しレベリングしたものだ。よもやソフィが偶然そのレベリング法を実行してしまうとは。
「ソフィも頑張ってたんすよ」
「えへへ、ありがと、ターニャ」
ターソフィてえてえ。
「そういやアサヒくんのステータスって今どんな感じなんすか? 見せてよ、ゴーレム級の強さ!」
てえてえとか思ってる場合じゃねえ!
ターニャが俺のステータスを見たいとか言い出してきた!
ゴーレム級という冒険者ランクに反して、俺のステータスは凡も凡……
ラビット、ゴブリン、ナイト、オーガ、ゴーレム、ドラゴン、ゴッドからなる七段階評価の、いいところナイト級の下くらいのものだろう。
そんなものを見せたら、ゴーレム級が詐称だとバレてしまう。
俺は動揺をおくびにも出さないようにし、シニカルな笑みを浮かべた。
そしてこう言った。
「……人にひけらかすもんじゃない。”強さ”ってのは、さ」
ソフィとターニャは顔を上気させている。
「きょきょ、強者のセリフです! 勇者様!」
「カッケー! さすアサっす!」
「私、反省しなきゃ! ステータスなんてホイホイ人に見せるものじゃないですよね! うん!」
「…………ふっ」
何とかごまかせた。
ごめんな、二人とも。
言っちゃ悪いけど、君たちが単純でとても助かりました。