力比べには自信がありましてよ
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも同時連載中です。
コミカライズ1~2巻発売中です。
「それではアサヒ様! よろしくお願いします!」
「え!? ちょっ、待っ…!」
村人たちが俺の背を押し、オーク腹違いの兄の前に突き出す。
なし崩し的にオーク討伐する流れになってしまったんですけど。
まるで生け贄にされたような気分である。
「おにいちゃんガンバレー!」
「うぐっ…! ア、アンちゃん…!」
アンちゃんの声援がさらに退路を塞ぐ。
純真無垢に俺を信じるその視線が痛い。
「腹違いの弟たちの仇ぃぃぃ!」
肉切り包丁によるオークの攻撃が俺を襲う。
俺の背丈ほどもある得物だ、剣でまともに受けられるはずがない。
「くっ! 『エスケープ』!!」
俺は戦闘回避スキルのエスケープを使い、攻撃を回避する。
オークの攻撃は、俺の背後に置いてあった樽の山を真っ二つにした。
その威力に背筋が凍る。
「や、やべえ…!」
「こんな貧弱な小僧がオーク三兄弟を倒したとはなぁ……思えんな、到底!」
そりゃまあ、殺ったのはマヤ姉ですし。
ソロでオーク退治は無理ゲーと悟っても、村人たちが見ている手前、退くわけにはいかない。
ここは何とか時間稼ぎをして、マヤ姉が俺のピンチを察知して駆けつけてくれることを期待するほかない。
「ダンナ! オレタチハ!?」
オーク腹違いの兄の配下であろうモンスターたちが指示を仰ぐ。
「村の連中でも襲っておけ!」
「なに!?」
オークの出した指示は、残忍極まりないものであった。
「ヒャハアアア! ニンゲンガリノジカンダアアア!」
ゴブリンが、スライムが、ウルフが、一つ目のアーリマンが、村人たちに襲いかかる。
まずい。オークの相手だけで手一杯で、村人らを守る余裕まではまったくない。
「や、やめろぉぉ!」
俺は叫んだ。
「ヒャハハハ……ハ?」
今まさに村人を襲おうとしていたモンスターが、綺麗にタテに割れる。
真っ二つになったのだ。
「!?」
俺とオークが同時に驚愕する。
モンスターらの集団の中心に出現したのはメイドであった。
両手にダガーを携えた、小柄なメイドの少女。
「…………」
少女は無言のまま再びダガーを構えると、華麗に演舞し始めた。
「『乱れ月光花』」
目にも止まらぬ超スピードによる、二刀の斬撃。
黒髪のショートヘアをなびかせたメイドが、汗ひとつかかずにクールに、オークの配下たちを八つ裂きにしていく。
「つ、強い…! っていうか、メイド? 戦うメイド!?」
いきなり現れた、オタクの妄想を具現化したようなメイド戦士の出現に驚く俺。
「……様子を見るのでは? お嬢」
メイドの視線の先から、また一人新たな登場人物が現れる。
金髪のロングヘアに、鋼製のフルアーマーを身に纏った女剣士。
手には自身の身の丈はあろうかという大剣。
そんな武骨な姿からは想像できない優雅な足取りで、戦地へとやってくるお嬢と呼ばれた女性。
「”イクサバアサヒの実力を見定める絶好の機会”……しかし無辜の民が危機に晒されているとあらば、看過できませんわ。クオン」
金髪フルアーマー少女が居丈高に叫ぶ。
「退治して差し上げますわ! このグローリア・ブリガンダインが!」
気のせいか、背景に薔薇の花びらが舞ったような錯覚を見た。
「こ、今度はお嬢様言葉の大剣使い……!? だ、誰なんだ、この人ら……」
すっかり置いてけぼりを食らった俺は、ただただ目を丸くするだけであった。
「なんだぁ貴様ら!?」
オーク腹違いの兄が、グローリアと名乗った女性に向け、肉切り包丁を振り下ろす。
「まずい! その攻撃は避けて!」
俺がそう叫ぶも、しかし金髪女剣士は、手に持っていた大剣でその攻撃を事も無げに弾いた。
「パ、パリィ!? あんな重そうな攻撃を、女の子がパリィで弾いた!?」
驚愕したのは俺だけはない。
「な、なんだと…!? 俺の攻撃を……!?」
オーク腹違いの兄もまた、驚きの表情を見せている。
自分の体格の半分もない少女に攻撃を弾かれたんだ、ムリも無い。
「わたくし、力比べには自信がありましてよ?」