犯罪クラン
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも同時連載中です。
コミカライズ1〜2巻発売中です。
鬱蒼とした森の中に佇む、一軒の家屋。
その門の前ではガラの悪い野党と思しき男が数人、コンビニ前でたむろするヤンキーさながら、ウンコ座りをしていた。
俺の姿を見かけるやいなや立ち上がり、圧をかけてくる。
「なんだぁガキ? 何か用か?」
「ここはクラン”混沌麗流”(コントレイル)のアジトだぜ」
「引き返さねえとブチ転がすぞ!?」
「あ、いや、そのぉ…」
凄まれ、つい引いてしまう。
モンスターと対峙することには慣れても、やはり異世界でもオラついてくるヤンキーは苦手だ。
なにせこちとら、陰キャなもので。
しかしこちらには、そんな畏怖などとは無縁の無頼がいた。
マヤ姉こと、軍場真夜である。
マヤ姉は俺の背後からスタンドのように現れると、スタスタと彼らに歩み寄り、無言で片っ端から蹴りつけた。
「はごぉ!」「ふぐぉ!」「ぎゃん!」
ギャグ漫画みたいに十数メートル吹っ飛ぶ門番たち。
「よくも朝陽に圧をかけたな」
マヤ姉は既に気絶している門番をさらに締め上げようとする。
「ストップ! ストーップ! もう十分だから!」
「ダウチョに縄で括り付けて、市中引き回しにでもしないと私の気が収まらないんだが?」
「オーバーキルすぎる!!」
弟に牙剥いたヤツ絶対殺すマン、物騒すぎる。
「俺たちの本来の目的を思い出してよ」
☆
「冒険者ランクのシステムを悪用する犯罪クラン! その壊滅をアサヒくんに依頼したいんだ!」
冒険者ギルドにて、受付嬢のターニャが握り拳片手に懇願してくる。
「は、犯罪クラン? なんだそれ、ターニャ」
「冒険者ランクを捏造したり、金銭で売買したりするクランっす。ランク用の偽バッジを秘密裏に製造したり、他の冒険者を襲ってバッジを乱獲したり……とにかく、冒険者という職業を不当に利用する犯罪集団なんすよ。前も説明したけど、冒険者ランクは王都が認定した身分証明みたいなものなんだ」
「ああ、言ってたな」
「ランク詐称するなんて冒険者の風上にも置けないよ! マジ最低!」
言葉の刃がグサグサと俺に刺さる。
止めてくれターニャ。その術は俺に効く。
「ソ、ソウダネー。ランク詐称ナンテ、イケナイヨネー」
めちゃくちゃ棒読みになった。
「このクエストの依頼主は、ブリガンダイン家なんだ」
「ブリガン…ダイン家?」
なんだろう、この防御力高そうな家名は。
「ギルド運営のバックアップをしてくれている貴族なんすよ」
「へえ……パトロンみたいなものかな?」
あまりまだ関わり合いはないが、この国にも貴族とか公爵とかご令嬢とかがゴロゴロいるんだろうな。
俺と同じ立場で、破滅フラグしかない悪役令嬢に転生した子とかもいるかもしれない。
「標的はクラン”混沌麗流”(コントレイル)と、クラン”愚乱荒愚利亜”(グランアレグリア)……後者は別のパーティーが動くから、アサヒくんは前者をお願い!」
☆
「……とまあ、俺たちはこんな経緯で動いたわけで……って」
混沌麗流のアジトに侵入した……いや、正面口からカチコミをかけた俺たち。
アジト内にいた犯罪者たちは、すでにマヤ姉が全員のしていた。
「回想しているあいだに終わっちゃったよ!!」
「ふん、他愛ない」
マヤ姉はパンパンと身体に付いた埃をはたきながら、退屈そうにそう呟いた。
魔王軍の幹部クラスですらワンパンだもんな。
そりゃあ人間の犯罪組織程度、秒で片付けちゃうか。
頼りになる姉である。
「な、なんなんだお前らは!? 王国が送り込んだ人間兵器かなにかか!?」
混沌麗流のクランリーダーがそう叫ぶ。
残るはこの人物一人である。
「イクサバアサヒ。冒険者だよ。クランリーダーの……ええと、ロンベルトだな?」
資料を見て確認をする。
「アサヒ…? あのひと月でオーガ級になったとかいう新進気鋭の……! くそ、ギルドの差し金かよ!!」
犯罪組織の長にも、俺の名は轟いているらしい。
良いことなんだか、そうじゃないんだか。
俺はロンベルトを見据えて、言い放った。
「せっかく冒険者になったって言うのに、やることが金儲けの犯罪? くだらないな、アンタ」
「な、なんだと?」
「俺は第二の人生でこうして冒険者になれて、毎日楽しいよ。大変なことも多いけど、ああ、充実してる」
戸惑うロンベルト。
視界の端に見えるマヤ姉は、優しく微笑みながら見守ってくれている。
「つまらない生き方するなよな」




