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純白のヤツ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~2巻発売中、3月中旬に3巻発売予定です。

 俺こと軍場朝陽と、グローリア、クオンの三人は、鬱蒼とした森の中を歩いていた。


「迷いの森……そう呼ばれているようですわ」

 グローリアが口を開く。

「最近、この森で冒険者の失踪事件が続いていますの。その原因を探るクエストをわたくしとクオンで受注していたのですが、アサヒさんにも調査に同行してもらいます」

「そこで俺の実力を再度精査するってわけか」

「ええ、そういうことです!」


 グローリアとクオンが並んで歩き、俺は少し遅れてその後ろを歩く。

 前にいる二人が何やら小声で会話をしている。

「お嬢、どういうつもりです? 今日はアサヒ氏をお茶に誘うだけの計画だったのでは?」

「ふっ、わからない? クオン」


「二人仲良く森の中をお散歩! これは言わばデートですわ!」

「いや私もいますし。デートと言うにはめちゃ物騒な場所ですし」

 グローリアが拳を高らかと上げ、何かを喋っている。

 隣にいるクオンは、冷めた表情でツッコミを入れているようだ。

 俺は少し離れた後方を歩いているため、会話の内容までは聞こえない。

 うーむ、難聴系ラノベ主人公になった気分だ。


「ならアサヒ氏に、お嬢の可愛いところを見せましょうよ」

「ど、どのようにですの? クオン」

「ここは迷いの森……それを口実に、迷わぬように手を繋ごうと提案するんです」

「なるほど! 天才ですわ!」

 会話を終えたグローリアが、こちらに歩み寄ってくる。


「ア、アサ、アサヒ…!」

「どうした、グローリア?」

 心なしか顔が赤く鼻息も荒い。なんだ、なんなんだ。

「あの、て、てて…」

「?」

「はぐれないように手を繋ぎましょう!」

 グローリアが思いっきり手を掴んでくる。バキボキと鈍い音を鳴らす我が手。

「いったぁぁぁ!!!」

 俺は手を押さえながらその場にうずくまった。

 リンゴも簡単に握りつぶせそうな腕力してないか、この令嬢!?


「ダメでしたわ! 他に妙案は!?」

「男子は皆、ホラーを怖がる女の子好き……怖がるふりして抱きつきましょう」

「よし! きゃ、きゃー! 暗くて怖いですわー(棒読み)」

 今度は後ろからサバ折りしてくる。バキボキと鈍い音を鳴らす我が肢体。

「ぎゃあああ!!!」

 俺は地面に倒れた。

 マヤ姉ほどではないにしても、腕力強すぎませんか、この脳筋お嬢様!?

「またダメでしたわー! クオーン!」

「脳筋すぎる…」



 そんなやり取りをしながら、森の奥へと歩みを進める。

 どんどん視界が悪くなっていく。昼なのにまるで夜のような暗さだ。

 すえた匂いもしていて、気分が悪くなってくる。

「不穏な空気ですわね……視界も悪いですわ」

「灯りなら任せてくれ。『フラッシュ』!」

 俺はフラッシュを、正しく探索魔法として使用した。


 すると周囲に、木の根に囚われた冒険者らが多数居ることに気付く。

「こ、これは!? 行方不明になっていた冒険者たち!?」

「木の根っこに囚われている!?」

 俺とグローリアが声を上げる。

 地面に横たわっている者、木に縛り付けられている者、宙づりにされている者。

 皆、かろうじてまだ息はあるようだ。


 ドオオオッという大きな音を立て、一際大きい大樹が迫り来る。

 その大樹は、幹の部分に大きな顔がついていた。鬼のような形相である。

「う、うわああ!? 木の化け物!? トレント!?」

「どうやらこの大樹が失踪事件の犯人のようですわね!」

「人間たちを縛り付け、木の根から生気を吸っていたんでしょう」

 俺たち三人は武器を構えた。


 トレントの咆吼を聞きつけ、オバケキノコやキラービーなどのモンスターも集まってくる。

「周囲の掃除は私にお任せを」

 クオンがダガー二刀流で迎え撃つ。

 このメイドの強さは、俺は当然として、グローリアよりも上かもと思わせるほど底知れないものだ。多対一でも心配は要らないだろう。

「ああ、頼む」

「わたくしとアサヒはトレントを叩きますわ!」


 闘技場では相対した者同士だが、こうして肩を並べて戦うとなるとこれほど頼りになる戦士もそういない。

 昨日の敵は今日の友、このシチュエーション、ベタだけどたまらないな。

「共同作業だな! よろしく、グローリア!」

 俺がそう言うと、グローリアは顔を赤らめた。

「は、はは、初めての共同作業!? ケーキ入刀!?」

 発汗が激しくなり、目もグルグルしている。

 なんだ。俺、なにかおかしなこと言った?


 隙だらけになったグローリアに、トレントの巨大な腕が襲いかかる。

 無警戒だったグローリアはあえなくトレントに掴まれ、宙へと舞い上げられてしまった。

「しまっ……油断しましたわ!」

「グローリア!」

「お嬢!」


 俺とクオンが、同時にグローリアに目を向ける。

「「あ」」

 そして同時に声を上げる。


「へ? なんですの、そのリアクション。アサヒは頬を染めて目を逸らし……え?」


 グローリアは自分の体勢に気付いた。

 トレントに吊り上げられたグローリアは逆さになり、その、スカートの中が丸見えになっていた。

 いわゆるパンモロというヤツである。

 うーん、目のやり場にめちゃくちゃ困る。


「ひいやああああああ!!」

 パニックに陥ったグローリアは、自慢の腕力でトレントの腕をブチブチと引きちぎると、すかさず大剣を振るった。


「必殺!『ノーブルローズブレイド』ぉぉぉ!!」


 バラの花びら舞う強烈な奥義を繰り出し、トレントを真っ二つにする。

 いやはや、恐ろしい女騎士である。



 ブリガンダイン家の豪邸へと戻ったグローリアとクオン。

 グローリアはと言うと、天蓋付きの自分のベッドでうずくまり呆けていた。

「はぁ……アサヒと親睦を深めるはずが、散々な目に遭いましたわ……」

 彼女付きのメイドであるクオンは、そんな主人の落ち込む姿を見て、やれやれといった感じで溜息をこぼしている。

「アサヒ氏の記憶にはバッチリ残ったと思いますよ、お嬢」

「そ、そうかしら!?」


「純白のヤツが」

「下着の話は忘れて欲しいですわあああ!」


 布団を被って、おんおんと泣くグローリアであった。

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