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女の子に剣は振れないよ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも同時連載中です。


コミカライズ1~2巻発売中です。

 決闘当日。

 いよいよ俺こと軍場朝陽vsグローリア・ブリガンダインのスーパーエキシビションマッチが行われる。


 会場となる闘技場はコロッセウムのような円形の建物で、満員の観客たちの歓声が全方向から俺たち闘士に浴びせられる。

 それだけで身震いする緊張感だ。

 観客席を見ると、マヤ姉、町娘に扮したキルマリア、ターニャとその弟のロイ、ソフィ、ジークフリートさんなど、馴染みの顔があった。

 出来れば俺もそっち側で、ドリンク片手に気軽に観戦したかったです……

 

「さあ、イクサバアサヒ! 衆目の中、貴方の実力を見極めさせていただきますわ!!」

 グローリアが身の丈ほどもある大剣を構える。

「こ、来い!」

 俺は座高くらいの片手剣を構える。


 俺の秘策は、観客席に控えているマヤ姉の援護魔法だ。

 フォローよろしく、マヤ姉!



 キルマリアは不安げな様子で、闘技場中央でグローリアと対峙する朝陽を見ていた。

「だ、大丈夫なのか、アサヒは。相手のおなごはなかなかのやり手なのじゃろう?」

 隣にいる真夜は意外にも平静を保っている。

「問題ない。私がこの観客席から魔法で援護する手はずになっている」

「そうか……なら安心じゃな!」

 キルマリアはホッと胸をなで下ろした。

「フッ、落ち着け。キルマリアが緊張してどうする」


 「!」

 背後に迫る殺気を感じ取り、同時に後ろを振り返る真夜とキルマリア。

 そこには黒髪ショートのメイドが立っていた。


 グローリア付きのメイド、クオンだ。両手にはダガーを携えている。

「こやつは……」

「グローリアのメイド……勘の良い少女だな。怪しい動きを見せたら斬る……そんな顔をしている」

 どうやらクオンは真夜とキルマリアの力量を察し、何か横やりを加えるのではないかと警戒して見張っているようだ。

 できるメイドである。



「てやあああ!」

「どわぁぁぁ!」

 二人が見張られている状況で戦うグローリアと朝陽。

 グローリアの攻撃を、しかし朝陽はすんでのところで避けている。


「どうしたんですの!? 手を出さなければ勝てませんわよ!」

「い、いや、手を出せというか……!」

 朝陽は真夜からのサポートがないことに混乱しているようだ。

「マヤ姉、援護まだ……!? もしかしておなか痛くなってトイレ行ったとか……!?」

「なにをブツブツ言っているんですの! 覚悟!!」

 グローリアの容赦ない攻撃が朝陽を襲う。



 朝陽の危機を察したのは、キルマリアであった。

「アサヒ! くっ、こうなればわらわが介入を……!!」

「……」

 キルマリアが怪しげな動きを見せるやいなや、ダガーの柄を握る手に力を込めるクオン。

 しかし彼女は甘かった。

 相手は一個人ではどうにもならない怪物、魔王六将キルマリアなのだ。


「不遜じゃぞ…? 人間如きが、わらわに害意を向けるなど……」

 

 ポーカーフェイスのクオンの顔から、ぶわっと汗が吹き出る。

「!? こ、この圧は……!?」

 実力者だからこそ、キルマリアの隠れた力量を瞬時に察したのだろう。

 魔王軍大幹部のプレッシャーを間近で浴び、恐怖から足がすくむ。


 そんな彼女の窮地を救ったのは、以外にも真夜であった。

「やめておけ、キルマリア」

 真夜はキルマリアの肩に手を回すと、グイッと自分の方に引き寄せた。

「マヤ!? いいのかえ!? このままではアサヒが……」


 真夜はフッと笑みを浮かべた。

「知らなかったのか? 存外やるんだ、私の弟は」



「くらえ! 『グレイスフル・ストライク』!!」

「くっ! 『エスケープ』!!」


 グローリアの必殺技を、後方に飛んでなんとかかわす。

 闘技場の壁をも豆腐みたいに切り裂く斬撃だ、まともに受けたらひとたまりもなかったろう。

「このぉ! チョコマカと!! 何故攻撃してこない!?」

「はあ、はあ、はあ…」

 防戦一方ではあったが、俺は戦いの中でひとつ気付いたことがあった。


 それはグローリアの攻撃に勢いがないことだ。

 踏み込みが一歩分足りない。

 オークを倒した時と比べて、腰が引けている。


 俺は気付いた。

 グローリアと初めて相対したとき、俺はマヤ姉による大地を切り裂いた一閃で事なきを得た。

 グローリアも、クオンがラリアットで割り込んだおかげで事なきを得た。


 あの一閃を俺が放ったものだと勘違いしているグローリアは、ずっとそれを警戒しながら戦っているんだ。

 刻まれているんだ……脳に、心に、あの太刀筋が。

 だから踏み込みが甘い。ゆえに隙も生まれる。


「ならばオークをも葬った奥義を! いきますわ、『エレガントスプリットバスター』!!」

 グローリアは宙を舞い、クルクルと縦回転をし始める。

「ここだ!」

 そちらが奥義を出すなら、こちらも”とっておき”の出番だ。


「『フラッシュ』!!」


 俺は探索用魔法のフラッシュを、グローリアに向けて放った。

「なっ!? め、目眩ましですって!?」

 まばゆい光が彼女の視界を封じる。

 グローリアは体勢を崩し、地面に落下した。

「探索魔法にすぎないフラッシュを目眩ましに使うなんて……ハッ!」

 

 グローリアは、自分の首元に剣の切っ先が向けられていることに気付いたようだ。

「はあ、はあ…勝負ありだ…!」

 ワッと観客席から喝采が上がる。

 逃げ回って逃げ惑って、しまいには相手を無力化して制圧という、塩試合もいいところの内容ではあったが、観客たちは盛り上がってくれたようだ。よかった。

 

 一方、公衆の面前で降参させられたグローリアは、苦々しい表情で俺を睨んでいる。

「一度も剣を振らずにわたくしを……!? くっ、なぜ攻撃してこなかったんですの!? バカにして!?」

 おかしな事を言う。

「なぜって……女の子に剣は振れないよ」

 俺は素直にそう答えた。


 龍が○くの桐生○馬だって、女相手に攻撃したことは一度もないし、誓って殺しはしていない。

 そういう男に俺もなりたいのだ、うん。


「なっ……お、女の子……!」


 グローリアは顔を上気させた。耳まで真っ赤で、茹でダコみたいになっている。

 なんだろう、俺おかしなこと言ったかな?

「グローリア?」

「はうあ! こ、今回は負けを認めますわ! い、い、いずれまた相見えましょう!!」

 そう言うとグローリアは踵を返し、闘技場をあとにした。


「いずれまた……か。ははっ、まーたおかしな子と知り合いになっちゃったなぁ」

 俺は苦笑いを浮かべた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか援護なしで勝つとは思わなかった。 これでまた周囲の勘違いが飛躍しそうw
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