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スライム大水害

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~3巻発売中です。

 浸水ならぬ、浸スライム状態に陥ったエピファネイア。

 スライムの襲撃に気を付けながら大通りへと向かうと、そこはすでにパニックと化していた。


 逃げ惑う人、高台に避難する人、スライムに襲われている人……方方から悲鳴が聞こえている。

 スライムは雑魚の代名詞的存在だが、しかし一般市民にとっては十分魔物。厄介な相手には違いない。


「冒険者たちは剣を取れ! 兵士たちと共に住民を守るぞ!」

「おお!」

「わかったわ!」

 ギルドに所属している冒険者や国の兵士たちが、それぞれ武器や魔法を駆使して、湧き出るスライムを退治している。

 同胞たちの活躍、なんとも頼もしい限りだ。


「街中が大騒ぎになっているな……」

 マヤ姉がつぶやく。

「街を覆うほどのスライムなんぞ、わらわでも見たことがないのう」

「そうなの? 魔王軍なのに?」

「魔王軍と言っても、わらわは単独行動ばかりしておるはぐれ者じゃからのう。カッカッカ!」

 そう言って笑うはぐれ魔王六将。ちなみに街へ出てきているので、認識阻害の魔術で町娘の姿に扮している。


「ひゃ! うひゃ! やめるっすよー!」

 聞き覚えのある声がした。

「この声、ターニャか!?」

 声のした方へ向かうと、ターニャが何とも艶めかしい様子でスライムに捕縛されていた。

 ヌルヌルの触手が身体中にまとわりついている。

 端的に言って、とてもえっちである。


「ヌルヌルやめてー! アサヒくん、助けてぇー!」

「お、おう、任せろ!」

 まだ眺めていたい気持ちも若干あったが、こんなセンシティブな状態の友人を放ってはおけないだろう。

 俺は触手を剣で切り払うと、ヌルヌル状態のターニャを高台へと避難させた。

「アサヒくん! ありがとぉー!」

 オタクに優しいタイプのギャルらしく、ハグして感謝を伝えようとしてきたので、俺は彼女の額を手で抑え付けて静止させた。

「よ、寄んなって! ヌルヌルがつく!」

「わっ、ひどっ!」

 さすがにマヤ姉やキルマリアがいる前で抱きつかれるのは恥ずかしいからな。


「ターニャだったか? この事態、冒険者ギルドではどこまで把握しているんだ?」

 マヤ姉がターニャに問う。思えばこの二人の絡み、今まで見たことなかったような。

「あ、はい! 首都エピファネイアの一区画……あたしたちの住むこの市民街が主な水害区域っす!」

「水害って言うか、これ、スライムだろ?」

「シーザリオ王国の古い文献に、過去に同じような災害が起こったことが記されていたんです……」

 ターニャは真剣な面持ちで言った。


「その名も、”スライム大水害”!」


「スライム大水害……!?」

 俺はその名前を繰り返し口にする。

「水を吸収して大きくなる特性の、幻スライムがいるそうなんすよ! スーパーレアの!」

「なるほど。そのスライムが最近の豪雨の影響で巨大化し、こうして街を覆ってしまったわけか」

「はい、そういうことです!」

 状況を把握する。

「急いでギルドへ戻って、対策会議に参加しなきゃ! じゃあね、アサヒくん! ありがとね!」

 再び礼を言うと、ターニャは忙しない様子でギルドへと走っていった。


「スライム大水害か……さすが異世界、そういうのもあるのか」

 非常事態に不謹慎かもしれないが、俺は少しワクワクしていた。

 現実世界ではまずお目にかかれない災害だから。

「だが、この水害がモンスターの仕業と言うのならば、対処は容易いな」

 マヤ姉はフッと笑った。

「え? 対処ってどういう…」


 マヤ姉が魔方陣を展開する。

「私の『姉サンダー』で根こそぎ吹き飛ばしてやろう!」

 俺はマヤ姉の懐に飛び込むと、ラガーマンばりのタックルを食らわせ制止させた。

「やめろぉぉぉ! 街の人全員を感電死させる気かぁぁぁ!」

 スライム伝いに何百万ボルトもの電流が流れたら、住民全員死んでしまうわ!


「そうじゃぞ、マヤ」

 キルマリアが両手を天に掲げる。

 すると、地獄の業火を纏った巨大な火球が出現した。

「幻のスライムとは面白そうな相手! わらわの炎で焼き尽くしてくれる!」

 俺はキルマリアの元へ猛ダッシュをすると、後ろから柔道部ばりに羽交い締めをした。

「キルマリアもやめろぉぉぉ! 街が火の海になるわぁぁぁ!」

 スライムだけじゃなく、街の建造物まで灰になるわ!


「なんだ、ダメか。残念だ」

「なんじゃい、戦いたかったのう」

「はぁ、はぁ……トンデモ姉さん方の制御、クッソ疲れる……!」

 この二人なら超ビッグサイズのスーパーレアスライムだろうとそりゃ瞬殺できるだろうけど、その代償に街が壊滅しかねない。

 マヤ姉とキルマリアに何かをさせてはいけない。この危局、人間たちだけで乗り越えねば!

