純真無垢なシスコン朝陽
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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急にシスコンになって甘えだした朝陽を見て、真夜は溢れる煩悩を抑えきれなくなった。
「私も好きだぞ! 朝陽ぃぃぃ!」
そう言って朝陽を押し倒す。
その拍子に、朝陽は頭を地面にしこたまぶつけてしまった。
「痛っ!? ……あれ? 俺は一体何を……」
朦朧とする意識の中、あさひが目にしたものは、馬乗りになって今まさに自身に襲いかかろうとする姉の姿であった。
「姉弟で禁断の扉、開いちゃおう!」
「どど、どういう状況!? 離れてよ、暑苦しい!」
迫り来る真夜の顔を両手で押さえて、必死に抵抗する。
その行動に、真夜は驚きを隠せなかった。
「な、なに!? さっきまでの純真無垢なシスコン朝陽はいずこに!?」
「い、いねーよ! そんなヤツ!」
赤面しながら、シスコンを必死に否定する。
朝陽は本当に身に覚えがないらしい。
「あのモンスターたちの踊りを見ていたら、徐々に正気を失って……うーん、そこから何があったか思い出せない」
泥人形たちを見ながら、こめかみを押さえる。
真夜はハッと何かを思い出す。
「もしや、これが”混乱”というステータス異常か……!?」
以前道具屋に立ち寄った際、店主に”混乱”という状態異常について説明を受けたことを思い出す。
正気を失って味方を攻撃したり、呆けたり、幼児退行したりするらしい。朝陽がなった症状が、その中の幼児退行なのであろう。
「朝陽は混乱した結果、あんなブラコン垂涎モノのショタッ子に仕上がったというわけか……!」
冷静にイカれた分析をするブラコン姉さん。
そんな思案をしている間に、朝陽は泥人形たちに再び剣を向け始めていた。
「じゃあ気を取り直して、覚悟しろモンスター!」
ガタガタと震える泥人形たち。
「させるかぁぁぁ!」
そうはさせじと、真夜は朝陽にスライディングタックルを見舞い、豪快にすっ転ばせた。
予想外のフレンドリーファイアに、「なぜぇぇぇ!?」と言いながら宙を舞う朝陽。
真夜はすかさず、今し方窮地を救った泥人形たちの元へ向かう。
「キミたち! もう一度混乱のダンスを踊るんだ!」
唐突にそう言われ、キョトンとする三体の泥人形たち。
それはそうだろう。敵に”スキルを使ってこい”と言われたのだから。
「命が惜しくば、踊れ……!!」
真夜は手をバキボキと慣らして、泥人形たちに圧をかけた。
さきほど、自分たちの大将であったキュクロープスを一撃で屠った人間の命令だ。
泥人形たちは震え上がりながら、自分たちの命惜しさに必死に踊った。
「いったぁー……何でいきなりスライディングしてくるんだよ!? マヤ……姉……」
起き上がった瞬間、またも泥人形たちによる混乱のダンスを目の当たりにする。
「マヤおねえちゃーん!」
「ありがとうございます!!」
真夜に抱き付いてくる朝陽。
真夜は感涙しながら、その抱擁を味わうのであった。
「さっきは頭を打ったから正気に戻ったんだった……混乱はちょっとしたダメージでも治ってしまうものらしい。衝撃を与えないように慎重に堪能しないと。高価な骨董品を扱うように……赤子の頬を撫でるように……」
真夜は慎重に、しかし艶めかしい手つきで朝陽の身体を撫で回し始めた。
「おねえちゃん、おねえちゃん」
「ん? なんだい、朝陽?」
「ぼく、マヤおねえちゃんとケッコンする!」
ブホッ!
その言葉を聞いた瞬間、興奮が頂点に達したのであろう。
真夜は鼻血を思いっきり吹き出した。
勢いよく噴射された鼻血を至近距離で浴び、朝陽は再び正気に戻る。
「ぺっぺっ! な、なんだ!? なんで俺、血だらけに!?」
「ダンスよろしくー!!」
滝のように鼻血を垂れ流しながら、間髪入れずに泥人形たちに再度ダンスを要求する。
「マヤおねえちゃーん」
混乱した朝陽は再び真夜に甘え始めた。
「ふう…危ないところだった。さて、改めてこの甘美なひとときを楽しむとしよう」
ハグし合う姉弟の後方では、踊り疲れた泥人形たちが、息も絶え絶えで地面に横たわっていた。
寝る間もなくスケジュールを詰め込まれた、昭和のアイドルさながらの状態だ。過労死寸前。
そのときだった。
ズシンズシンという地響きを上げながら、新たな敵が来襲してきた。
「なんだ、この禍々しい気配は……!?」
現れたのは、先ほど真夜が倒したキュクロープスに酷似したモンスターであった。
有り体に言えば、”色替わり”のキュクロープスである。
「我は魔王六将”百獣のギガノト”様直属の配下、キュクロープスのブロンテス! 我が兄弟ステロペスの危機を察し、馳せ参じた! 人間共よ、覚悟……」
「『姉フレア』!!」
弟との蜜月を邪魔した者には即刻、死を。
姉の怒りの核熱魔法によって、哀れブロンテスは兄弟のステロペスと同じく、一撃で抹消されてしまったのであった。
「あいた!」
魔法の衝撃によって飛んできた小石が、いまだ混乱中の朝陽に当たってしまう。
「し、しまった! 朝陽が正気に! キミたち、混乱のダンスだ!」
再び泥人形たちに命令をする。
しかし反応がない。
「キミたち?」
真夜が振り返ると、そこには今の姉フレアの衝撃によって吹き飛ばされたのだろう、バラバラになった泥人形たちの死骸が散乱していた。
「キミたちぃぃぃぃぃぃ!!」
真夜は愕然とした。
「今回ばかりは恨むぞ、自分の有り余る力を……!!」
無念の表情を見せながら、力を制御できないタイプの主人公みたいなことを言い出す。
「もう朝陽を混乱させることは出来ない……夢の時間はもう帰ってこない。……いや、諦めるな軍場真夜! 自慢の”姉力”を発揮するんだ!!」
真夜は何かを決意したように、カッと目を見開いた。
混乱が解けて正気に戻った朝陽は、荒れ果てた周囲を見渡して驚いた。
「な、なんだこの戦闘の跡!? デカい爆発があったみたいな……俺が正気を失っている間に、一体何が……?」
姉が見当たらないことも不審に思う。
「あれ? マヤ姉、どこ行った?」
背後に気配を感じ、振り返る。
「はっ! はっ! はっ!」
するとそこには、全力でオタ芸ダンスを踊り狂う真夜の姿があった。
先ほどまで泥人形たちが踊っていた、混乱のダンスの完コピである。
それはもう、キレッキレな動きであった。
何が起こっているのか分かっていない朝陽は、そんな姉の行動にただただ驚きを隠せない。
「マ、マヤ姉……? なんで踊ってんの……?」
「はあ、はあ……ふう……!」
一仕事やり終えたような爽やかな表情で、額の汗を拭く真夜。
そして、朝陽に言った。
「どうだ、朝陽! 混乱したか!?」
「いや、困惑はしたけども!?」
姉の奇行にツッコミを入れる朝陽であった。