光魔法レベル1
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも後追い連載が始まりました。
コミカライズ第2巻が11/12に発売されました。どうぞよろしくお願いします!
てんやわんやなレベル上げを終え、俺とマヤ姉とキルマリアは街へと戻ってきた。
シーザリオ王国の首都エピファネイア。
これが俺たち三人の拠点だ。
いや、魔王軍幹部のキルマリアにとっては、本来落とすべき敵国のような……
そしてそのキルマリア、今は認識阻害の魔術を使い、ごく普通の町娘の姿へと変化をしている。
「暴れ回って腹が減ったわい。マヤ、今日の晩飯はなにかの?」
「……お前、私のことをお母さんか何かと思ってないか?」
呑気に腹を鳴らすキルマリアと、ジト目でツッコミを入れるマヤ姉を引き連れ、街を練り歩く。
「疲れた……非常識の二人がいると苦労が絶えないなぁ。常識人枠の俺がいなかったら、この二人まともに生活できてないでしょ、絶対……」
戦闘面では役に立たない俺だが、この二人の手綱を握っているのは自分だという自負はある。
そんなことを思っていると、街の住民からいきなり声を掛けられた。
「こんばんは! マヤさん!」
「え?」
えっという声を漏らしたのは俺である。マヤ姉が往来で話しかけられるなんて驚きだ。
声を掛けた人物は大きな肉切り包丁を持った大男であった。
その背後には、檻に入れられた大きな牛が見える。
「生きの良いあばれ牛が入ったよ! このあとバラすから、買ってってよ! 良い部位売るよ!」
「そうか。後で寄らせてもらうよ、肉屋の大将」
反対側の酒場から、今度はキルマリアに話しかける人物が現れる。
冒険者たちが酒瓶片手に、どんちゃん騒ぎをしている様子だ。
「マリアちゃーん! また飲み比べしようぜー! ひっく、ういー」
「フッ、よかろ……コホン、いいですよ?」
ヨダレを垂らしながら、キャラを取り繕う。
マリアとは、キルマリアが使っている市井での偽名だろうか。
住民とコミュニケーションが取れている二人を見て、俺は目が点になった。
「ふ、二人とも、やけに街に馴染んでない? なんで?」
「ここでの生活もそれなりに長いからな。それに私は食材を買いに市場や商店街によく顔を出す。各店舗の店主らとはもう顔馴染みだよ」
「カッカッカ! タダ酒を飲むツテは確保済みじゃ! マヤは家では酒を出してくれんからのう」
「当然だ。食費だけでも迷惑を被っているのに、酒など出せるか」
「ケチくさいのう、マヤは」
異世界最強のチート姉さんや、人間に扮してる魔王軍幹部の方が、俺より社交性高いまでないか?
俺は焦った。
常識人枠を失ってしまったら、俺の取り柄ってなに。
ステータス画面を開く。
「スキルツリーにコミュ力UPとかない!? スマイル+10%とか、トークデッキ増加とか……とにかく社交性を高めるスキルを……あれ!?」
画面に表記されているスキル名を見て、俺は驚きの声を上げた。
「どうした、朝陽?」
「大声など出してどうしたんじゃ」
「俺のスキルツリーに”光魔法レベル1”があったんだよ! 光属性のスキルだ!」
「光?」
マヤ姉が首を傾げる。
「この世界は火水風土氷雷光闇の八属性に分かれておるんじゃよ。わらわの場合は火と闇じゃ」
「クリムゾンブレイズ、フィアフルフレア、イグニートファイア……確かにキルマリアが使う術はすべて火属性だな」
「ふふん、わらわの術をちゃんと覚えているとは、さすが我がライバルよ!」
「前々から思っていたんだが、この小っ恥ずかしい術名はなんなんだ?」
辛辣なことを言うマヤ姉。
「カッコいいじゃろ!? というか、姉ファイアとか姉ブリザードとか付けるヤツにどうこう言われたくないわ!!」
「その意見に関しては、俺もキルマリアに全面同意なんだよなぁ……」
俺は深く頷いた。
ちょっと複雑だが、キルマリアの術名は俺の琴線に触れるセンスをしている。
もし自分がトドメを刺されるなら、姉ファイアよりクリムゾンブレイズの方が断然いい。いや、死にたくないけども。
