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朝陽の不戦勝だ

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも同時連載中です。


コミカライズ1~2巻発売中です。

 冒険者ギルド受付嬢、ターニャの反応。

「グローリアさんと闘技場で決闘するみたいっすね! さすがブリガンダイン家のご令嬢……闘技場貸し切るとかスケールでかい! アサヒくんならやれるっすよ! 当日は弟のロイを連れて応援しに行くから!」


 神官のヒーラー、ソフィ=ピースフルの反応。

「グローリアさま、勇者さまの実力を疑うとはなんて見る目のない! まるで勇者さまのことを、本当はさほど強くないランク詐称のクソザコ冒険者みたいに言うなど! グローリアさまを”わからせて”やってください!」


 ドラゴン級の英傑、ジークフリートの反応。

「闘技場か……僕も以前、トーナメントで優勝したことあるよ。はは、いやいや過去の栄光さ。ブリガンダイン家の令嬢はゴーレム級の強者だけど、アサヒくん頑張って……え? うん、ゴーレム級って言ったよ。知らなかった? あ、これからダウチョレース場に行くんだけど、一緒にどう?」


 魔王六将、キルマリアの反応。

「強者と戦えるんじゃぞ? そんな青い顔になどならず、普通は血湧き肉躍らんか? それはそうとアサヒ、持ち合わせはないか。いや、酒代のツケが溜まってのう……なに? マヤに言いつける? そ、それはやめい! 怒られる!」



 グローリアと決闘をすることになった俺こと、軍場朝陽。

 そのことに関して知り合いの意見を聞きに回ったのだが、誰しもが決闘を楽しみにしていて、俺は頭を抱えた。

「みんな決闘を楽しみにしてるよ……なんでこんな事態に……」

「ビラも配られているし、逃げようがないな」

 一枚の紙を見ながら、マヤ姉が口を開く。


 その紙には”神童イクサバアサヒVS正義の執行者グローリア・ブリガンダイン”とデカデカと書かれており、ご丁寧に両者のイラスト付きだ。

 まるでボクシングかなにかのタイトルマッチ用ポスターのようである。

 街には既に、決闘の報せが描かれたこのビラが大量に配られており、避けようがない状況である。

 コピー機もないこの異世界でどうやってこんな数のビラを……と思ったが、どうやらコピーと同じ役割を果たせる転写魔法があるのだという。


「グローリア・ブリガンダイン……ギルドのパトロンの令嬢。そして冒険者の実力を査定する剣士か。厄介な人物に目を付けられたな」

「しかもゴーレム級なんて初耳だよ! 7段階ランクの上から3番目! めちゃくちゃ強者じゃん!?」

 冒険者ランクは下からラビット級、ゴブリン級、ナイト級、オーガ級、ゴーレム級、ドラゴン級、ゴッド級と分かれている。

 俺はオーガ級、グローリアはゴーレム級だから、ひとつ上のランクだ。

 まあ実際の俺はオーガ級には程遠い強さなので、実力差は相当あるのだろう。なにせ向こうは大型オークをソロで倒す腕前だ。


「騎士団の部隊長やクランリーダーを任されるレベルの階級と聞くな、ゴーレム級とは」

「真っ向勝負で戦ったら、オーク腹違いの兄と同じく真っ二つにされてしまう…!」

 グローリアの必殺技、エレガントスプリットバスターにより、真っ二つにされたオークの姿を思い起こす。

 あんな残酷な死に方、しとうない。


「どうすりゃいいんだー!」

 俺は大声を上げながら天を仰いだ。

「心配することはない。要は当日に決闘が行われなければいいんだろう?」

「ま、まあそうだけど……マヤ姉、なにかいい手が?」

 マヤ姉がフッと笑った。


「相手が決闘日前に”不慮の事故”に遭えば、朝陽の不戦勝だ……!!」


 マヤ姉は怪しげな笑みを浮かべながら、拳をバキボキと鳴らした。

「闇討ちでもする気かー!? やめろやめろー!!」

 グローリアがいくらゴーレム級の強者と言えど、マヤ姉に襲撃されたら秒でオダブツにされるだろう。

 決闘はイヤだが、さすがにそれは非情すぎるなんてもんじゃない。


「冗談はさておいて」

 マヤ姉はおどけてみせた。

「本当か? 本当に冗談か?」

 笑えない冗談はやめてもろて。


「前に市場で暴れていたならず者や、混沌麗流のリーダーを制したときのように、私が観客席から魔法で援護をすれば大丈夫だろう」

 以前、酒を呑んで市場で暴れたデリヴンや、記憶に新しい犯罪クランの長を撃退したときのことを例に挙げるマヤ姉。

 そうだ、このときも俺の動きに合わせて、マヤ姉が魔法で援護してくれたんだった。


「そ、そうか! マヤ姉が観客席から助けてくれるなら安心安全だ!」

「ふっ、お姉ちゃんに任せろ!」



 場面は、とある大きな屋敷へと移る。


 華やかなバラ園や噴水のある、広大な庭園。

 煌びやかな装飾が施された内装。

 屋敷で働く、多くのメイドや執事たち。

 どうやらここは貴族の豪邸らしい。


 ひとりのメイドが寝室のカーテンを開ける。

「お嬢、起きて下さい」

 年の頃は十五くらいだろうか、黒髪ショートのメイドがベッドで眠る主人を起こそうとしている。


「むにゃむにゃ…クオン……あと10分寝かして……」

 ヨダレを垂らしながらアホ面で寝ている金髪の美少女。

 グローリア・ブリガンダインである。


「……」

 クオンは無表情を崩さぬまま、その場で跳躍した。そしてグローリアのベッドに飛び込んだ。

「そい」

「ぐっほ!?」

 フライングボディープレス、痛烈な起こし方である。

「ク、クオン……! それが主人の起こし方ですの…!? もっと耳元で優しく囁くとか…!」

「常在戦場。いつ賊に襲われるかわかったものではないのに、お嬢は無防備すぎます。多くの敵がいることをお忘れなく」


 強制的に起こされたグローリアがベッドから起き上がり、着替え始める。

 何も命令されずとも、自然と着替えを手伝い始めるクオン。

「ははっ! わたくしを闇討ちしようなどという輩、いるはずもありませんわ!」

 実はいたのだが、グローリアは知る由も無い。


「それに……」

「?」

「クオンが側で守ってくれているから、わたくしは心安らいで眠ることができているんですのよ」

 その言葉を聞き、無表情なクオンの頬に赤みが差した。

「……そう」

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