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悪女に貢がされている

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

「よいしょっと……重い……!」


 両手に大荷物を抱え、いつものように冒険者ギルドへと向かう。

 俺の姿を見るなり、馴染みのギルド受付嬢ターニャが手を振ってくる。

 陰キャに優しい黒ギャル受付嬢は今日も元気そうだ。


「採取クエスト、お疲れ様っす! アサヒくん!」

「はいよ、ターニャ。火の石10個、小妖精の涙10個、ライオン草10個、確認よろしく!」

 俺はカウンターに依頼の品を置いた。

 鍛冶に使う物、錬金術に使う物、薬の調合に使う物、それぞれの用途があるらしい採取物だ。


「種類も個数もバッチリっす。はい、報酬の600マニー」

 ターニャは物品を確認した後、お金の入った銭袋を手渡してきた。

 ゲームでは退屈だー水増し要素だーなどとたびたび批判を受けるお使い系クエストだが、実際にやってみればわかる……難易度が低く安全にお金が稼げるお使いクエスト、マジでありがたい。魔物と戦わずにずっとお使いしていたいくらいだ。


「アサヒくん、働き者っすねぇ」

「稼がなきゃいけないからな……他にも手軽に稼げるクエストがあったら頼むよ、ターニャ」

「それはいいけど、家を手に入れて宿代かからなくなったでしょ? なんでそんなに金欠なんすか?」

 ターニャが素朴な疑問を口にした。ああ、ごもっともな意見だ。

「……いや、まあ、拠ん所ない事情ってヤツがあってね……」

 俺は苦笑いを浮かべながら、ため息をこぼした。


 そのとき、ギルドの玄関が勢いよく開き、ツカツカと足音を立てながら何者かが俺に近付いてきた。

 拠ん所ない事情様のお出ましだ。

 その人物は背後から抱きつきながら、俺の手にあった銭袋をヒョイッと掠め取った。


「金は稼げたかの、アサヒ?」


「キルマリア!」


 それはキルマリアであった。

 姿は認識阻害の魔術を使って変装した、町娘ファッションである。

 突然の登場人物に、俺もターニャも目を丸くしている。

「お、おま……外で待ってろって言っただろう!?」

「遅いから待ちくたびれた。そもそもわらわに命令するのが身の程知らずというものじゃ」

 確かに魔王六将が、駆けだし冒険者の俺の命令を聞く義理はないが……

 というか、町娘姿で老人口調を使われると怪しさMAXである。

 素性隠す気、あります?


「この重み……これだけあれば十分よのう」

 銭袋の重みで金額を予想し、ほくそ笑むキルマリア。

「ま、待て待て! 全額使う気か!? 少しは家にも入れないと、我が家の家計が……」

 キルマリアは俺の首に手を回してロックすると、そのまま引きずり始めた。

「ケチケチするでない! さあ、行くぞ!」

「ちょ、待っ、ひ、引っ張るなー!」

 踵を返し、冒険者ギルドの出口へと向かう。


「…………あ、悪女に貢がされている……!?」


 背後から、ターニャのそんな声が聞こえた。

 何か壮大な勘違いをされてしまっているようだが、いやしかし悪女に貢がされていると言われれば、そう嘘のない状況でもある。



 俺は今、キルマリアのためにお金を稼いでいる。

 なぜかって?

 それは今いるこの場所、繁華街に理由がある。


 キルマリアは顔を上気させ、ヨダレを垂らしながら繁華街にある店を物色している。

 その中のひとつの店舗を指差しながら、俺の袖を引っ張る。

「アサヒ! 今日はこの店にしよう!」

「はいはい……」


 テーブルに並ぶ料理の山と酒瓶とビールジョッキ。

 その光景を目の前に、キルマリアは純真無垢な子供のように瞳を輝かせている。


「いっただっきまーす!!」


 喜色満面。

 実に良い笑顔で「いただきます」の挨拶をする、魔王軍幹部様。


「うん、美味い! たっぷりと旨味を閉じ込めたハンバーグから肉汁が溢れ出し、とてもジューシーじゃ! ピリリと甘辛いデミグラスソースとの相性もバッチリ! 付け合わせのポテトサラダも絶品じゃ!」

 キルマリアはグルメリポーターよろしく味の感想を言いながら、一心不乱に料理をがっつき始めた。

 俺はそんなキルマリアの対面の席に座り、その光景を半ば呆れ気味に眺めている。


 これが俺の稼ぐ理由。

 人間の食事にすっかりハマってしまった、キルマリアのお会計係なのだ。


 なにせこの魔王六将様、お金を払うという概念がまるでない。

 無銭飲食する気満々で、たらふく飲み食いするのだ。

 それを咎められて店側と揉めたりしたら、街ごと吹っ飛ばしかねないからなぁ……だから俺が代わりに支払っているのだ。


「街が破壊される危機を俺が未然に防いでいることを、この店にいる誰も知らないんだ……フッ、歴史に名を残さぬ裏の英雄か。それもまたカッコいいな」

「キメ顔でなに言っとるんじゃ?」

 FFタ○ティクスのラ○ザのようなポジションに酔いしれている俺を、冷めた目で見るキルマリア。

 正史の裏の英雄とか、ピカレスクヒーローとか、そういう響きに憧れる年頃なんです。放っておいて下さい。


 キルマリアはエビの唐揚げをフォークでつまみ、差し出してきた。

「ほれ、アサヒも食べい。美味いぞー?」

「あ、あーんしろってか!?」

「遠慮するでない。あーんじゃ、あーん」

 キヒヒとイタズラっぽい笑みを浮かべている。

 遠慮というか、そもそも俺の金なんだけど……まあいいか。


 俺はパクリとエビの唐揚げを食べた。

「おお、美味いな!」

 外はサクサク、中はプリプリで率直に美味しい。

 というかエビの褒め方、百発百中でプリプリになる説を提唱したい。


「じゃろ!?」


 キルマリアがニカッと満面の笑みを見せる。

 その表情に、不覚にも俺は胸が高鳴った。高鳴ってしまった。


 こういう顔を見ると、キルマリアが魔族だということを忘れてしまうな……

 

 これはきっと、人間失格の感想だ。

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