石になってもカワイイ
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ最新3巻が3/12に発売となりました。どうぞよろしくお願いします!
ある日のことであった。
俺とマヤ姉はクエストで、古代の財宝が眠るとされるダンジョンへと赴いていた。
ダンジョンの最終地点に辿り着くと、なるほど、金銀の詰まった宝箱が置かれてあった。
「あったよマヤ姉! これがきっと、オブライエン家の古代の財宝ってヤツだ」
「それを回収して、今のオブライエン家当主に届ければ依頼完了だったか。朝陽」
「うん。先祖がダンジョンに保管した隠し財産を取ってきてくれなんて、おかしな依頼だよ」
「罠やモンスターもあったからな、自力では取りに来られなかったんだろう」
俺は宝箱に手をかけた。
するとゴゴゴと、ダンジョン内に地響きが起こる。
「な、なんだ!? 地震!?」
「いや、これは……何者かの敵意を感じるぞ」
「敵意って、敵なんてどこにも……」
次の瞬間、宝箱の背後にあった壁から、巨大な顔と両腕が生えてきた。
顔だけで2メートルほどあり、それがガーゴイルのような形相をしている。
「どわ!? デカい顔ぉ!?」
それだけではなかった。
壁が動き、こちらに猛スピードで迫ってきたのだ。
「うわあああ! 迫り来る壁かよぉぉぉ!?」
FFのデモン○ウォールさながら、俺たちを押し潰さんと迫り来る壁。
俺とマヤ姉はダッシュでその場から逃げ出した。
「早く逃げないと潰されちまうぅぅぅ!」
オブライエン家現当主がクエスト依頼をした理由がやっとわかった。
“こいつ”が財宝を守っていると知っていたからだ。
事前に一言伝えてくださいよ!
いやまあ、伝えられていたら絶対に依頼は受けないけども!
マヤ姉がクルッと反転する。
「マヤ姉!?」
迫り来る壁に対し、拳を構える。
「『姉ナックル』!!」
何の事はない、マヤ姉のパンチである。
しかしそのパンチが強烈にして激烈。
一撃で壁を粉々にしてしまった。
「朝陽を驚かせた罰だ。土に還るがいい」
降り注ぐ岩石を見ながら、そう呟くマヤ姉。
「財宝を守る古代の怪物もワンパンですか、そうですか……」
長いこと財宝を守ってきた末路がこれとは、不憫にさえ思えてきた。
戦いの音を聞きつけたのか、トカゲ型のモンスターが数匹こちらへとやってきた。
「音に反応して、モンスターがやって来たようだな」
「トカゲか……大きさもそんなでもないし、たぶん雑魚だね」
剣を構える。マヤ姉だけを働かせられない。
「俺に任せてよ!」
そんな俺の機先を制するように、トカゲが大きく目を見開き、カッとまばゆい光を発した。
「うわ!? 眩しい!!」
俺のフラッシュのような、目眩ましの技だろうか。
「あれ、身体が何かおかしい……うわ!?」
急に脚元がおぼつかなくなって転びそうになる。
しかし転ばなかった。いや、転ぶことを許されなかった。
なぜなら、俺の脚が石になっていたからだ。
「なっ!? こ、これは……石化!?」
「あ、朝陽!? 大丈夫か!?」
弟の足が石になっていくのだ、さすがのマヤ姉も焦っている様子だ。
石化が徐々に上へと迫り上がってくる。
太もも、腰、腹、胸元、どんどん石化していく。
そこで俺はトカゲの正体に気付く。
このトカゲはバジリスクだったのだ。
視線で相手を石化させることが出来る、ゲームでも非常に厄介な相手だ。
某ゲームでは金の針で治せる石化だけれど、しかしなんで針で石化を治せるんだろう。針治療的なヤツかな……でも石になったら針も通さないのでは……などとどうでもいいことを考えている間に、俺は全身きれいに石化してしまった。
「よくも朝陽を!」
マヤ姉がバジリスクたちを魔法で吹き飛ばす。
無論、一撃でバジリスクたちは消し炭になってしまった。
「なんてことだ! 朝陽が石になってしまうなんて!!」
石化した俺の周囲をクルクルと回りながら、思考を張り巡らせている。
「混乱の状態異常は衝撃を与えれば治ったが、石化で刺激は御法度か……うっかり崩してしまえば、命に関わるかもしれない。時間経過で治る? いや、そんな悠長なことは言っていられない。どうすればいいんだ……?」
モンスター相手には無敵のチート姉さんも、さすがにこういう事態には不慣れなのだろう。
困っている様子だ。
と思ったが、マヤ姉は一転表情を変えた。
石化した俺の顔をまじまじと眺め出す。
「それにしても朝陽は石になってもカワイイな。精巧に作られた芸術品さながらの美だ…!」
うっとり頬を染めながらそう呟く。
そんなこと言ってる場合じゃないんですけどね!?
そこで俺も、驚きの事実に気付く。
マヤ姉の行動に対し、脳内でツッコミをいれられている事実だ。
なんてことだ……
俺、石化してても意識はあるんですけど!?
視界も良好!!
どういうこと!?