朝陽を忘れたことなど
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
コミカライズ1~2巻発売中です。
切り立った崖が連なる山岳地帯を、大きなカゴを担ぎながら歩く。
カゴの中には鉄鉱石が入っており、俺は疲労から息も絶え絶えになっている。
「ひぃ…ひぃ…ふぅ……!」
行軍訓練をしているわけではない。
クエスト依頼である”鉄鉱石を10個集めろ”をこなしている最中なのだ。
「こ、この手の収集クエストは……RPGでは初歩的なヤツだから……な、舐めてた……! 重ぉ…!」
ゲームではアイテムボックスに……今風に言えばインベントリに勝手に入ってくれる収集アイテムだが、実際に持たねばならない状況になると重いのなんのって。
「洋ゲーのRPGによくある所持重量制限って概念に、リアルに悩まされることになるとは……!」
リアルさを追求しているんだろうけど、あれあまり好きではないんだよなぁ。
「大丈夫か、朝陽? 私が代わりに持とうか?」
マヤ姉が涼しい顔をしながら、数百キロはあろうかという岩石の塊を風呂敷に包んで担いでいる。
「マヤ姉、重量無制限MODとか入れてる?」
重量の要素を意にも介さない実姉、チートすぎる。
「ちょっと休憩……」
カゴを地面に置き、道の脇にあった大きな岩場に腰掛ける。
するとその岩場が小刻みに振動し始める。
「ん? 地震?」
次の瞬間地面が裂けて、地中から石造りの巨人が出現する。
「どわぁぁぁ!? ゴーレムぅぅぅ!?」
RPGでは難敵として有名なゴーレムのお出ましだ。
どうやら俺は地面に埋まっていたゴーレムの頭の上に偶然座ってしまっていたらしい。
ゴーレムが立ち上がると同時に、上空へと俺も一緒に運ばれてしまった。
つい先程まで隣にいたマヤ姉がずいぶん小さく見える。
建物で言えば、三階建てくらいの高さだろうか……落ちたらタダじゃ済まなそうだ。っていうか死ぬ。
「敵か! 朝陽を離せ!」
モンスターを秒で倒すことに定評のあるマヤ姉が、すかさず魔方陣を展開する。
「待て待て待てーい! 頭上に俺がいることをお忘れなく!?」
ゴーレムが吹っ飛ばされたら、もれなく俺まで吹っ飛ばされるんですが!
「朝陽を忘れたことなど片時もない! 『姉サンダー・弱』!!」
指向性と威力を絞った姉サンダーをゴーレムの胴体めがけて放つ。
そのネーミングが”姉サンダー・弱”という適当さが、実にマヤ姉らしい。
今度キルマリアと一緒に、マヤ姉にネーミング指南をしてあげねば。
しかし姉サンダー・弱はゴーレムの胴体に当たる前に四方に拡散してしまう。
「む!」
「マヤ姉の雷魔法を弾いた!? 加減した威力だったとはいえ……」
ゴーレムの胴体には何やら光り輝く鉱石が埋め込まれていた。
あの石が魔法を弾いたのだろうか。
ゴーレムがマヤ姉目がけて、巨大な右拳を振り下ろす。
拳だけでも軽自動車くらいあるサイズだ、直撃したら普通の人間などひとたまりもないだろう。
「マヤ姉!!」
「はあ!!」
マヤ姉は避けることなく、自身より遥かに大きいその拳に、そのままカウンターパンチを浴びせた。
マヤ姉の拳がゴーレムの拳にめり込み、その威力を完全に抑え込む。
そう、マヤ姉の身体能力は普通の人間の”それ”ではないのだ。
ついでに言えば弟への執着心も普通ではない。
「魔法を弾くのならば、力尽くで解体するまでだ!」
マヤ姉がめり込んだ拳をコークスクリューブローの要領で回転させる。
いや、ドライバーを使ってネジを回転させる要領といった方が適切だろうか。
とにかく、ゴーレムは逆関節を勢いよく極められ、右腕を構築していた石のブロックが次々とパージされていった。
いわゆる、部位破壊というヤツだ。
「まだまだいくぞ!」
マヤ姉は追撃を緩めない。
「左腕! 右脚! 左脚!」
次々と関節を極め、ゴーレムの四肢をパージさせていく。
まるでレ○ブロックのオモチャを解体するように軽々と。
そういえば昔、俺が作ったプラモを雑に扱われて壊されたことあったっけ…などと子供の頃を思い出に浸っているうちに、ゴーレムはすっかりバラバラにされ、胴体と頭だけになってしまっていた。
俺がいる高さも、イ○バ物置の屋根の上くらいになっている。
この解体屋、仕事が早すぎる。
「朝陽は高いところが苦手なんだ……離せ!」
マヤ姉はとどめとばかりに、胴体にライダーキックを放った。
ゴーレムの身体に風穴が空き、哀れ、目覚めたばかりのゴーレムは永遠の眠りについてしまった。
俺がうっかり座り込んでしまったばかりに……許せ。
地面に倒れ込むゴーレムからジャンプし、地面に無事降り立つ。
「平気だったか、朝陽?」
「ゴーレム解体ショー、見事でございました……って、ん?」
ゴーレムが粉々になった跡に、光り輝く鉱石を見つける。
ゴーレムの胴体に埋め込まれていた、先程マヤ姉の姉サンダー・弱を弾いた石だ。
サッカーボールくらいの大きさである。
「ほう……ずいぶんとキレイな石だな」
「うん。鉄鉱石よりだいぶ価値がありそうな……」
俺はその光り輝く鉱石を拾い上げた。
「なあマヤ姉。この石、街の鍛冶屋に持っていかない?」