こじんまりとしてませんか
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
同じく電子コミックアプリの『マンガワン』でも後追い連載が始まりました。
コミカライズ第1巻発売中です。
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振り返ると、そこにいたのはソフィ=ピースフルであった。
「ゲッ! ソフィ!?」
「やっと見つけましたよ! 勇者さま!」
ソフィは一気に距離を詰めてきた。
「冒険者ギルドで張っていれば、いずれ現れると踏んでおりました。さあさあ! 私をお仲間に!」
「あ、相変わらず圧がスゴい!」
めちゃくちゃグイグイくる。
ソフィ=ピースフル。
俺のことを勇者と崇拝する、神官職のヒーラーだ。
回復魔法が使える上に可愛いという清楚系ヒロイン枠と思わせておいて、その実、無自覚に毒を吐くトラブルメーカーなのだ。
ヘタに関わったら絶対酷い目に遭う……俺の勘がそう告げている。
だからこそ街中で迂闊に出会わないよう気を付けていたのだが、ギルドで張られていては遭遇不可避である。一本取られた。
「ヒーラーの知り合い、いるじゃないっすか!」
ターニャがクエスト応募の書類にペンを走らせる。
「じゃあ二人でクエスト受諾しとくねー」
「勝手に話進めないで!? ターニャ!」
「ではさっそく、現地へ向かいましょう!」
ソフィが俺の腕を掴み、強引に引っ張っていく。
「ひ、引っ張るなぁー!」
力強っ! ホントにヒーラー!?
俺の周りの女子、人の話聞かない子が多すぎない?
程経て、数時間後。
俺たちは街近くの森で、キラービーらと戦っていた。
「回復します、勇者さま! 『ヒール』!」
「サンキュー、ソフィ! これでまだ戦える!」
剣を振るい、襲い来るキラービーを一体、また一体と撃退する。
俺の初期スキル『投石』も、飛んでいる小柄の敵には実に有効だ。
気絶させ、その隙にドロップアイテムのハチミツを頂く。
俺とソフィのコンビは、思いのほか相性が良かった。
ヒーラーがいると、やはりパーティーの安定感が段違いである。
この子と関わるのは危ないかと思ったけれど、やっぱり女の子を守りながらの二人旅ってのはいいもんだ。
今、最高に主人公してる感ある。
そのソフィはと言うと、昏倒しているキラービーからハチミツを採取している俺を見ながら、何やらきょとんとした顔をしている。
何かおかしなことでもあったのだろうか。
「それにしても勇者さま」
「なに?」
「戦い方がこじんまりとしてませんか? もっと強いはず……ですよね?」
素朴な疑問をぶつけられ、滝のような汗を流す俺。
そうだ、ソフィは俺が強いものと信じているのだ。巨大食人植物を葬り去り、また漆黒の旅団たちを一瞬で片付けるほどの腕前……だからこその、勇者さま呼び。
それがこんな、キラービー相手に五分の戦いをしているのは確かに解釈不一致。原作エアプ状態だ。
俺が実はたいして強くないと言うことがバレてはいけない……ハッタリの出番だ!
「む……」
「む?」
「無闇に殺生を行うなんて、素人のやることだよ。モンスターの生態系をイタズラに乱すだけ……アイテム収集クエストでそれをする必要は無い。討伐クエストだったら、ああ、一網打尽にしていたさ」
コードギ○スのルルー○ュめいた、演技がかったイケボでソフィにそう告げる。
彼女はとても感銘を受けたようだ、瞳を輝かせている。
「モ、モンスターの生態系まで気に掛けているなんて、さすがです勇者さま!」
「まあね」
「ですよね! 勇者さまがあんな産廃キャラみたいな凡庸でみみっちい戦い方、するわけないですもんね!」
「ま、まあね」
毒が過ぎますよ、ソフィさん!?
人ってこんなに冷や汗が出るものなんですね。もう全然止まらないんですけど。
日が暮れ始めてきたが、ハチミツは10個しか集まっていない。
納品数までもう半分足らない。さて、どうしたものか。
「そうだ! ちょっと待っていて下さい!」
「ソフィ?」
ソフィは森の奥へと駆けていった。お花でも摘みに行ったのだろうか。
しばらくすると、ソフィが消えた森の奥から、木々をなぎ倒しながら何かが近付いてくる気配がした。
「な、なんだ……? 何か巨大なものが近付いてくる……!?」
「クイーンビーを連れてきましたぁ!」
こちらへ駆け寄ってくるソフィの背後には、キラービーの十数倍はあろうかという巨躯の女王蜂がいた。
身体に付いている針が、もはやドリルのような形状になっている。
その背後には、女王の配下であろうキラービーたちも十数匹くっついている。
「なんつーヤバいもん引き連れてきたぁぁぁ!!」
俺はソフィと共に、ダッシュで逃げ出した。
「クイーンビーがいれば、周囲にいる取り巻きのキラービーたちも集まってくるでしょう? 効率いいかと思いましてー」
呑気に剣呑なことをほざく。
本人にまったく悪気がないのが、よりタチが悪い。
「アホかぁぁぁ!」
取り繕っている余裕などない。
俺はトラブルメーカーヒーラーを罵倒しながら、全力ダッシュをする。
そのときだった。
空中からヒューッと、何かが落ちてくる。
それは直径10メートルはあろうかという、巨大な岩石であった。
岩石は見事にクイーンビーに命中。
哀れ、クイーンビーは岩に押し潰され、地面のシミになってしまった。
その衝撃で吹っ飛ぶ俺、ソフィ、そして取り巻きのキラービーたち。
「なっ、え……は!?」
一体何が起こったのだろう。俺は混乱した。
「さ……さすが勇者さま! 土魔法で大岩を降らせ、クイーンビーを倒すとは! やはりあなたは勇者さまです!」
ソフィはこれが俺の仕業だと思っているらしい。
周囲を見ると、キラービーたちがボトボトと地面に落ちて気絶していた。
これは絶好のチャンス、俺たちは納品分のハチミツを収集した。
「クエストのアイテムは、先に私が街に戻って納品しておきますね! 勇者さまはゆっくり帰ってきて下さい!」
「あ、う、うん……助かる……」
この場を後にするソフィ。
やっぱりソフィと関わったことで、とんだ災難に巻き込まれてしまった。
しかしそれはそれとして、この空から突如降ってきた巨大な岩石は一体……
そのとき、背後の草むらからガサガサと何者かが近付いてくる気配を感じた。
「だ、誰だ!?」
それはマヤ姉とキルマリアであった。
「朝陽じゃないか!? こんなところで何を?」
「マヤ姉!? それにキルマリアも……」
「おう、アサヒ。ふいー……思う存分暴れて、疲れたわい」
ピーマン食う食わないで死闘を繰り広げた後なのだろう、二人ともボロボロだ。
「場所を移動しながら戦っていたら、ここまで来たんだ」
「森という森、山という山をぶち壊しまくってしまったわい! カッカッカ!」
「山を……」
合点がいった。
さっき降ってきた大岩は、その戦いの”余波”ってわけね。
自然に優しくない二人だが、今回ばかりはそれに助けられた。
「色々あって俺も疲れたよ……腹も減ったし、家に帰ろう」
「そうじゃな」
「お前の家じゃないぞ……あとピーマンも食べろよ」
「断固拒否!」
俺たち三人は帰路についた。