このわたくしを辱めるなんて
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
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コミカライズ1~2巻発売中です。
力比べには自信がある。
自信満々にそう言うだけあって、確かにグローリアのパワーは目を見張るものがあった。
自身より倍の背丈はあるオーク腹違いの兄の攻撃にも怯まず、大剣でパリィし続ける。
「そんな攻撃ではわたくしは仕留められませんわよ!」
「ぬう! 小娘の分際で!」
刃同士がガキンガキンとぶつかり合う音が響く。
「死ねい!!」
痺れを切らしたオークが大きく振りかぶり、渾身の一撃をグローリアに見舞う。
しかしその斬撃は空を切る。
「なに!? い、いない!? あの小娘はどこへ……」
オークはグローリアの姿を見失ったらしい、キョロキョロと辺りを見渡している。
両者の攻防を離れたところで見ていた俺の視界は、グローリアの姿をハッキリと捉えていた。
「上だ!」
彼女は真上に跳んで、オークの強攻撃をかわしていたのだ。
空中でクルクルと縦回転をし始めるグローリア。
「食らいなさい、わたくしの優美な一撃を! 『エレガント・スプリットバスター』!!」
縦回転の勢いそのまま、大剣でオークを頭から真っ二つにする。
所謂、兜割りというヤツだ。
半分ずつになったオークは、ゆっくりと地面に崩れ落ち、そしてただの物言わぬ肉塊となった。
「な、なんて強さだ……一体何者なんだ!? この子!?」
マヤ姉もオークを秒で鏖殺してはいたが、あの人は魔王軍幹部をもソロで倒せるチートだからもはや別格。
しかしこの女性は一般人でありながら、難敵のオークを一人で倒したのだ。驚嘆と言う他ない。
「民を脅かす存在は片付けましたわ。さて……本題へ移りましょう」
グローリアは俺の方を向くと、ふうっとため息をこぼした。
目線も心なしか冷たい。
金髪美女の冷めた表情はそそるものがあるが、これはどうやらそんなことも言っていられない状況のようだ。
「超新星……期待のホープ……神童……貴方の噂は幾つも耳にしましたが、やはり嘘だったようですわね」
俺のことを知っている?
「う、嘘?」
「オーガ級のランク、不正に手にしましたわね?」
「いっ!?」
真実を見抜かれ、ぎょっとする。
「オークと相対したときの立ち振る舞いや怯えた表情を見れば一目瞭然。本当の貴方は、それはもう野ウサギのような弱者……」
グローリアは犯人を追い詰める探偵のような所作を見せながら語っている。
「このわたくし、グローリア・ブリガンダインの目はごまかせませんわ!」
ビシッと決め顔で犯人……もとい、俺を糾弾する。
ブリガンダインの名には聞き覚えがある。
冒険者ギルドのパトロンをしている貴族の名……つまりこの子は、そのやんごとなきお家のご令嬢か。
まずい。俺が実は弱いってこと、この令嬢にはバレてしまっている!?
緊迫した場面に、小石がひとつ飛んでくる。グローリアは自身の足下に飛んできたその小石を見やる。
「小石?」
石を投げてきたのは、アンちゃんであった。目に涙を浮かべながら小石を何個も握っている。
「そんなことないもん! ゆうしゃのおにいちゃんはつよいんだもん!」
「うっ…」
アンちゃんの優しさと無邪気な信望がグサグサ俺に刺さる。
「無垢な幼女をも騙すとは、より罪深き行為……皆の目を覚まさせてあげますわ! わたくしが直に刃を交え!」
グローリアが剣を構えて、こちらに向かって特攻する。
「くっ!」
俺も咄嗟に剣を構える。
いや、全然勝てる気はしないんですけど!?
「……ハッ!」
最初に異変に気がついたのは、クオンと呼ばれたグローリア付きのメイドであった。
ずっと俺とグローリアのやり取りを無表情で傍観していたのだが、何かを察したのか俺たちの間に割り込んできて、グローリアに”ラリアット”を決めた。
「お嬢! 危ない、下がって!」
「ぐっほぉ!?」
いきなり従者にラリアットを食らったグローリアは、目ん玉飛び出るような面白フェイスのまま、もんどり打って倒れた。
次の瞬間だった。
俺とグローリアのあいだの地面が、数十メートルに渡ってパックリと裂けた。
まるで空中から凄まじい威力の風の刃が放たれたかのように。
「な、なんて太刀筋……!? 隠してたと言うんですの!? 真の実力を!」
この斬撃を俺の仕業だと思ったらしいグローリアが、地面に尻餅をついたまま驚愕の表情を見せる。
斬撃による土煙のせいで向こうには見えていないようだが、俺も驚愕の表情をしている。
なんなら、滝のような汗もだらだらとかいているし、心臓もバクバク鳴っている。
俺が一番知りたい、今何が起こったの!?
土煙が徐々に晴れていく。
地割れの向こう側にいるグローリアたちの姿を見て、俺は「あっ!」と声が出た。
そして咄嗟に顔を背けた。
「? なんですの?」
グローリアが下を向く。
そこで気付いたのだろう。パンツ丸出しのまま地べたに座り込んでいた、自身の姿を。
「ひやぁ!」
グローリアはすぐさま正座になって、スカートを隠した。
いやその、不可抗力とはいえ正直眼福でした。
「くうう! なんという恥辱! 真の実力を隠していただけでなく、このわたくしを辱めるなんて!」
グローリアは涙目になっている。
「い、いや! 今のそれは、そっちのメイドさんのせいだと思うんだけど!?」
主人にラリアットを決めたクオンは、明後日の方向を見ながら素知らぬ顔をしている。
「決闘ですわ!」
「え?」
「闘技場を貸し切って、大勢の観客の下で決闘! そこで貴方の実力を見極めます! イクサバアサヒ!!」
ビシッと俺を強く指差しながら、決闘を申し込んでくるグローリア。
RPGあるある、闘技場イベント発生しちゃったんですけど……!?
☆
そんな朝陽とグローリアのやり取りを、木のてっぺんから静かに見守っている人物がいた。
マヤ姉こと、軍場真夜だ。
さきほどの大地切り裂く斬撃波も、真夜の横やりだったようだ。
「決闘か……さて、どうしたものか」