あのお方こそが
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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ソフィと出会った翌日のことだった。
いつものように冒険者ギルドへ赴くと、馴染みの受付嬢ターニャが切羽詰まった様子で話しかけてきた。
「臨時の救難クエストっす! アサヒくん!」
「り、臨時? そんなに焦ってどうしたんだ、ターニャ」
「ダンジョンに潜ったまま帰って来られなくなったパーティーを、助けに行ってあげて!」
ダンジョンと聞いて、真っ先にクローディオ森林奥地の遺跡を思い浮かべる。
俺とマヤ姉が調査に向かい、カイザーベアの子グマらと出会った場所だ。
子グマたちの住処が荒らされないように、ギルドには”ダンジョンとして適さない。解放はオススメしない”と報告していたのだが……
「まさかクローディオ森林の……!?」
「いや、そことは違う場所っす」
それを聞いて、少し安堵する。
「山の麓にある洞窟で、昨日そこに金銀財宝が埋まってるって噂が出たんすよ。その宝を目当てに冒険者らが殺到したんすけど、中のモンスターが強くてみんな逃げ帰ってきたみたいで……」
「金に目が眩んだってわけか」
「でも帰ってこないパーティーがいたんすよ。えーと……クラン名は漆黒の旅団?」
ターニャがリストを見ながら、その名前を口にする。
「し、漆黒の旅団!?」
「知ってるんすか、アサヒくん」
その中二病全開のクラン名は聞き覚えがある。
昨日街中で出会ったヒーラーの子が……ソフィ=ピースフルがいたパーティーだ!
☆
場面は、件の洞窟へと移る。
「はあ、はあ、はあ……!」
灯りのない暗がりの洞窟を一人、息急きながら走る少女がいた。
ソフィ=ピースフルだ。
衣服は土埃だらけ、顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになっている。
「み、みんな……た、食べられて……! 神よ……神様、どうしてこんなことに……!?」
どんな絶望的な状況を目の当たりにしたのだろう。
その表情は恐怖で歪んでいる。
シュルシュルと、何かが勢いよく地面を這ってくる。
それは太くて長い植物の茎だった。
「ひっ!?」
引きつった声をあげるソフィ。
その茎は触手のようにソフィの足に絡まりつき、そして身体ごと宙へと持ち上げた。
持ち上げられた先には、十数メートルもの身の丈の巨大な植物が鎮座していた。
食人植物……マンイーターだ。
マンイーターはガパッと大きな口を開け、今まさにソフィを飲み込まんとしていた。
「ひいやああああああ!」
空中で逆さ吊りにされているソフィは、その真下にいるマンイーターを見て叫んだ。
「私なんて食べても、全ッ然おいしくないですよう! いやむしろおなか壊しちゃうかも!? いけない、いけませんってばぁ!」
正当派清楚美少女であっても、やはり危局とあっては平静を保てぬようだ。
ぎゃあぎゃあと泣き喚いている。
「だ、誰かぁー!!」
ありったけの声で叫ぶ。
そのときだった、彼女を拘束していた茎が切断される。
「え!? やだ、落ち……」
宙に投げ出された彼女を抱きかかえ、地面に着地する人物。
それは軍場朝陽であった。
右手には剣を構えている。彼が茎を斬ったのだろう。
「大丈夫か!?」
「あ、あなたは……?」
自分を助けてくれた人物を確認しようとするも、暗いせいでボンヤリとしか見えない。
そしてソフィは助けが来た安堵からか、そのままカクンと項垂れ、気を失ってしまった。
「ソフィ!? ……いや、気を失っただけか。はぁー……良かった、目立ったケガがなくて」
朝陽は大きく息をついた。
ホッとしたのも束の間。
自らの茎を切断され、食事を奪われもしたマンイーターが、怒りの咆哮をあげながら朝陽に襲いかかる。
「こいつか、このダンジョンの主は……!」
しかし朝陽の表情に恐怖の色はない。
朝陽がここにいるということ、それすなわち、異世界最強の姉もここにいるということだから。
「破ぁぁぁ!!」
朝陽とマンイーターの間に瞬時に出現した軍場真夜が、すかさず豪腕を振るう。
強烈なアッパーカットを食らったマンイーターは、食べていたものを吐瀉しながら宙を舞い、地面に落下。そのままピクリとも動かなくなった。まごうことなき、ワンパンである。
「ナイス、マヤ姉!」
「ふっ、他愛ない。む……ヤツが吐き出したもの、あれは人間じゃないか?」
吐瀉物をよく見ると、どうやら漆黒の旅団のメンバーのようであった。
全員、マンイーターの胃液でベットベトだが、五体満足の様子。
「救難クエスト……無事完遂だ」
「はっ!」
目を覚ますソフィ。
起き上がって周囲を確認すると、そこはダンジョンの外、森の中であった。
「こ、ここは……どうして私、洞窟の外に……?」
酸味のある異臭に気付き、さらに周囲を見渡す。
すると、ベトベトの液体まみれの漆黒の旅団メンバーも同じく森の中に放置されていた。
白目を剥きながらピクピクと悶えてはいるが、息はあるようだ。
「漆黒の旅団のみなさん! あの食人植物に食べられたはずでは……」
気を失う前の出来事を必死に思い出そうとする。
「そうだ、私……おぼろげだけど、覚えてる。私を……私たちを助けてくれた人……」
その顔には見覚えがある。
以前、街中で傷を癒やしてあげた少年だ。
今はどこにもその姿はない。助けるだけ助けて、そのまま颯爽とこの場をあとにしたのだろうか。
「あの人が……あのお方こそがきっとそうなんだ……!」
ソフィは天を見上げ、瞳を輝かせながら呟いた。
「勇者さま……!!」