「八属性か……私は特に意識なく全属性の魔法を使えているんだが、一体何属性に当たるんだ?」
マヤ姉が、俺なんかやっちゃいました?的に他意なく呟く。
「そんなヤツぁおぬしくらいじゃ! 末恐ろしい女め!」
「強いて言うなら……姉属性?」
姉 is 最強。
「しかし光か……ずいぶんと抽象的な属性だな。炎を燃やす火属性や、雷を放つ雷属性といった方が、分かりやすくて良かったんじゃないか?」
そんな疑問を抱くマヤ姉に対し、人差し指を振りながら言ってやった。
「チッチッチッ……分かってないなぁマヤ姉。光属性こそアツいんだよ!」
俺は熱弁を振るった。
「RPGにおいて、神聖かつ清廉な光属性は正義の象徴……主人公に宿されるケースが多い属性! いわば王道なんだよ! 光を纏い、邪なる闇を祓う……このシチュエーションに燃えない人はいない!」
光の戦士、最高です。
「テンション高いなぁ、朝陽」
「祓われる側のわらわがいる前で、よう熱弁しとる」
瞳を輝かせながら語る俺を、生暖かい目で見守るお姉様方。
「神聖となると、神官職のソフィも光属性なのか?」
ソフィ=ピースフルの姿を思い浮かべる。
「ソ、ソフィもそうだと思うと、途端に正義感が薄れるな……あの子、根がまあまあの畜生だし……」
ともかく。
光魔法レベル1のスキルが現れたということは、俺にも何らかのスペシャルな才能が眠っていた証左でもある。
忘れかけていたが、俺は異世界から召喚されたイレギュラーな存在だ。
同じくイレギュラーなマヤ姉にチートが付与されているのならば、俺にも同じく何らかのチートが実装されていないとおかしいでしょという話である。
「ホーリー○○とかシャイニング○○っていう術名かなぁ?」
ウキウキ状態の俺に、キルマリアも合わせてきた。
「セイクリッド○○かもしれんぞ?」
「おお! それもカッコいいな!」
キルマリアとはやはりセンスが似通っている。信頼できる魔王軍幹部である。
「うーむ、蚊帳の外」
姉○○の使い手、マヤ姉が静かにぼやいている。
そのとき、市場の方が騒々しくなった。
人々の叫声や悲鳴が聞こえる。
「あばれ牛が檻を破ったぁー!」
「巻き込まれるぞ! 逃げろー!」
「きゃあああ!」
先ほど肉屋の店主が捕らえていたあばれ牛が、脱走して市場を破壊しまくっていた。
牛というか、もはやバッファローのようなサイズ感である。
「ほう、牛の暴走かえ」
「肉屋の大将が言っていたように、生きが良い……脂が乗って美味そうだ。すぐに鎮めてやろう」
市場のピンチに立ち上がるマヤ姉とキルマリア。
この二人にかかれば、バッファローなど秒で肉片も残らないだろう。
しかし、その二人の機先を制する者がいた。
軍場朝陽……俺だ。
「新スキルを試す良い機会だ。俺にやらせてよ、二人とも」
俺はステータス画面から覚えるスキルを選び、指先でタッチをした。
「光魔法レベル1、習得!!」
身体の周囲に光が立ち上る。
頭に、脳に、詠唱すべき呪文が浮かんでくる。
俺はあばれ牛に向けて手をかざすと、その浮かび上がってきた呪文を唱え始めた。
「『清浄なる光よ……その曇りなき輝きにて、仄暗きこの世界を灯したまえ……光あれ!!』」
俺を中心に、周囲にまばゆい光が放たれる。
「朝陽!?」
「な、なんじゃ! この光は……!?」
「ブフォ!?」
夕闇を照らすほどのまぶしさに、あばれ牛も思わず目を瞑りその場に立ち尽くす。
さあ、ここからどうなる?
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
固唾を呑んで見守る俺、マヤ姉、キルマリア。
そして空気を読んだのか、同じくなぜか微動だにしないあばれ牛。
3人と一匹の空気が静止する。
しかしランタンのように光が灯されるだけで、それ以外は何一つ起こらなかった。
「…………え? 光るだけ?」
☆
光魔法レベル1:『フラッシュ』
自らを光源とし、周囲を照らす光魔法。ランタンやたいまつが無くともダンジョンを歩くことが出来る、便利な探索魔法である。なお、詠唱せずとも発動可能。