女の子に剣は振れないよ
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも同時連載中です。
コミカライズ1~2巻発売中です。
決闘当日。
いよいよ俺こと軍場朝陽vsグローリア・ブリガンダインのスーパーエキシビションマッチが行われる。
会場となる闘技場はコロッセウムのような円形の建物で、満員の観客たちの歓声が全方向から俺たち闘士に浴びせられる。
それだけで身震いする緊張感だ。
観客席を見ると、マヤ姉、町娘に扮したキルマリア、ターニャとその弟のロイ、ソフィ、ジークフリートさんなど、馴染みの顔があった。
出来れば俺もそっち側で、ドリンク片手に気軽に観戦したかったです……
「さあ、イクサバアサヒ! 衆目の中、貴方の実力を見極めさせていただきますわ!!」
グローリアが身の丈ほどもある大剣を構える。
「こ、来い!」
俺は座高くらいの片手剣を構える。
俺の秘策は、観客席に控えているマヤ姉の援護魔法だ。
フォローよろしく、マヤ姉!
☆
キルマリアは不安げな様子で、闘技場中央でグローリアと対峙する朝陽を見ていた。
「だ、大丈夫なのか、アサヒは。相手のおなごはなかなかのやり手なのじゃろう?」
隣にいる真夜は意外にも平静を保っている。
「問題ない。私がこの観客席から魔法で援護する手はずになっている」
「そうか……なら安心じゃな!」
キルマリアはホッと胸をなで下ろした。
「フッ、落ち着け。キルマリアが緊張してどうする」
「!」
背後に迫る殺気を感じ取り、同時に後ろを振り返る真夜とキルマリア。
そこには黒髪ショートのメイドが立っていた。
グローリア付きのメイド、クオンだ。両手にはダガーを携えている。
「こやつは……」
「グローリアのメイド……勘の良い少女だな。怪しい動きを見せたら斬る……そんな顔をしている」
どうやらクオンは真夜とキルマリアの力量を察し、何か横やりを加えるのではないかと警戒して見張っているようだ。
できるメイドである。
「てやあああ!」
「どわぁぁぁ!」
二人が見張られている状況で戦うグローリアと朝陽。
グローリアの攻撃を、しかし朝陽はすんでのところで避けている。
「どうしたんですの!? 手を出さなければ勝てませんわよ!」
「い、いや、手を出せというか……!」
朝陽は真夜からのサポートがないことに混乱しているようだ。
「マヤ姉、援護まだ……!? もしかしておなか痛くなってトイレ行ったとか……!?」
「なにをブツブツ言っているんですの! 覚悟!!」
グローリアの容赦ない攻撃が朝陽を襲う。
朝陽の危機を察したのは、キルマリアであった。
「アサヒ! くっ、こうなればわらわが介入を……!!」
「……」
キルマリアが怪しげな動きを見せるやいなや、ダガーの柄を握る手に力を込めるクオン。
しかし彼女は甘かった。
相手は一個人ではどうにもならない怪物、魔王六将キルマリアなのだ。
「不遜じゃぞ…? 人間如きが、わらわに害意を向けるなど……」
ポーカーフェイスのクオンの顔から、ぶわっと汗が吹き出る。
「!? こ、この圧は……!?」
実力者だからこそ、キルマリアの隠れた力量を瞬時に察したのだろう。
魔王軍大幹部のプレッシャーを間近で浴び、恐怖から足がすくむ。
そんな彼女の窮地を救ったのは、以外にも真夜であった。
「やめておけ、キルマリア」
真夜はキルマリアの肩に手を回すと、グイッと自分の方に引き寄せた。
「マヤ!? いいのかえ!? このままではアサヒが……」
真夜はフッと笑みを浮かべた。
「知らなかったのか? 存外やるんだ、私の弟は」
☆
「くらえ! 『グレイスフル・ストライク』!!」
「くっ! 『エスケープ』!!」
グローリアの必殺技を、後方に飛んでなんとかかわす。
闘技場の壁をも豆腐みたいに切り裂く斬撃だ、まともに受けたらひとたまりもなかったろう。
「このぉ! チョコマカと!! 何故攻撃してこない!?」
「はあ、はあ、はあ…」
防戦一方ではあったが、俺は戦いの中でひとつ気付いたことがあった。
それはグローリアの攻撃に勢いがないことだ。
踏み込みが一歩分足りない。
オークを倒した時と比べて、腰が引けている。
俺は気付いた。
グローリアと初めて相対したとき、俺はマヤ姉による大地を切り裂いた一閃で事なきを得た。
グローリアも、クオンがラリアットで割り込んだおかげで事なきを得た。
あの一閃を俺が放ったものだと勘違いしているグローリアは、ずっとそれを警戒しながら戦っているんだ。
刻まれているんだ……脳に、心に、あの太刀筋が。
だから踏み込みが甘い。ゆえに隙も生まれる。
「ならばオークをも葬った奥義を! いきますわ、『エレガントスプリットバスター』!!」
グローリアは宙を舞い、クルクルと縦回転をし始める。
「ここだ!」
そちらが奥義を出すなら、こちらも”とっておき”の出番だ。
「『フラッシュ』!!」
俺は探索用魔法のフラッシュを、グローリアに向けて放った。
「なっ!? め、目眩ましですって!?」
まばゆい光が彼女の視界を封じる。
グローリアは体勢を崩し、地面に落下した。
「探索魔法にすぎないフラッシュを目眩ましに使うなんて……ハッ!」
グローリアは、自分の首元に剣の切っ先が向けられていることに気付いたようだ。
「はあ、はあ…勝負ありだ…!」
ワッと観客席から喝采が上がる。
逃げ回って逃げ惑って、しまいには相手を無力化して制圧という、塩試合もいいところの内容ではあったが、観客たちは盛り上がってくれたようだ。よかった。
一方、公衆の面前で降参させられたグローリアは、苦々しい表情で俺を睨んでいる。
「一度も剣を振らずにわたくしを……!? くっ、なぜ攻撃してこなかったんですの!? バカにして!?」
おかしな事を言う。
「なぜって……女の子に剣は振れないよ」
俺は素直にそう答えた。
龍が○くの桐生○馬だって、女相手に攻撃したことは一度もないし、誓って殺しはしていない。
そういう男に俺もなりたいのだ、うん。
「なっ……お、女の子……!」
グローリアは顔を上気させた。耳まで真っ赤で、茹でダコみたいになっている。
なんだろう、俺おかしなこと言ったかな?
「グローリア?」
「はうあ! こ、今回は負けを認めますわ! い、い、いずれまた相見えましょう!!」
そう言うとグローリアは踵を返し、闘技場をあとにした。
「いずれまた……か。ははっ、まーたおかしな子と知り合いになっちゃったなぁ」
俺は苦笑いを浮かべた。