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姉として格好を

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

コミカライズ1~2巻発売中、3月中旬に3巻発売予定です。

 森を進む道中で、あることを思い出す。

 それは初めてキルマリアと出会ったときのことだ。

 クエストでクローディオ森林を訪れた際、俺はクマに襲われ、その危機を救ってくれたのがキルマリアだった。


「キルマリアと出会ったのも、こんな森の中だったな」

「ん? ああ、そうじゃったな。クマに襲われていたのをわらわが助けてやったんじゃった」

「そのクマも、元はキルマリアがクマ退治しまくってたせいで俺と出くわしたんだけどね…」


「おぬしときたら、わらわの胸に顔突っ込んで、それで姉と間違えてのう」

 ククッと楽しげに笑うキルマリア。

「そ、それを言うな! そ、そっちこそ俺を強者と勘違いして襲ってきたくせに!」

 あの時は生きた心地がしなかったな。

 なにせ一般人に毛が生えた程度の駆け出し冒険者が、いきなり魔王六将とエンカウントしたのだから。

 ゲームバランスがムチャクチャすぎて、ちゃんとデバッグしたのか疑わしい調整である。


「強者か……強い者と戦うことのみを生きがいとしていたわらわじゃったが……」

 俺の肩に手を回して、顔を近づけてくる。近い近い。

「おぬしら姉弟と出会ってずいぶんと変わったもんじゃ!」

 そう言って歯を見せて笑う。

「仮にも魔王軍の大幹部が、それでいいのか?」

「カッカッカ! わらわは好きに生きるのみよ!」


 森を進んでいると、人の叫び声が遠くから聞こえてきた。

「だ、誰か助けてー! す、吸われる……! た、魂を……!」

 声が次第に弱々しくなっていく。


「助けを求める声!? こっちか!?」

 俺は声がした方向へ駆けだした。

「お、おいアサヒ! 待たんか!」


 キルマリアを置き、茂みを掻き分け進んでいくと、森を抜けたところに小さな集落を見つけた。

 異様だったのは、その集落の住民全員が、白目を剥きながら地面に横たわっていたことだ。

 肌の色も土気色で生気を感じない。かろうじて、息はまだあるようだが。

「住民がみんな、苦悶の表情で白目を剥いている……なんだ? 何が起こったんだ?」


「ヒハハハァ!」

 何者かが高らかに、下卑た笑い方をしている。

 声がした方向を見やると、黒いローブにカラスのようなマスクを被った、珍妙な姿の魔道士が宙に浮かんでいた。

 ペストマスクだったか、あれに似ているマスクで、より不気味さを漂わせている。


 その魔道士の周りを、人魂のような物体が幾つも漂っている。

「ヒハハ……美しいですねぇ、人間の魂は……! 村の皆さん総出で、これからもこの死霊魔道士マルヴェイヤンスを照らし続けなさい!」

 

 言動から察するに、あれは人魂のような……ではなく、人魂そのものらしい。

 死霊魔道士、いわゆるネクロマンサーというヤツか。

「お前の仕業か、村人たちの魂を奪ったのは!」

 俺はマルヴェイヤンスと名乗った魔道士にそう問いかける。


 そう問いかけた後で、今の俺にはマヤ姉が居ないことに気付き、こんなヤバそうな敵相手に強気に出てしまったことを少し後悔する。

 クセになってんだ、虎の威を借る狐ムーブ。

「うん? 冒険者か? お前たち、相手をしてやりなさい」

 魔道士が人差し指をクイッと動かすと、地中から次々とスケルトンが現れた。

 以前マヤ姉とダンジョンに潜ったときにも遭遇したモンスターである。


「スケルトン!? でも、こいつらくらいなら……!」

 俺はスケルトンにフラッシュを放って目眩ましさせると、一体、また一体と撃退していく。

 初見の時はその異様さに面食らいビビリ散らかしたスケルトンだが、動きもそう速くない上に防御力も乏しい。冷静に対処すればなんてことはない相手だ。


 しかしスケルトンと戦っている最中、魔道士がワープし、俺の眼前にまで迫ってきた。

「なに!? ヤバッ…!!」

「貴方の魂も私を照らす照明に加えてあげます!」」


 俺が振り返るよりも、魔道士が攻撃するよりも速く、”彼女”は俺たちの間に割って入ってきた。

 そしてすかさずバリアを張り、魔道士の攻撃を阻止する。

「キルマリア!」

 そう、キルマリアだった。


 俺より遥かに驚いているのが、死霊魔道士マルヴェイヤンスだった。

 ペストマスクのせいで表情は窺えないが、声色が明らかに変わっている。

「なっ……!? そ、その姿……まさか魔王六将がひとり、”壊乱のキルマリア”!?」

 目の前にいきなり魔王軍の大幹部が現れ、人間を守ったのだから、魔道士が驚愕するのも無理はない。

 

「なんじゃ、わらわのことを知っておるのか?」

 キルマリアが右手から炎を出しながら問い詰める。これは圧ですね。

「お、お待ち下さい! 私は魔王六将である”冥境めいきょうのウートポス”様直属の配下、魔道士マルヴェイヤンス! 同胞です! なぜ貴女様がこんな辺境の地に!?」


 “冥境めいきょうのウートポス”!?

