マヤおねえちゃん
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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シーザリオ王国の首都エピファネイアより、ふたつほど山を越えた場所にある平原地帯。
その外れにある辺境の村が、魔族の大群に占拠されていた。
有象無象のモンスターらを率いるは、一つ目の巨人。
所謂サイクロプスやキュクロープスに区分される怪物である。
身の丈は10メートルはあるだろうか。以前対峙し、退治したオークの倍以上はある。
こんなのと街中で遭遇したら、余裕で失禁する自信がある。
「オレは魔王六将”百獣のギガノト”様直属の配下、キュクロープスのステロペス様だ! この村はオレが支配した!」
巨人が猛り狂ったように叫ぶ。
その背後では、モンスターの大群が喝采を送っている。
「この地を足がかりとし、シーザリオ王国に攻め込……」
「『姉ファイア』!!」
ファイアというにはあまりに威力の大きい、無慈悲な業火がキュクロープスに放たれる。
哀れ、ステなんとかさんは黒炭と化し、一撃で昇天してしまった。
やったのはもちろん、我らがチート姉さん、軍場真夜である。
俺こと軍場朝陽は、離れたところからそのキュクロープス撃破RTAをただただ見守るだけである。
「ステロペスサマガヤラレター!」
「バケモンダ! ニゲロー!」
ステなんとかさんの配下たちが恐れおののき逃げ出していく。
バケモン共にバケモンだと言われる我が姉よ……
「相変わらずの瞬殺劇……さすがマヤ姉。でも今のボス、重要なワードを色々と言ってたような……」
「話の途中で消滅させてしまったな」
涼しげな顔でそう言う。
魔王六将”百獣のギガノト”とか、王国に攻め込むとか、穏やかじゃない内容だった気も。
「キュクロープスって言ったら、RPGでもまあまあ終盤に出る難敵なんだけどね。いやぁ凄っ……ん?」
何者かの気配を感じ、そちらの方を見る。
そこには幼稚園児くらいの大きさの、泥人形と思しき形状の人型モンスターが3体いた。
3体ともガクガクと震え、怯えている様子だ。
大方、マヤ姉の強さに腰が抜け、逃げ遅れたのであろう。
「まだ残党がいたか」
「よし。ここは俺に任せてよ、マヤ姉。俺も少しは仕事しないと」
これでクエスト完了では、ふた山も越えてここまで歩いてきたかいもないというものだ。
鞘から剣を抜き、泥人形たちに切っ先を向ける。
怯えている相手を倒しにかかるのは少し気が引けるが、悲しいかな、この世は所詮弱肉強食。
強ければ生き、弱ければ死ぬのだ!(急にイキる俺)
そのときだった。
泥人形たちは逃げるでも戦うでもなく、いきなり一斉に踊り始めた。
「な、なんだその踊り……?」
一糸乱れぬ三位一体のダンス。
例えるならそれは、オタ芸のサイリウムダンスのようなキレキレッぷり。
思わず見入ってしまう完成度である。
あれ……?
なんか……
頭がボーッと……
☆
「突然踊り始めた? なんだ、この珍妙なダンスは……命乞いか?」
真夜が不思議そうに泥人形たちのダンスを眺めている。
朝陽はと言うと、剣を構えたままピクリとも動かなくなってしまった。
「…………」
その朝陽が、無言でクルリと真夜の方を振り返る。
目線には影が差し、その表情は窺い知れない。
そんな弟を、訝しげな目で見る真夜。
「どうした、朝陽?」
「……!」
朝陽が真夜に向かって駆けだしていく。
そして勢いよく飛びかかった。
いや、正確に言えば”抱き付いた”
「マヤおねえちゃーん!」
「は!?」
朝陽は甘えた声を出しながら、真夜にハグをした。
その普段では考えられないシスコン行動に、さしもの真夜も素っ頓狂な声をあげて驚いてしまう。
「あ、朝陽!? 急にどうした!?」
そんな疑問も驚きも、朝陽の次の言葉を聞いた瞬間に吹き飛んでしまう。
「えへへー…マヤおねえちゃん、好きー!」
真夜の全身に稲妻が走る。
こうなったらもう、ブラコン姉さんは止まらないのだ!