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姉を呼んだか

 ギルドへ入ると、そこには冒険者たちがたくさんいた。

 冒険者……それは魔物退治などで生計を立てる、異世界物語の花形職業だ。

 冒険者が仲間を集い、クエスト依頼を受け、その報酬のやり取りをする場所……それがギルド。


「見ない顔っすね~。クエストをお探しですかぁ?」


 カウンター越しに受付嬢が話しかけてくる。

 ラフな喋り方に、小麦色に焼けた褐色の肌。年の頃も15の俺と同世代だろうか、おおよそ俺がイメージしていた受付嬢とは真逆の少女だ。有り体に言えば、後輩系黒ギャル娘といった印象。


「あ、ああ。俺、初めてなんだけど……」

「あ、初めてなんすか。へ~…、緊張してる~?」

「ま、まあ、ちょっと」

「にひひ、可愛い」

 ほのかにハレンチなやり取りを交わす。

 黒ギャルは現実世界でも異世界でも陰キャに優しいらしい。


「ソロで初クエストなら、キラーラビット討伐あたりがオススメっすよ。危険度E級だし」

「E級?」

「モンスターの強さはS、A、B、C、D、E級にランク付けされてるんす。冒険者にもランクの名称があるんですけど~…まあ、これはまた別の機会に説明するっす」

「じゃあキラーラビット討伐を受諾するよ」

「いってらっしゃ~い!」

 冒険者ギルドを出ると、俺は街の門をくぐり、フィールドへと向かった。


 この異世界で、軍場朝陽いくさばあさひの第二の人生が始まる。

 そう思っていたのだが……


「はぁ、はぁ、はぁ!」


 必死に逃げる俺。

 猛追するワイバーン。

 第二の人生とやらは、さっそく幕を閉じようとしていた。


「いきなり高レベルのレアモンスターとエンカウント!? なんだこのクソゲー!!」


 これがゲームなら、制作者の難易度調整を疑う仕様だ。序盤のフィールドに高レベルモンスターを置くなんて……テストプレイをサボったとしか思えない。

 それとも、俺が転生した世界はフ○ムソフトウェア製の死にゲーがベースなのか?


 ワイバーンの口がガポォっと開き、その口内から火球が射出される。

 俺は「ぎゃー!」と叫びながら、咄嗟にそれを避けた。着弾地点に大きな火柱が上がる。その威力にサーッと青ざめる我が顔。


 俺は涙目になりながら必死に走った。

「っつーか、異世界転生って最強状態から始まるのが昨今のトレンドじゃないの!?」

 走りながらステータス画面を開く。

 自分の能力値が、七角形のグラフで表示される。


Lv:1

HP(体力)……15

MP(魔力)……0

STR(力)……3

VIT(丈夫さ)……2

AGI(敏捷性)……6

INT(賢さ)……4

LUC(幸運)……7


 どこからどう見ても、Lv:1であった。

 七角形のグラフが小さい小さい。


「俺のステータス、弱ッ! 村人なのかな!?」

 おそらく、農家の村人にも負ける筋力値。

 一番高いのが幸運値だが、今のこの状況のどこが幸運なのだろうか。

 そしてこのHPから察するに、ワイバーンの攻撃を食らえば一撃で俺は溶けるだろう。

 車に轢かれて死ぬのとワイバーンに焼死させられるの、どっちが悲惨かな……どっちもイヤだけども!


「な、なにかスキルはないのか!? 有効なスキルは!」

 ゼーハーゼーハーと息も絶え絶えになって走りながら、ステータス画面のスキル確認ページを開く。

 そこにあったスキルはただひとつ。


 『投石Lv:1』


 俺はズッコケそうになる身体を懸命に起こし、再び疾走する。

 なぜなら、ズッコケたら背後に迫るワイバーンの餌食になるから。


「投石ってなんだぁ!? いるか、こんなゴミスキルー!!」


 投石をバカにした報いだろうか、俺は地面に転がっていた石に躓き、豪快にすっころんだ。

「どわぁぁぁ!?」

 石を笑うものは石に泣く……何かのことわざか。


 地面に転がる俺目がけて、ワイバーンが咆哮を上げる。

 ああ、俺はこっちの世界でも死んでしまうんだな。

 観念してギュッと目を瞑ると、最後に脳裏によぎった”ある人”の名前を俺は呼んだ。


「マヤ姉……!!」


 次の瞬間、稲光と共に空中に魔法陣が展開される。

 俺と、そしてワイバーンまでもが、何事かとそちらの方角を注視する。

 魔法陣から放たれた光は、やがて人の形と変わっていく。


 そこに現れたのは、制服に身を包んだとある女子高生。


「姉を呼んだか!? 呼んだな、朝陽!!」


「マヤ姉!?」


 それは、俺が生まれたときからずっと身近にいて、俺を見守ってくれていた人物……俺の実姉、軍場真夜いくさばまやだった。

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