私の武器は朝陽
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~2巻発売中です。
ゴーレムからドロップした光り輝く鉱石を鍛冶屋に持っていく。
初老とは思えぬ筋骨隆々の肉体を持つ店主は、その鉱石を見るなり瞳を輝かせた。
「おお! こいつぁミスリルだ!」
ファンタジー作品好きなら誰もが聞き覚えのあるその名前に、俺は色めき立った。
「ミスリル!? 鍛冶屋さん、それホント!?」
一方、マヤ姉は首を傾げている。
「ミスリルとはなんだ?」
「ファンタジーでは有名な鉱石だよ。魔力を帯びた石で希少価値が高いんだ」
「なるほど……ゴーレムが私の魔法を弾いたのは、ミスリルとやらの特性だったか」
鍛冶屋の店主が目を丸くする。
「お前さんたち、まさかミスリルゴーレムを倒したのか!? たいしたもんだ!」
「い、いやぁそれほどでも」
「よし! このミスリルを使って、一本剣をこしらえてやろう。どうだい?」
「剣!? ミスリルソード!?」
ずっと初期装備のブロードソードでこれまでやってきただけに、新しい武器が……それもミスリルソードが手に入るならラッキーな話だ。断る理由が無い。
マヤ姉が店内に置かれている武器を興味深げに眺めている。
「色んな形状の武器があるんだな」
「興味あるかい? 剣を作り終えるまで、店内の武器を使って表で試し切りしてていいぞ」
「いいんですか!?」
片手剣以外の武器を試せる良い機会だ。俺は喜びの声を上げた。
たくさんの武器を抱えて外に出る。
鍛冶屋の敷地内には、試し切り用の巻藁や木、岩などが置かれてあった。
「ずっと片手剣縛りでやってきたけど、他の武器にも興味あったんだよなぁ」
「私たちがこれまで出会ってきた冒険者たちも、それぞれ武器が異なっていたな」
「ソフィはロッド、グローリアは両手剣、クオンはダガー二刀流って感じでね」
「相手を倒せるのであれば、武器などどれでもいい気もするが…」
俺はチッチッと指を振った。
「分かってないなぁ、マヤ姉は。武器ってのはロマンなんだよ!」
「近距離の剣、大剣、斧、ハンマー、格闘武器。中距離の槍、ムチ、鎖鎌。遠距離の弓、魔法攻撃。ジョブや戦闘スタイル、戦う相手に応じて武器を使いこなしてこそ、一流の戦士なんだ! そもそも剣と一括りに言っても、片手剣の他にダガーなどの短剣、日本人にはお馴染みの刀、刀身が長いロングソード、曲剣のシミターに相手を貫くレイピアなど種類は多岐に渡り……」
俺の長尺の喋りを、マヤ姉は微笑ましそうにうんうんと頷きながら見守ってくれている。
いかん、また早口ゲームオタクと化してしまった。
とにかく、それだけ武器選びは大切ということだ。
俺は順番に武器を扱い始めた。
まずは槍。
「中距離から安全に戦えるけど、冒険者って言うより門番とか衛兵っぽくなっちゃうな」
次にダガー。
「スピードと手数を活かした戦い方は俺向きだけど、今度は盗賊感が出てしまうな……」
斧を試す。
「一撃一撃が重い分、スピードが殺される。一撃必中スタイルか」
お次は両手剣。
「お、重い…! 俺のSTR値じゃあ使いこなせない…! グローリア、どんだけ脳筋お嬢さまだったの!?」
そして弓。
「エイム力が試されるなぁ……弓矢数にも限度があるし、メインよりサブ向きかな」
最後にロッド。
「魔法職じゃないから、杖系を使う機会はないか」
一周回って、やはり使い慣れた片手剣が一番しっくりくることに気付く。
「やっぱり朝陽は片手剣が一番似合うな」
「へへ、ありがと。マヤ姉も試しに何か武器使ってみれば?」
ずっと素手だったが、もしかしたら何か相性の良い武器が見つかるかもしれない。
「これも良い機会か、どれ……」
マヤ姉は俺が先程持ち上げるのに苦労した両手剣を、片手で軽々と持ち上げた。
そんなスプーンやフォーク持つみたいに、あなた。
「はぁ!!」
マヤ姉が両手剣を岩に振り下ろす。
ガキンッという金属音を発して真っ二つになった。
岩がではなく、両手剣の方が。
「あれ?」
柄だけになった剣を不思議そうに眺めるマヤ姉。
折れた刀身はどこへ行ったかって?
俺の方に飛んできたよ!
「あぶねえええええ!!」
俺は咄嗟に両手剣の刃を避けた。
直撃していたら、俺まで真っ二つになるところだった。
危ないところだよ。
「脆い剣だったのかな? 他の武器も試してみよう」
マヤ姉は違う武器を手に持ち、順番に岩めがけて振り下ろし続けた。
バキッ! バキャン! ボキィ! ガキーン!!
どの武器を使っても、すぐ柄から先が折れて飛んでいってしまう。
そしてもれなく俺の方に飛んでくる。
なんで!?
「うお! ひえ! うわあ! ぎゃああ!」
俺はそれらの刀身すべてを、すんでの所で避け続けた。
「うーん……どの武器も手に馴染まないな」
マヤ姉は武器の柄だけを握って、肩を落とした。
「弟を殺す気かああああ!!」
俺は半ベソかきながらツッコミを入れる。
なんということだ。
マヤ姉の能力が高すぎて、武器の耐久値の方が保たないのだ。
結論、マヤ姉は素手の方が強い!
なんなら武器を持った方が、能力がセーブされるまである!
そこにミスリルソードを作り終えた店主がやってくる。
「待たせたな! ミスリルソードが出来上が……どわああ! 店中の武器が粉々にぃぃぃ!?」
バラバラになって散乱している武器を目にし、驚愕する店主。
「あっ」
俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
俺たちは鍛冶屋を後にし、帰路についた。
「弁償って事で、結局ミスリルも鉄鉱石集めのクエスト報酬もパーになっちまった……徒労だ……」
「まあそう気を落とすな」
武器破壊しまくった張本人が言うセリフではない。
ただマヤ姉も悪気があって壊したわけではないので責められないが。
強いて言うなら、マヤ姉のチートパワーに耐えられない軟弱な武器の方が悪い(暴論)
「マヤ姉は武器無い方がいいみたいね」
「私の武器ならもうある」
「え?」
マヤ姉がポンと、俺の頭に手を置いた。
「私の武器は朝陽、お前だ。朝陽の存在が私をどこまでも強くさせるんだ」
「!……」
こういう小っ恥ずかしいセリフを照れることなく口にするんだ、我が実姉は。
かえって俺の方が顔を赤らめてしまう。
「はは、何だよそれ」
マヤ姉の瞳が怪しく光る。
「というわけで、今日も抱きついて武器熟練度を上げちゃうぞー!」
俺という武器を使いこなそうと、胴体に手を回してくる。
いつものような抱きつき攻撃である。
「エモイ話したかと思ったらこれだよぉー!」
武器は持たないが、ブラコン行為に関しては”単刀直入”の姉であった。