表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/180

シーザリオステークス

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも後追い連載が始まりました。

 4コーナーを回って直線に入り、16頭ものダウチョたちがゴール板目掛けて駆けてくる。

 背に乗った騎手たちは、鞍に座りながら必死に手綱を動かしている。

 鳴り響く地響き。羽券片手に声援を送る観客たち。

 ダウチョレース場は興奮のるつぼと化していた。

 

 俺も羽券を握りしめながら、応援している馬……じゃなかった。ダウチョの名を叫ぶ。

 頼んだぞ、キングヘイポー!

 お前に100マニー賭けたんだ!


「逃げるキングヘイポー! 後続との差が詰まってくる! アオゾラスカイがキングヘイポーを交わし先頭に立った! アオゾラスカイ! アオゾラスカイ! しかし外からスペシャルデイリーだ! 並ばない! 並ばない! あっという間に交わした! スペシャルデイリー今1着でゴールイン!!」


「また外したー!」

 俺は外れた羽券を、他の客に倣って宙に放り投げる。

「ダメだったか、朝陽」

「うう、難しいなぁ。ダウチョレース」


「よし! 獲った!」

 隣で同じくレースを観ていたジークさんが、当たり羽券片手にガッツポーズを見せる。

「ジークさん、よく当たりますね。何か秘訣が?」

 そう問うと、ジークさんは目を輝かせながら語り始めた。


「ダウチョレースは血統や展開、騎手、トラックの状態などを参考に予想するものだからね。スペシャルデイリーは父サンデーウェブリだから血統的に左回り2400mがベスト……それに外差しのトラックバイアスがかかっていた。自身の本命だったよ、うん。朝陽くんが買ったキングヘイポーは押し出される形でハナを切ったのが失敗だったね。距離も若干長かったかな。テンが速いし、将来は意外にスプリンターとして大成するかもよ?」


 めちゃくちゃ早口かつ長文である。

 この人、ドラゴン級の誉れ高き戦士かと思いきや、ただのギャンブラーなのでは……


「次はメインレースのシーザリオステークスだ」

 ジークさんがそう言う。

「シーザリオステークス?」

「シーザリオとは、この王国の名だな。その名を冠するということは……」

「ああ、国賓も見に来るビッグレースだよ」

 競馬で言うところのダービーとか有馬記念のような大きなレースらしい。

「パドックを見に行こう。出走ダウチョの状態をチェックするのも大切だからね」

 俺とマヤ姉とジークさんの3人はパドックへと向かった。


 その道すがら、老齢の調教師に手綱を引かれたダウチョと遭遇する。

 騎手を乗せていたダウチョだったが、急に暴れて鞍上を振り落としてしまう。

「こら、アーサー!」

 調教師のその罵倒に、ピクリと反応する俺とマヤ姉。

 一瞬、自分のことを呼ばれたのかと思った。


「この駄ダウチョ! まーた騎手を振り落としやがって!」

「いっつぅ……しこたま腰打ったぁ。センセイ、俺もう乗れませんよう」

 ムチを片手に激昂する調教師と、腰を押さえ地面にうずくまる騎手。


 ジークさんがこのダウチョについて解説をする。

「問題児アーサーだ。シーザリオステークスに出走するダウチョなんだけど、気性が荒くて調教師もずっと手を焼いてるんだ。それが災いして、近走は二桁着順続き……オッズも最低人気さ」

 単勝のオッズを新聞で確認する。120倍……100マニー賭ければ12000マニーになる大穴だ。

 しかしどうやら勝ち目のないダウチョのようだ。


 口角泡を飛ばしながら暴れるアーサーという名のダウチョを、ジッと見つめるマヤ姉。

「アーサーか……朝陽とシナジーを感じる名前だな。心なしか、顔付きも似ている気がする」

「俺、あんなアホそうなダチョウ顔してる!?」

 心外なんですけど。


 老齢の調教師が、残念そうに呟く。

「騎手がケガをしたんじゃ出走取り消しだなぁ。成績も頭打ちだし、こりゃもう肉か……」

 その言葉を聞き、驚く俺。

「に、肉!? 殺処分されるの、こいつ!?」

「結果を残せないダウチョは食用にされるんだ……厳しい世界さ」

 ジークさんが不憫そうな表情をしている。

 そういったダウチョを何十何百と見てきたような、そんな悟った表情だ。

「か、可哀想だな、なんか……」

 こういう言葉も、きっと甘いのだろうなと思うのだけれど。


 俺は隣に立つマヤ姉の顔を見た。

 マヤ姉は黙ったままただジッと、アーサーの顔を……いや、瞳を見つめている。

「…………」

「マ、マヤ姉?」

 マヤ姉がおもむろにアーサーに近寄る。


「なんだ、嬢ちゃん? 関係者以外はダウチョに近付いちゃいかんぞ」

「レースもまた、生き死にの世界だ。弱き者が淘汰されてしまうのは仕方ない。だが……」

 マヤ姉がアーサーの首筋を優しく撫でる。

 先ほどまで暴れていたアーサーだったが、マヤ姉が触れた途端、不思議と落ち着きを取り戻した様子である。

「アーサーが落ち着き始めた……!?」

「お、おお!? アーサーが急に静かに……じょ、嬢ちゃん、あんたは一体……?」

 その光景には調教師やジークさんも驚いている。


「この子の目はまだ死んでいない」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