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こんなところで奇遇ですわね

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~2巻発売中、3月中旬に3巻発売予定です。

 卓を挟んで、マヤ姉とキルマリアが睨み合っている。

 ざわ…ざわ…という効果音が聞こえてきそうな程、剣呑な雰囲気である。


「カッカッカ! 忘れたのかえ? わらわは”壊乱のキルマリア”……場を乱すことがわらわの真骨頂ぞ?」

 キルマリアが居丈高にそう言う。

「それもブラフだろう。二度は食わない、その手は」

 対するマヤ姉は冷静沈着。何者にも心乱されぬ鉄の意思を感じる。


「「勝負!」」


 二人は同時に、5枚のカードを卓上に出した。

 そのカードはトランプであった。

 どうやらこの二人、ポーカー勝負をしていたようである。


「フォーカードとフラッシュ! またわらわの勝ちじゃな! ナハハハ!」

 フォーカードを出したキルマリアがガッツポーズを見せる。

「ぐぬぬ……また負けただと……!?」

 一方マヤ姉は、ほぞを噛む。

「今日も平和だなぁ」

 そんな二人を、俺は半ば呆れながら眺めていた。

 ここまでは平和だが、俺は知っている。

 最終的にこの二人、怪獣大戦争レベルの殴り合いを始めるんだ。

 近くにいたら絶対に巻き込まれる。


「ちょっと待て! お前、イカサマしてるんじゃないのか!?」

「はいはい出たのう、言いがかりが! カッカッカ、おぬしが弱いだけじゃろう!? マヤくんさぁ!?」

 めちゃくちゃ煽りよる。

「お、俺、ちょっと散歩行ってくる……」

 巻き込まれる前に、俺は家を出て街へと向かった。



 シーザリオ王国の首都エピファネイア。

 この街が俺たち姉弟の拠点だ。


 ここに異世界転生してきてから、思えば結構な日数が経ったものだ。

 いや、現実世界では死んでいないようだから、正確に言えば召喚か。

 そうだよな、転生だったら俺ももっと都合良く強くてよかったはず。


 そんなことを思いながら通りを歩いていると、何者かが建物の陰から飛び出してきた。

「うおっ!?」

 あまりの勢いに驚くも、その人物はとても見覚えがある子だった。


「ごご、ごきげんよう!」


 それは以前、闘技場で雌雄を決した相手、グローリア・ブリガンダインであった。


「こ、こんなところで奇遇ですわね! アサヒ!」

「グローリア!?」

「お、覚えて頂いていて、ここ、光栄ですわ」

「そりゃまあ……忘れられないよ」

 これだけ濃いキャラ、そうそう忘れられるわけがない。

 お嬢様で、脳筋で、何より一度戦った相手だ。


「わ、わわ、忘れられない…!? そ、それはその、あの……もしかしてわたくしのことを……!?」

 グローリアは何やら顔を真っ赤にしている。

 発汗もスゴい。

 なんだろう、風邪でも引いているのかな。

 というか、頭の上から湯気まで立ちこめ始めたんですけど。


「はわわ……!」

「だ、大丈夫? 熱でもあるんじゃないか、グローリア」

 俺が一歩近付くと、グローリアはすかさず後ろへ飛び退き、そして大声で叫び始めた。


「クオン! おいでなさい! クオーーン!」


「はい」


 するとすかさず、グローリア付きのメイドであるクオンが、上から颯爽と飛び降りてきた。

「どわっ!? なぜ上から!?」

 見上げると側には大きな街路樹があった。その上で主人を見張っていたのだろう。

 もはやアサシンク○ードのイ○グルダイブである。


「……早くないですか、お嬢? 言いましたよね、一人でも行けると」

 ため息をこぼしながら、無表情のままグローリアに話しかける。

「ダ、ダメ……! 間が持ちませんわ……! やっぱり居て…近くに居て、クオン…!」

 迷子の子供のように、クオンのスカートをギュッと掴むグローリア。

 まくりすぎて、スカートの中が見えそうになっているんですが。

 目のやり場に困る。


「やれやれです。昨日一晩中、私と会話シミュレーションしたじゃないですか」

「じ、実物を前にすると頭が真っ白に……」

「緊張するほどの相手とも思いませんけど」

「あなたは主人相手にも物怖じしない、慇懃無礼な性格だから分かりませんのよ! この繊細な乙女心が!」

「乙女? はっ」

「鼻で笑いやがりましたわねー!!」


 二人が俺に背を向け、何やらゴニョゴニョと話し込んでいる。

「な、何しに来たんだ? グローリアも、クオンも……俺に何か用でも?」

 先程は偶然を装っていたが、さすがに俺もアホではない。これは明らかに俺目当てで来ているのだろう。


 クオンが口を開く。

「いやお嬢がですね。アサヒ氏にまた会いた」

「だあああ! 言うなですわぁぁぁ!」

「もがもが」

 クオンの口を豪腕で塞ぐグローリア。

 パワー全振りお嬢様にそんな力一杯塞がれたら、メイドの口ないなっちゃわない?


 二人のドタバタ劇をよそに、俺は思考を張り巡らせた。

 グローリア・ブリガンダイン。

 俺のランクを正しく査定するために、闘技場で決闘まで申し込んできた貴族の令嬢だ。

 一応、俺の勝利で決着はついたはずなのだが、どうして再び俺の前に現れたのだろう。


「そうか! わかったぞ、グローリア!」

「うえっ!? わ、わたくしの気持ちがバレて……」

 グローリアは驚いた表情を見せる。

 クオンはと言うと、鼻まで塞がれ、無表情だがみるみる青くなっている。

 死なない? その子。


「俺がランク詐称してるって、まだ疑ってるんだな!?」


 俺はビシッと言ってやった。

 俺と話すとき顔を真っ赤にしているのも、いまだ激昂してる証拠だろう。

 闘技場で恥もかかされたんだ、引くに引けないのは分かるけど、ホントにしつこいお嬢様である。


 ほら、グローリアもクオンも目が点になっている。

 図星を突かれたって顔だろう、あれはきっと。


「いや、アサヒ氏。そうではなく……」

 何かを言いかけたクオンを、再び背後から塞ぐグローリア。

 塞ぐと言うより、あの技はもはやキャメルクラッチである。

 クオンの上半身がへし折れるんじゃないかってくらい仰け反っている。メイド大ピンチ。

「そう、そうですわ!!」

 グローリアはそう言った。

 やはり俺の指摘は正しかったようだ。

 グローリアが妙に嬉しそうな表情をしているのは気になるが。


「アサヒの実力の真偽、次はクエストで確かめさせて頂きますわ! 一緒に参りましょう、冒険の地へ!!」

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