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嬉しい事

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも後追い連載が始まりました。


コミカライズ第2巻が11/12に発売されました。どうぞよろしくお願いします!

「外の世界に憧れ持ってもらうため、冒険者たちの話を聞かせてあげてるんすけどね」

 自分の背後に隠れている弟のロイを優しい瞳で見ながら、そう語るターニャ。


「ギルドの受付嬢だもんな。冒険者デッキは山ほどあるか」

「でもなかなか内向的な性格は治らなくってさぁ」

 自分も小さい頃は姉頼りの子だったから気持ちは分かる。

 まあ今も姉頼りで異世界何とか生き延びてる感じありますけど。


「あ、あの…アサヒくん…?」

 ロイがひょこっと顔を出し、震える声で俺に話しかけてきた。

「んー? なんだい?」

「アサヒくんの話……お姉ちゃんからいっぱい聞いてます……スゴい人だって、楽しそうにいっつも……」

「いっ!?」

 弟からそう告げ口され、みるみる顔が赤くなっていく姉。

 褐色ッ子でもよーく分かるくらい、顔が上気している。


「ち、ちがっ、いっつもはしてないっす! たまに! まれに!」

 ターニャはロイの口を塞ぎながら、必死に弁明してきた。

「お、おう」

 こういうのはこっちも照れる。俺は話を変えることにした。

「そ、それより、休みなんだよな? こっちの道、冒険者ギルドじゃないか?」

「あ、うん。今日は依頼人としてね。隣町まで行く用事があったから、護衛と馬車の手配を」

 なるほど。

 街道は比較的安全とは言え、一市民が、それも女子供が歩くには危険もある。賢明な判断と言えよう、さすがギルド受付嬢。


 ロイがターニャの服をグイッと引っ張る。

「どったの、ロイ?」

「お姉ちゃん……その、アサヒくんにお願いしたら……?」

「そっか! オーガ級のアサヒくんなら百人力っすもんね! 隣町まで護衛、お願いできないかな!?」


 冷や汗をダラダラとかき始める俺。

 ま、まずい……モンスターと遭遇したら、俺がたいして強くない事実がバレてしまうかも知れない。ターニャはある意味、一番バレてはいけない相手だ。もしバレたら……


『アサヒくんって、クソザコ冒険者だったんすねぇ……失望っすわ。ぺっ!(ツバ吐き)』


 妄想上のターニャが辛辣な態度で俺を責め立てる

 うおおおお、立ち直ることができねぇぇぇ!


「ね、お願い! ほら、ロイもアサヒくんのカッコいいとこ見たいって! ねえ?」

「う、うん……お願いします……」

「う……き、期待の眼差し……!」



 程経て。

 俺たち3人は手配した馬車に揺られながら、街道を進んでいた。

「いやー、アサヒくんは優しいっすね!」

「ま、まあターニャにはいつも世話になってるし、護衛くらいはね、うん。タダでやるさ」

 結局、情にほだされた俺であった。

 まあ世話になりまくっているのは事実だし、それに街道沿いは強いモンスターもまず出ないから大丈夫だろう。


 せっかくの機会だ。俺は交友を深めるためにロイに話しかけた。

「どう、ロイくん? 外の世界は」

 しかしロイはまたもビクッと驚き、姉にしがみついてしまった。

「あらら」

「な、なかなか打ち解けられないな」

「冒険者の話には目を輝かせてくれるから、憧れはあると思うんすけどねぇ」

 そう言って、ロイの頭を優しく撫でるターニャ。


 うん、しっかりと”姉の表情”をしている。

 今まではギルドの受付嬢としての姿しか見てこなかったが、ターニャも姉なんだなとその顔で実感した。


 そのとき、突如馬車がガタガタと揺れ始める。

「きゃっ!?」

「なんだ!? 馬車が揺れてる!? 御者さん、どうした!」


「ワイバーンだ!!」

 御者がそう叫んで空を指差す。確かにそこには、毎度お馴染みワイバーンがいた。

 お前ら、いっつもイヤなタイミングで現れるな!?


 ワイバーンが火球を口から放つ。

 直撃は避けられたが、衝撃で馬車が横転、俺たち3人は外へと投げ出されてしまった。

「いつつ……だ、大丈夫か!? ターニャ! ロイくん!」

「な、なんとか……」


「ひええええ! お助けぇぇぇ!」

 御者が、いの一番に馬車をほっぽって逃げ出した。ついでに馬車を引いていた馬二頭も猛ダッシュで逃げている。

「客置いて真っ先に逃げんじゃねー! 御者さん! そんで馬もー!!」

 金返せマジで!?


