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過保護はよくない

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~4巻発売中です

 俺とグローリアとクオンの三人は、荷物を積んだ馬車に乗って街道を走っていた。

 御者台にクオンがいて馬を御し、俺とグローリアは荷台に対面で座っている。


「恥ずかしいですわ、アサヒに家庭の問題を見られて……」

 グローリアは両頬に手を当て、顔を赤らめている。

「はは、いやいや」

 俺は日々ブラコン姉という家庭の問題を抱えているから、家出騒動くらいでは何とも思わないのである。


「ブリガンダイン家はギルドに出資してるのに、娘が冒険者やってるのには反対なんだな」

「お父様は過保護なんですのよ。わたくし、親や家柄に頼らず生きてみせますわ!」

「そうか……」

 家出とは違うが、俺もこの異世界に一人投げ出されたときは苦労したものだ。

 グローリアもきっと行くアテも無いんだろうし、出来る限り助けてやろうと思う。


 そのとき、馬車が止まった。

「着きました、お嬢」

 御者台からクオンがそう言う。

「ありがとう、クオン」

「へ?」

 てっきり目的地も無く馬車を走らせているのだと思っていたが、一体どこへ着いたと言うのだろう。

 しかも馬車を走らせてから、まだ5分ほどしか経っていないのだが。


 馬車の荷台から降りる。

 目の前の光景に俺は驚きを隠せなかった。


「なにこのデカい屋敷!?」

 そう、そこには貴族が住むような大きな屋敷があったのだ。

 先ほどまで居たブリガンダイン家ほどの大きさではないが、それでも俺が今住んでいる家より10倍以上はデカい。

 