 キルマリアと同じ魔王六将の、その配下だったとは。

 そういえば以前キュクロープスと対峙したとき、”百獣ひゃくじゅうのギガノト”という存在を口にしていた。

 

 壊乱のキルマリア。

 冥境のウートポス。

 百獣のギガノト。


 なるほど、現在六将の内、三将が明らかになったわけか。


 ……などと冷静に分析している場合ではない。

 同じ魔王軍ということは、キルマリアがこの魔道士と戦うのは”同士討ち”に当たるのだ。

 いくら彼女が自由人とは言え、それはさすがにマズい事案だろう。


「けれど、ヒハハ! これは僥倖です!」

「僥倖じゃと?」

「退屈しのぎにこうして辺境の村を襲っていましたが、一騎当千と誉れ高い貴女様がいるなら、このままシーザリオ王国の首都侵攻も夢ではない! さあ、共に惰弱な人間共を蹂躙しに行きましょう!」

 あろうことかこの魔道士、キルマリアに侵略の手助けを請うているようだ。


 だが俺は知っている。

「ふざけるな!」

 キルマリアと魔道士がこちらを見る。

「アサヒ…?」

「なんですか、冒険者。今は貴方の相手をしている場合では……」


「キルマリアはそんなことをするヤツじゃない!」


 俺はハッキリ、そう言い切った。


 キルマリアは確かに魔王軍の幹部だ。本来なら人間の敵なんだろう。

 だが俺が知っているキルマリアは人間に危害を加えるような非道なヤツではない。

 人里に降りてきて勝手に人の家に棲み着き、一日中食っちゃ寝し、酒場の酒をツケで呑み、ダウチョレースでギャンブルし、マヤ姉と地形が変わるレベルのケンカをちょくちょくするだけの無害な人物だ。

 

 ……冷静に考えたら、だいぶムチャクチャなヤツに思えてきた。

 少しは働いて、軍場家にお金を落としてもらえないですかね……。


 俺のそんな言葉を聞き、キルマリアは目を丸くしている。

 口元には微かに、笑みが浮かんでいる。

 俺は何か面白いことを言っただろうか?


 魔道士が笑う。

「ヒハハハ!! 何をバカなことを! いいか、人間。この御方は血も涙もないことで知られて……」

 キルマリアがポツリと呟く。

「友達か?」

「え?」

「貴様とわらわは友達か?」

「い、いえ……そんな滅相もない」

「なら気安く話しかけるでないわ!!」


 キルマリアが右手をかざすと、空中に巨大な炎の槍が出現した。

 その大きさ足るや、エヴァ○ゲ○オンの機体を貫くほどの大きさだ。


「貫き燃やせ! 『フレイムランス』!!」


「ぎゃああああああ!!」


 キルマリアがフレイムランスなる魔法を放つと、その槍状の炎は魔道士の身体を貫き、そして一瞬で蒸発させた。

 普段マヤ姉を見ているから感覚がおかしくなっているが、キルマリアも十分チートである。

 中ボスレベルの魔族を一撃で屠るのだから。


 魔道士によって囚われていた魂らが、昏倒している村人たちの元へと還っていく。

「魂が還っていったわ。これで村人たちもじき正気に戻るじゃろ」

 それは良かったが、しかし。

「……いいのか? 仲間なんじゃないの、立場的に」

 今し方、蒸発させた魔道士のことを問う。


「あんな趣味の悪いマスクした輩なんぞ、仲間じゃないわい。それに……」

「それに……なに?」

 キルマリアは照れくさそうに頬をポリポリ掻いた。


「”弟”にああ言われては、”姉”として格好を付けんとな!」

 

 恥ずかしそうにそう言うと、キルマリアは二カッと歯を見せて笑った。

「そっか」

 こんな人間より人間くさい人が魔族だなんて、世の中わからないもんだ。

「とりあえず戻って、マヤ姉たちと合流しよう。ソフィっていう子もいるから、町娘姿に変化してね」

「うむ」



 マヤ姉とソフィは、クエスト依頼だったレア植物を無事GET出来ていたようであった。

 しかし服装がやけにボロボロで汚れている。


「マヤ姉、やっぱり何かトラブルが!?」

「トラブルなどなかったぞ? 落石が起こったり、ワイバーンの群れに襲われたり、山火事に遭いかけたくらいだ」

「ええ、特に危険もなく、お姉さまと楽しく採取できました!」

 ソフィが続ける。

 マヤ姉はまだピンピンしているが、ソフィの方はだいぶ服装がズタボロで、視線に困るくらいなんですけど。


「それ、トラブルに巻き込まれまくってるのに、マヤ姉が屈強すぎて全然気付いてないヤツだよ!!」

「カッカッカ、さすが我がライバルよ」


 やれやれ、今日は色々あって忙しい一日だった。

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