 背後に迫る害意を察し、振り返る。

 そこにはワイバーンがいた。

 マヤ姉やキルマリアには雑魚が如く瞬殺される対象だが、俺にとっては強敵も強敵、断然格上の相手だ。みるみる血の気が引いていく。


「や、やば……! お、俺たちも逃げないと……!」

 しかし退路を断ったのは、ワイバーンではなく身内だった。

「こわいよう、お姉ちゃーん!」

「大丈夫だよ、ロイ! 悪いヤツはアサヒくんが倒してくれるから!」

 引くに引けない状況にされたんですけどぉぉぉ!?

 

 ロイが泣き腫らした目で、期待を込めた眼差しを俺に送ってくる。

 ここには今、俺しかいないんだ……引けねえか、そりゃあ。


「来い!! 俺が相手だ!!」

 俺は覚悟を決めて、ワイバーンと対峙した。


 猛然と飛びかかってくるワイバーン。

 えらいもので、普段マヤ姉やキルマリアの神速の動きを目で追っているから、動きがとてもスローに見える。

 ワイバーンの攻撃を避けながら、一太刀浴びせる。

「ブフッ……?」

 しかしワイバーンは平気そうだ。

「クッソ! 俺の攻撃なんかじゃまともなダメージが入らない! どうすれば……」

 そのとき、ワイバーンが再び火を噴こうとし、コオオオっと息を吸い込み始める。


「ここだ! 『投石』!!」


 俺は自分の得意スキルである投石を発動した。

 投石?とバカにすることなかれ。

 このスキルはどんなノーコンでも、狙った対象に石つぶてが100%命中する意外に有能な技なのだ。

 イップスになった野球選手にぜひとも習得させたいほどだ。


 その命中率100%の投石が、今まさに炎のブレスを吐かんとしているワイバーンの口に放り込まれる。

 食道に入り込んだ石によって行き場を失った熱気に、もがき苦しむワイバーン。

 みるみる身体が赤く変色していき、カッという光と共に、内側から爆発が起こった。

 哀れ、ワイバーンは黒焦げになって地面に落下した。


「や、やったのか…!?」

「さっすがアサヒくん! スゴーい!」

 ターニャは喜びを爆発させ、ハグしてきた。喜び方と距離の詰め方がマジ陽キャです。照れる。

 ロイの方を見ると、彼もまた瞳を爛々と輝かせていた。

「か、かっこいい…! 僕もアサヒくんみたいになりたい!」

「へへ、そう?」

 俺もまた、誰かの憧れになれたのなら、これほど嬉しい事はない。


「馬車使えなくなったし、ここからは歩いて行こう」

「うん!」

「はい!」

 俺たち3人は街道を歩き出した。


 ☆


 歩き出した3人に向けて、いまだ害意を失わぬ者がいた。

 ワイバーンだ。

 身体から煙を発し、息も絶え絶えになりながらも、ワイバーンは今だ生きていたのだ。

 再び息を吸い込み、油断している3人に向けて炎のブレスを吐こうとしているワイバーン。

 その頭が、何者かによって脚で踏まれ、地面に叩きつけられる。


 驚いたワイバーンは、広範囲見渡せる眼球を駆使してなんとか頭上の来訪者を視認する。

 それは真夜であった。

「お前は朝陽に倒された。ああ……そうだな?」

 次の瞬間、グシャッという鈍い音が空に響いた。


 すでに数百メートル先を進んでいた朝陽たちは知ることのない、ちょっとした出来事であった。


 ☆


 ターニャ姉弟の送り迎えをしていたら、すっかり夕方になってしまった。

 俺は家に帰った。

「ただいまー」

「お帰り。遅かったな、朝陽」

 エプロン姿のマヤ姉が俺を出迎えてくれた。

 今日はマヤ姉に自慢したいことがあるんだよなぁ。

「はは。いやぁ、今日は色々あってねぇ……って、へ?」

 テーブルを見て目を丸くする。


 そこにはフルーツ盛り沢山で色彩豊かな、大きなホールケーキがあった。

「な、なにこのケーキ!? 美味そう!」

 マヤ姉がニコリと微笑む。

「ふふっ、嬉しい事があったからな……そのお祝いさ」


 俺は首を傾げた。

「嬉しい事? なんかの記念日だっけ、今日?」

「いいからいいから。さあ、食べよう」

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