ダウチョレース
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも後追い連載が始まりました。
いずれも毎週金曜日更新です。
街中でジークフリートさんを見かけたとき、俺は目を疑った。
失礼ながら、いつも浮浪者のような小汚い格好をしているジークさんが、それはもう煌びやかな装飾のコートを身に纏っていたのだ。
「ジークさん!? なんですか、そのスゴい装備!?」
「ふふっ……奮発しちゃったよ、破邪のコート。2万マニー」
伸ばしっぱなしのヒゲをさすりながら、顔をほころばせる。
2万マニーとは、装備の中でも上位じゃないか。
いや元々この人ドラゴン級の冒険者だから、本来ならこの価格帯の装備をしていて然るべきなんだろうけども。
「冒険者休業中のジークさんのどこから、そんな大金が……?」
お酒を買うために、散財しまくって素寒貧だったはずだが。
「これだよ、アサヒくん」
ジークさんは一枚、小さな紙を取り出した。
なんだろう。定期とか保険証くらいのサイズの紙に、何やら番号が振ってある。
連勝単式、3-8、1000マニー……?
「”ダウチョレース”さ!」
☆
ダウチョレース。
それはシーザリオ王国で人気を博している、ダウチョなるモンスターらによる競走競技。
および、金銭を賭けて着順を予想する公営ギャンブルである。
☆
道すがらそんな説明を受けながら、俺たちはダウチョレース場へと移動してきた。
騎手を乗せ、トラックコースを迫力満点に走るモンスターの群れ。
熱狂する大勢の観客たち。
飛び交う馬券……いや、ダウチョ券?
とにかく、圧倒される光景であった。
「モンスターレース!? この世界のいわゆる競馬か!」
そう、それは現実世界でいうまさに競馬であった。
「先週行われた3歳牡ダウチョ三冠レース、菊ノ花賞で万羽券を獲ったんだよ。ステイヤー血統の人気薄を三連単マルチの買い目に入れていたのが大きかったねぇ」
したり顔かつ早口でそう語るジークさん。
俺がゲームを語るときのようなテンションだ……この人、もしかして相当なダウチョレースファン?
「ダウチョ……見た目はほぼほぼダチョウだな」
左隣にいたマヤ姉が呟く。
「はは、確かに」
ダチョウと、あとファ○ナルファ○タジーのチ○コボを足して2で割ったような見た目である。
なかなか愛くるしい顔をしている。
そこで俺は、ふとあることに気付いた。
気付いた後に地面を蹴り、凄まじい勢いでズザザァと後ずさりする。
「なんでマヤ姉がここにいるんだー!?」
勢いを付けすぎて、右隣にいたジークさんに思いっきり体当たりをしてしまった。
「おうふ!? ア、アサヒくんのお姉さん!?」
さも当然のように俺の隣にいたが、今日この瞬間まで俺はマヤ姉と行動を共にしてはいなかった。
俺の目に見えてるこの人、もしかしてイマジナリー姉さん?
マヤ姉といつも一緒にいすぎて、幻覚見えちゃってる?
イマジナリー姉さんはフッと微笑んだ。
「気配を悟られぬよう、コッソリ尾行していたのさ」
イマジナリーではなく、ストーキングだった。
「怖っ! やめて!?」
本当にやめてくだSTOP。
マヤ姉はダウチョたちが走るトラックコースへと目を向けた。
「モンスター同士の競走を見世物とするギャンブルか……朝陽の教育に良くないな。それに冒険とも無縁だ。こんなところに長居するものじゃー…」
俺はそんなマヤ姉に指を差し、チッチッと横に振った。
「分かってないなぁ、マヤ姉は」
「ん? どういうことだ、朝陽」
「ミニゲームの豊富さはRPGにとって大事なことなんだ! カジノ、カードゲーム、レース、リズムゲー、釣り……ミニゲームに没頭しすぎて、メインストーリー忘れるまである! 良質なタイトルには、良質なミニゲーム!」
俺は熱く語った。
うっかり早口になってしまった自覚がある。
「ほう、そうなのか」
マヤ姉は感心したように頷いている。
俺の熱弁に引くことなく理解を示してくれる姉、マジ寛大。
「つっても、最強装備入手のために鬼畜ミニゲームやらされたり、ラスボス戦がいきなり音ゲーになったりするのはどうかと思うけどね……ブツブツ……」
「ブツブツと小声で何を言っているんだ?」
雷を避けるのはもうイヤなんじゃ。
「偏見で物を語るのは良くないな。見識を広めるため、私も参加するとしよう」
「え、マジで? マヤ姉も?」
マヤ姉も参戦するらしい。
ここでジークさんを交え、自己紹介をする。
「こちら、ジークさん。ジークフリートさん。前にマヤ姉も壮行式で見たでしょ?」
「アサヒの姉の真夜だ。ダウチョレースのご教授を願おう、ジークフリートさん」
「よろしく。ジークと呼んでくれて構わないよ、マヤさん」
さあ、ダウチョレースの始まりだ!