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わたくしは家を出ますの

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~4巻発売中です。

「はぁ、はぁ…重ぉ……こんなに何を入れてんだか、あのお嬢様」


 重量感のある木箱を担いで、大きな屋敷の前に止まっている馬車の荷台に載せる。

「これで全部か? クオン」

「ありがとうございます、アサヒ氏。荷物はこれで全部です」

 俺より背丈の低い華奢なメイド少女が、軽々しく俺から木箱を受け取る。

 男の子としてのプライドがもうズタボロですよ。


 俺は今、引っ越しのバイト中なのだ。

 誰の引っ越しかというと、それはグローリア・ブリガンダインのだ。

 彼女、なんと一人暮らしを始めるのだという。


「しっかしこんな豪邸にメイド付きで住んでるのに、なんで一人暮らしなんて始めるのかね」

「一人暮らしと言いますか、厳密には私との二人暮らしですが」

 クオンがそう言う。

「もしかしてアレ? より自分を厳しい環境に置くことで人間的な成長を促す…とか?」

「お嬢にそんな深い考えはありませんよ。詳しいことはお嬢が来たら説明を……来ました」

「お、グローリア……って、なにあれ!?」


 振り返ると、グローリアがこちらに近付いてきていた。

 何人ものメイドを引きずりながら、それはもうパワフルに。


「お待ち下さい、お嬢様!」

「もう一度お考えを!」

「凄いパワー! 止まらないぃぃぃ!」

 メイドたちはどうやら引き留めようとしているらしい。

 しかしグローリアは猛牛の如き勢いで、止まる気配がない。さすがSTR全振り脳筋お嬢様。


「わたくしは家を出ますの! 止めないでくださいまし!」

 そう叫んでは、メイドをちぎっては投げ、ちぎっては投げする。


 その言葉を聞いて困惑する。

「な、なんだこの騒ぎ? グローリアが一人暮らしを始めるから荷造り手伝って…じゃなかったっけ!? まるで夜逃げじゃん!」

「まあ似たようなものです。有り体に言えば家出ですが」

「家出と自立は全然違うだろ!?」


 俺とクオンの姿を見るなり、険しい顔から一転、笑顔を見せるグローリア。

「あら! アサヒ! 手伝いに来てくださったんですの!?」

「あ、ああ、クオンに頼まれて……」

「よし、では行きましょう! クオン、馬車を出しなさい!」

「え、いいのか?」


 門が開かれようとしたそのとき、一人の人物が俺たちの前に立ち塞がった。

「お嬢様……ワガママはおやめください」

 執事だろうか、白髪に整ったヒゲを蓄えたスーツ姿の老紳士だ。


「セバスチャンっぽい執事だ…」

 俺がボソリとそう呟く。

「セバスチャン」

 グローリアもポツリとそう呟く。いやホントに名前セバスチャンだったんかい!

 

「旦那様はお嬢様が心配なのですよ。冒険者の真似事などせず、令嬢らしく……」

「ドレスに身を纏い、社交ダンスやお茶会に勤しめと言うのでしょう? 冗ッ談じゃありませんわ! そんな退屈な人生! それにわたくしは今やゴーレム級、真似事などではありませんわ!」

 言い争いをする二人。


「…とまあ、ブリガンダイン家はお嬢の冒険者稼業を反対しているわけです」

 クオンがそう言う。

「なるほど、それで反抗して家出……わかりやすい展開だ。まあ令嬢が大剣振り回してる方がおかしいか」

「お嬢は独断で闘技場貸し切りとかもしましたし、そりゃ親御さんの反感も買うというものです」


 グローリアが剣を構える。

「セバスチャンと言えど、止めるようなら容赦は……ハッ!」

 自身の剣の異変に気付く。

 いつの間にか、グローリアの大剣に何重もの糸が張り巡らされていたのだ。


 セバスチャンがほくそ笑む。

「まだまだですな……会話に気を取られ、私の初撃にさえ気付かぬなど」


 セバスチャンが構える。

 両手には革手袋がはめられ、その先からは幾重もの鉄鋼線が伸びていた。

「泣きますぞ? ゴーレム級の肩書きが」


「鋼線使いだあああ!! 強者にしか許されない特殊武器ぃぃぃ!!!」

 ヘルシ○グのウ○ルターよろしくなその立ち振る舞いに、興奮を隠せないオタクがいた。

 いたというか、俺だ。

「テンション高っ」

 クオンが真顔で冷淡にツッコミを入れる。


「さあ、どうします? お嬢さ……あれ?」

 気付いたら、セバスチャンは天地逆になって空中に浮かんでいた。

「どりゃあああですわああああ!!!」

 糸で拘束されているのもなんのその、グローリアが糸とセバスチャンごと、大剣をジャイアントスイングの要領でブンブンと振り回し始めたのだ。

「おおおおおおおおお!!!?」


 遠心力でもって吹き飛ばされたセバスチャンは、庭の池に勢いよく落とされてしまった。

「な、なんつーパワー……」

 俺は苦笑いを浮かべた。こんな娘を持ったら、そりゃ親御さんも苦労が絶えませんよ。


「行きますわよ二人とも! 家出ですわ、家出!」

「お、俺も? なんか気付いたら巻き込まれてるな、俺って毎回……」

 ただ多めにバイト料も貰っているし、ここで投げ出すのも気持ちが悪い。

 俺はグローリアたちに付き合うことにした。


 馬車の御者台に乗ろうとするクオンに対し、池から這い出てきた執事が話しかける。

「ク、クオンよ…」

 無言のまま振り返るクオン。

「お前ならばお嬢様を止められるだろう。説得を……」

 しかしクオンは顔色一つ変えずに、こう言った。


「やりたいようにやってほしいだけです。私はお嬢に」


 俺たち三人は馬車に乗り込み、ブリガンダイン家を後にしたのであった。

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