「ブリガンダイン家の別荘ですわ! 今日からここをわたくしの拠点とします!」

 居丈高にそう叫ぶグローリア。


 俺はずっこけそうになった。

「家出じゃねえじゃん!? めちゃくちゃ親のスネかじってんじゃん!?」

「アサヒ氏、令嬢のファッション家出なんてこんなものですよ」

 冷淡にツッコミを入れるクオンであった。


 屋敷に荷物を運び入れる作業だ。

 俺もそれを手伝う。

 何はともあれ結構なバイト代を先に貰っているのだ、仕事は全うせねば。


「このテーブル重っ…!」

「手伝いますわ、アサヒ。片側はわたくしにお任せを」

 テーブルの反対側をグローリアが持つ。

「後ろ、気を付けて下さいまし?」

「オッケー。新居を傷付けちゃまずいもんな…ゆっくり運ぼう。でも大きな家だよなぁ、俺もこういう家に住んでみたいもんだ」

 俺がそう言うと、グローリアは顔を上気させた。

「すすす、住みたい!? ここに一緒に!? それってまさか、わたくしへのププ、プロポー……きゃあああ! 照れますわー!!」

 グローリアは赤面した顔を両手で隠した。

 それすなわち、テーブルから手を離したということである。

 俺はその反動でテーブルの上に顔面から突っ伏してしまった。

「うおおおおい!? いきなり手を離すなぁぁぁ!!!」


「! ……」

 クオンが何やら怖い顔を一瞬見せた。

 そしてそのまま、部屋を後にしようとする。


「? クオン、どこ行くんだ?」

「いえ……ちょっと」

 彼女にしては歯切れの悪い言葉を残し、部屋を出て行ったのであった。

「なんだろ?」





 グローリアの新居を高台から見下ろす人物がいた。数は二名。

 一人は先ほどグローリアが対峙していた、ブリガンダイン家に仕える老執事のセバスチャン。

 もう一人は重装備に身を包んだ、一目で只者では無いと分かる屈強な戦士であった。


「ギルドのパトロンであること……それすなわち、冒険者とのパイプがあるということ。お嬢様……このセバスチャン、もう手段は問いませんぞ」

 セバスチャンが隣の男を見やる。

「やってくれるな、猛虎よ」

「任せろ……おてんばお嬢様を家に連れ戻せばいいんだろう?」

 猛虎と呼ばれた男が小さく頷く。


「”猛虎”ティガー・ヒルデブラント……冒険者ランク、ドラゴン級の強者。ゴーレム級のお嬢様でも、この男には敵いますまい」

 男はどうやら相当なやり手らしい。

 ドラゴン級と言えば冒険者ランクでは上から二番目。

 魔王軍討伐の命を受けたジークフリートと同等の戦士ということだ。


「ほう、この距離でも俺の殺気に気付くヤツが居るか」

 ティガーが屋敷の正門に目を向けると、そこにはクオンの姿があった。

 両手にはそれぞれダガーを携えている。

「……………」


「ただのメイドじゃあなさそうだ。強いな?」

「クオン……彼女は強く、そしてお嬢様に献身的だ。出来れば無傷で抑えて欲しいものだが……」

「無茶言う。追加料金を発生させるぞ。他に敵はいないんだな?」

 ティガーがセバスチャンに確認する。

「あとイクサバアサヒだったか……あの少年がお嬢様をたぶらかしたに違いない。そうだな、彼にも少々痛い目を見せて……」


 次の瞬間だった。


 ティガーとセバスチャンの首が同時に飛んだ。


 否、首が飛んだと錯覚した。


「「!!?」」

 二人の身体中から、どっと汗が噴き出す。

 同時に背後を振り返る。


 するとそこには、真夜の姿があった。

「…………私の弟を、なんだって?」

「「!! ……」」

 真夜が殺気を飛ばし、二人に死を悟らせたのだ。

 ティガーとセバスチャン、どちらも達人だからこそ感じ取ることが出来た、明確な死のイメージを。


「…………セバスチャンさん。腹痛くなってきたから帰っていいっすか?」

「奇遇だな、猛虎よ……私もお腹が痛くなってきた」

 二人はくるりと回れ右をした。

「お嬢様のことはしばらく静観しようと思う」

「それがいい、うん。独り立ちをむしろ喜ぼう、うん」

 そんなことを言い残しながら、ティガーとセバスチャンは脱兎の如く走り去っていった。


「過保護はよくない」


 真夜はそう呟くと、彼女もまた踵を返し、その場を去っていったのであった。

 まるで死に神のような出方と去り方である。

 

 その一部始終を屋敷の正門前から遠巻きに見ていたクオン。

「アサヒ氏の姉……やはり只者では無い。闘技場で隣にいた女性の威圧感に私は気圧されたが、それ以上に、アサヒ氏の姉には底知れないものを感じていた」

 グローリアと朝陽が闘技場で戦った際、クオンは真夜とキルマリアを監視していた。

 そのときはキルマリアの発した圧に屈したのだが、真夜の力の膨大さも同時に勘づいてはいたようだ。

「しかし”過保護はよくない”ですか……それ、ギャグですか?」

 クオンは屋敷の中へと戻っていった。


 居間へ向かうと、グローリアが朝陽に紅茶のおかわりを勧めていた。

「ささ、アサヒ! 紅茶のおかわりをどうぞ! お茶請けのお菓子もありますわよ!」

「うぷ…も、もう12杯目なんだけど……」

「あ! クオン! どこへ行っていましたの!?」

「え? えーと、私はお花を摘みに…」


 グローリアはクオンに近付くと、朝陽に聞き取られぬよう小声で話しかけた。

「二人だけでは間が持たないから、こうしてアサヒに紅茶を注ぎまくっていましたのよ!?」

「腹パンパンじゃないですか、アサヒ氏」

「クオンだけが頼りですのよ!? アサヒを我が家に留めておく妙案を!」

「…………ふ」

 

 真剣な表情で自分を頼ってくるグローリアを見て、クオンはフッと笑みをこぼした。

 めったに笑うことがない彼女が見せたその笑顔は、とても朗らかなものであった。


 そしてクオンは提案する。

「では、アサヒ氏がこの屋敷に頻繁に出入りするようになる理由を作ってみては?」

「理由? と言うと?」

 クオンは二人に向けて、こう言った。


「クランを作って、この屋敷を拠点にするんです」


「「クラン?」」


 クオンの突飛な提案に、目を丸くする二人であった。

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