大雨が続いているな
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~3巻発売中です。
ここ数日、シーザリオ王国は豪雨に見舞われていた。
「ずっと大雨が続いているな……これで三日目だ。洗濯物が出せなくて困る」
家の中から窓越しに外の様子を眺め、マヤ姉が独りごちる。
「外に出られんから退屈じゃのう」
キルマリアがテーブルに頬杖をつきながら、そうぼやく。
当然のように家にいる魔王六将に、もはや俺もマヤ姉もツッコミはしない。
「だなぁ」
相槌を打つ。このやり取りも三日目だ、そりゃあ相槌も適当になる。
「ヒマだし、ステータスでも確認しとくか」
俺はステータス画面を開いた。そこで、ある項目が変化していることに気付く。
「あれ!?」
「どうしたんじゃ、アサヒ」
「俺のスキル『投石』がレベル2に上がってるんだ!」
俺のジョブ”ファイター”にデフォルトで実装されていた『投石』が、レベル2に変わっていたのだ。
「ずっとコツコツ使ってきたもんなぁ……熟練度が溜まってたんだ」
「フッ、”水滴石を穿つ”というヤツだな。朝陽、おめでとう」
マヤ姉がフッと笑う。
「レベル2になったら何が変わるんじゃろうな」
「石の大きさ? 投擲距離か?」
「早く試してみたいなー」
「そうだな、晴れたら外で試そう」
その時の俺たちは知る由も無かった。
この豪雨の中、外を徘徊する一匹のスライムによって、街が大混乱に見舞われることなど……
☆
翌日。
昨日までの長雨が嘘のように、空がカラッと晴れ渡っている。
「やっと晴れた!」
「カッカッカ、久しぶりに外に出れるのう」
「さて、私は洗濯をするとしよう」
俺たちは玄関を開け、外へと出た。
玄関先から見える光景に驚く。
辺り一面水浸しになっており、地面が見えないのだ。
「うわ! 街中浸水してるよ!?」
「川が氾濫したのか」
石や木々、どこからか流れてきたのだろうタルなどがプカプカと浮かんでいる。
ただ幸い、浸水高はそれほどないようだ。足首が隠れるくらい、20センチといったところか。
俺は一歩足を踏み出した。
ブニョ。
「え?」
予想外の感触に思わず声が出る。
妙に柔らかく、粘着性があるのだ、この浸水。
次の瞬間だった。
水が触手のように変化し、俺の脚に絡まる。そしてそのまま俺を持ち上げる。
「うわぁ!? なんだ!?」
俺は逆さまになった状態で叫んだ。
「朝陽を放せ! 『姉ウインドカッター』!」
マヤ姉が、また珍な魔法名の風の刃を放つ。
俺を掴んでいたスライムを一刀両断。俺はそのまま、地面へと落ちた。
ドプン。
数メートルの高さから地面に落ちた俺だったが、まったく痛くない。
なぜなら、浸水した水がやはり柔らかかったから。
「痛くない……柔らかい!? これ、水じゃないのか!?」
地面に顔を付けた状態で落ちたのがまずかった。
水は再び意思を持っているかのように動き出すと、俺の顔を覆うようにへばり付いた。
「がぼごぼがぼぉ!」
水球が俺の顔を包む。
まずい、息が出来ない。
スパイ○ーマンで言うところの、ミステ○オ状態だ。
もしくはHU○TER×HUN○ERで言うところのブリオ○。
とか言ってる場合じゃない。
マジで息が出来ないんですけど!?
「朝陽!」
「アサヒ!」
マヤ姉とキルマリアが同時に声を上げる。
そうだ、俺には無敵な姉さんズがいたんだった。
この2人なら何とかしてくれるだろう。
「ようし! 今度はわらわが助ける番じゃな! そんな水球、蒸発させてくれる!」
「いや! 朝陽を助けるのは私だ!」
そう言いながら、二人が魔法で巨大な火球を出現させている。
「がぼごぼがぼがばあああああ!!」
やめろぉぉぉ!
俺のアタマが吹っ飛ぶわ!!!
この二人に任せていたら俺の命がより危ない。
俺は自分で解決しようと、まずは冷静に努めた。
そうだ……このブヨブヨとした感触には覚えがある。
もしこの水が”あれ”なら……”あのモンスター”ならば、これは敵判定に当たる。
つまりは戦闘状態ということになる。
ならば、俺が持つ”あのスキル”が有効のはず!
「『エスケープ』!!」
俺は戦闘離脱スキル、『エスケープ』を発動した。
狙い通り。
その場に水球だけを置き去りにし、俺は五体満足のまま、マヤ姉とキルマリアがいる玄関先へと移動することが出来た。
「はあ、はあ、成功した…!」
「おお、アサヒ。自力で抜け出してきたか」
水球がドブンと鈍い音を立て、浸水した地面に落ち、そのままズブズブと溶け込んでいく。
「これは……水じゃないのか? 朝陽、この水は一体……?」
俺は呼吸を整えながら、マヤ姉の問いに答える。
「はあ、はあ……こ、この浸水の正体が分かったよ。これはただの川の水じゃない」
「スライムだ!」
シーザリオ王国の首都エピファネイアを襲った浸水被害。
街中を覆うこの浸水は、すべてスライムであった。