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村の英雄

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。

同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも同時連載中です。


コミカライズ1~2巻発売中です。

 それは一通の手紙から始まった。


 覚えているだろうか、かつてオーク三兄弟に襲われていた村のことを。

 俺たち軍場姉弟がそのオーク三兄弟を倒し、村を救ったことを。

 手紙は、その村から届けられたものであった。


「イクサバアサヒ様。以前は我が村をオークから救って頂き、誠にありがとうございました。改めて、村をあげて感謝の宴を催したいと考えております。ご足労願うことになりますが、再び我が村へおこし頂けないでしょうか……だって、マヤ姉」

 手紙を読み上げる。

「すっかり英雄扱いだな。弟が褒め称えられて、姉として実に気分がいい」

「つっても、オーク三兄弟を秒で鏖殺したの、マヤ姉なんだけどね……」

 俺がやったことと言えば、村の少女を身を挺して庇ったことと、オークの攻撃の矛先になったことでマヤ姉の戦意に火を付けたことくらいである。


「朝陽の銅像を記念に作ってもらってもいいくらいだ」

「やめて恥ずかしい!」

 仮に作ってもらっても、目の前にいる姉が速攻でパクっていきそうである。


「せっかく歓迎してくれるみたいだし、行こうかマヤ姉」

 俺がそう言うと、マヤ姉は小さく首を横に振った。

「私は遠慮しておく。朝陽だけで行ってくるといい」

「え、なんで」

「あの村の英雄はあくまで朝陽だからな。私まで出張るとややこしいことになりかねないだろう?」

 マヤ姉にしてはずいぶんと殊勝である。

 普段は黙っていても出張る姉なのに。

「そっか。じゃあ俺だけ行ってくるよ」



 馬車を走らせること小一時間。

 俺は件の村へとやって来た。


 田畑と羊と小さな民家しか目に付かない、こじんまりとした農村である。

 普段住んでいる首都エピファネイアがスケールの大きな街だけに、尚のことそう思う。

 こう言っては何だが、オーク三体に蹂躙されてしまうのも理解出来る規模だ。


「ようこそおいでくださいました! アサヒ様!」

「ささ、どうぞ! 村長の家にて、歓迎会の準備がしてありますので!」

 入り口の物見櫓にいた門番たちが案内をしてくれる。

 村の奥にある少しだけ大きな家屋、ここが村長の家のようだ。


 中に入ると、テーブルの上に料理が所狭しと並べられていた。

「わ、凄い料理…!」

 思わずヨダレが出そうになる。

「さあアサヒ様、どうぞお座り下さい」

「この間は我が村をオーク三兄弟から救って頂き、ありがとうございました!」

「遠慮なく食べて下さいね!」


 どんどん運ばれてくる料理。

 貧しい村だろうに、こうして精一杯もてなしてくれるのは嬉しい事である。

 本来ならマヤ姉が受けるべき歓迎ではあるのが、少し複雑だけれど。


「あれからさらに戦果を上げ、王都にも名を轟かせているとのこと!」

「さすがです、アサヒ様!」

「ま、まあ、一応……」

 それもマヤ姉の功績なんですけどね。


 すると、俺が座っていたテーブルに一人の少女が駆け寄ってきた。見覚えのある子だ。

 俺が唯一胸を張れる功績……オークの魔の手から救った女の子である。 

「ゆうしゃのおにいちゃん! また会えてうれしい!」

 少女は無邪気な笑みを浮かべながら、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいる。かわいいかよ。

「キミは俺が助けた……」

「アン! あたし、アンって言うの!」

「アンちゃんか。元気そうで良かった」

「うん! おにいちゃんがたすけてくれたからだよ!」

 ホッコリする……天使かな、この子。


 そんなホッコリとした空気が、突如終わりを迎えた。

「アサヒ様! 突然ですが、お願いがあります!!」

 村長を中心に、大人たちが一斉に俺に向かって土下座をし始めたのだ。

「は、はい?」

 俺は目が点になった。

 アンちゃんも「?」といった表情をしている。何事だろうか。


「この村がまたオークに目を付けられてしまったのです! 何卒! どうか何卒、再びオークを討伐して頂けませんか!?」


 感謝の宴かと思ったら罠だったでござるぅぅぅ!

 俺は愕然とした。

 危うく食べた料理を戻すところだったぞ。


「だ、騙すようなマネをして申し訳ありません!」

「本来ならギルドを通すべき案件なのですが、なにぶんこの村は貧しいもので……」

「オーク三兄弟のときの討伐依頼も、村中のお金をかき集めてやっとでして!」

 事前に口上のリハーサルでもしていたかのように、村人たちが順番順番に理由を述べてくる。

 皆一様に、困り果てた表情である。


「じ、事情は分かったけど、こんな騙し討ちみたいな手はどうかと……」

 というか、前もって言ってくれれば世界最強の召喚獣ことマヤ姉を帯同させてきたのに!

「そうだよ! みんなひどいよ!」

「アンちゃん」

 アンちゃんだけはどうやら俺の味方のようだ。さすアン。

「おにいちゃんなら、こんな回りくどいやり方しなくたってきっとやってくれたよ!」

 アンちゃああああん!?

 味方どころか、後ろから撃たれたんですけど!?

 フレンドリーファイアやめて!


 そのとき、ドシンドシンと地響きが聞こえてきた。

「な、なんだ? この地響き……」

 何か巨大なものが村へ近付いてくる音だ。

「みんな! 大変だ! 村の入り口にモンスターの集団が!!」

 先ほど俺を案内してくれた門番の一人が、血相を変えて村長の家へと駆け込んできた。

 俺たちは村の入り口へと向かった。


 見ると、村の若い衆がクワやスコップ片手にモンスターらを牽制していた。

「い、今ここにはオーク三兄弟を倒したアサヒ様がいるんだぞ!?」

「か、帰れ! 帰るんだ!」」

 しかしその脅し文句に、怯むどころか好戦的になるモンスターがいた。

 集団の中心にいたリーダーと思しき巨躯の者……オークである。


「そいつはちょうどいい…」

「な、なんだって? うわああ!」

 オークは手に持っていた巨大な肉切り包丁を振り回すと、若い衆らを切り払った。


「俺はオーク三兄弟の腹違いの兄! 弟たちの仇、取ってやろう!!」


 なんとこのオーク、オーク三兄弟の腹違いの兄だったようである。

 オークさん家、家庭環境が複雑すぎませんか!?

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