 (マヤ姉は一応、れっきとした人間だけども)


「俺、もっと街の様子を見てくるから、二人は何もせず大人しくしてて! いいね!」

「わかった。朝陽がそう言うなら」

「仕方ないのう」

 しぶしぶ了承する二人に見送られ、俺は広場へと向かった。


 

 広場に近付くと、冒険者たちの戸惑いの声が聞こえてきた。

「ど、どうすれば倒せるんだ!? こいつ!?」

「誰か炎魔法使えませんかー!」

「ひ、ひるむな! 戦え! 俺たちが街を守るんだ!」

 冒険者たちの視線の先では、二階建ての建物と同じくらいのサイズの、巨躯のスライムが立ち塞がっていた。

 スライムの体内には、倒壊した建物の破片や山から流れてきたであろう木々に岩、タルなどがプカプカと漂っていた。


「で、でかい……! もしかしてコイツが大水害の大元……!?」

 冒険者たちが剣や魔法で攻撃をするも、ビクともしない。

 巨大スライムが体に内包していた岩やタルを冒険者めがけて射出してくる。

「うわぁ!」

「ぎゃん!」

 その攻撃を受け、並み居る冒険者たちが次々と倒されていく。

「あ、危ない! 『エスケープ』!!」

 俺はスキルを使い、すんでのところで飛んできた岩石をかわす。


 これはまずい、今まで戦ってきたモンスターの中でも上位の強さかもしれない。

 恐怖に駆られた冒険者の何人かは、武器を捨てて逃げ出している。

 今回はマヤ姉やキルマリアに頼らないという、先程立てた誓いをさっそく破りたくなってきた。


 どぷっどぷっという音を立て、誰かが背後から近付いてくる。

「この剣、借りるよ」

 その人物は、他の冒険者らが捨てていった剣を拾い上げると、まるで散歩でもするかのように悠々とスライムに歩み寄っていった。


「ジークさん!?」

 それはジークフリートさんであった。

 ドラゴン級の戦士だったけど、最近は酒にギャンブルにと隠居生活を謳歌している人だ。


 スライムがジークさんめがけて、大岩を射出してくる。

「ふっ!」

 しかしその岩を両断するジークさん。

 以前、素手でならず者を倒した光景は見たけれど、剣技は初めて見る。


「いくよ?」

 ジークさんが持つ剣の切っ先が、魔力を帯びてゆらゆらと揺らめき始める。


「『アストラルブレード』!」


 目にも止まらぬスピードで対象を切り刻むと、スライムは内側から爆発し、木っ端微塵になった。

 強い……他の冒険者が苦戦していた巨大スライムを瞬殺してしまった。

「おっと……安物の剣じゃあ耐えきれなかったか。勝手に壊して悪いことしちゃったかな」

 ジークさんの技に剣が耐えきれなかったのだろう、刃がボロボロになっている。


「つ、強い…! さすが腐ってもドラゴン級!」

「勝手に腐らせないで、アサヒくん! いや、酒やギャンブルに溺れまくってるけども!」

 戦っているとき以外は結構お茶目なジークさんだ。

 いやしかし、こんなに強いジークさんを自信喪失レベルまでボッコボコにした魔王軍って、一体どれほど強いんだろう。なるべく出会いたくないものである。


「今ので水害の元は絶ったんですか?」

「いや。この手の巨大スライムとは何度か戦ったことがあるけど、身体を形成しているコアを叩かないとダメだね」

「なるほど、コア」

 再び巨大なスライムが地面から出現する。今度は二体だ。


 ジークさんは水面に浮いている剣を適当に拾い上げる。

「ここは僕に任せて。アサヒくんはコアを探して破壊するんだ」

「わ、わかりました! でも一人で大丈夫ですか?」

「ははっ、腐ってもドラゴン級だよ。……この程度、造作も無いさ」

 ジークさんの周囲に、ユラッとオーラが漂い始める。


 マヤ姉やキルマリアで感覚が鈍っているけど、この人も十二分に超人なんだよなぁ。

 俺は踵を返すと、コアを探すため広場を後にした。


「さて……ジークフリート、参る!」


 どぷっどぷっと音を立てながら、浸水した街を走る。

「スライムの中にコアがある…それを探して破壊する……ん? スライムの中!?」

 俺はとあることに気付いた。


「街中から探し出せってこと!? キツくない!?」

 スライム退治の方がまだ何倍も楽と思える高難度ミッションを請け負ってしまった俺であった。



 浸水した街を、王宮の高台から見下ろす人物が二人いた。


「一般市民の危機だというのに、貴族たちは我関せず……」

「下町の小さな混乱と思っているのでしょう。貴族街は高台にありますから」

「持ち合わせいませんわ! ノブレスオブリージュの精神を!」

「……ということは?」


「行きますわよ、クオン! 市民たちを救わねば!」

「はい、お嬢」


 それはブリガンダイン家の令嬢グローリアと、そのお付きであるクオンであった。

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