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あのお方こそが

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021


コミカライズ第1巻発売中です。

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 ソフィと出会った翌日のことだった。

 いつものように冒険者ギルドへ赴くと、馴染みの受付嬢ターニャが切羽詰まった様子で話しかけてきた。


「臨時の救難クエストっす! アサヒくん!」

「り、臨時? そんなに焦ってどうしたんだ、ターニャ」

「ダンジョンに潜ったまま帰って来られなくなったパーティーを、助けに行ってあげて!」


 ダンジョンと聞いて、真っ先にクローディオ森林奥地の遺跡を思い浮かべる。

 俺とマヤ姉が調査に向かい、カイザーベアの子グマらと出会った場所だ。

 子グマたちの住処が荒らされないように、ギルドには”ダンジョンとして適さない。解放はオススメしない”と報告していたのだが……

「まさかクローディオ森林の……!?」

「いや、そことは違う場所っす」

 それを聞いて、少し安堵する。


「山の麓にある洞窟で、昨日そこに金銀財宝が埋まってるって噂が出たんすよ。その宝を目当てに冒険者らが殺到したんすけど、中のモンスターが強くてみんな逃げ帰ってきたみたいで……」

「金に目が眩んだってわけか」

「でも帰ってこないパーティーがいたんすよ。えーと……クラン名は漆黒の旅団?」

 ターニャがリストを見ながら、その名前を口にする。

「し、漆黒の旅団!?」

「知ってるんすか、アサヒくん」

 その中二病全開のクラン名は聞き覚えがある。

 昨日街中で出会ったヒーラーの子が……ソフィ=ピースフルがいたパーティーだ!





 場面は、件の洞窟へと移る。

「はあ、はあ、はあ……!」

 灯りのない暗がりの洞窟を一人、息急きながら走る少女がいた。

 ソフィ=ピースフルだ。

 衣服は土埃だらけ、顔は汗と涙でぐしゃぐしゃになっている。


「み、みんな……た、食べられて……! 神よ……神様、どうしてこんなことに……!?」


 どんな絶望的な状況を目の当たりにしたのだろう。

 その表情は恐怖で歪んでいる。


 シュルシュルと、何かが勢いよく地面を這ってくる。

 それは太くて長い植物の茎だった。

「ひっ!?」

 引きつった声をあげるソフィ。

 その茎は触手のようにソフィの足に絡まりつき、そして身体ごと宙へと持ち上げた。


 持ち上げられた先には、十数メートルもの身の丈の巨大な植物が鎮座していた。

 食人植物……マンイーターだ。

 マンイーターはガパッと大きな口を開け、今まさにソフィを飲み込まんとしていた。


「ひいやああああああ!」


 空中で逆さ吊りにされているソフィは、その真下にいるマンイーターを見て叫んだ。

「私なんて食べても、全ッ然おいしくないですよう! いやむしろおなか壊しちゃうかも!? いけない、いけませんってばぁ!」

 正当派清楚美少女であっても、やはり危局とあっては平静を保てぬようだ。

 ぎゃあぎゃあと泣き喚いている。


「だ、誰かぁー!!」

 ありったけの声で叫ぶ。


 そのときだった、彼女を拘束していた茎が切断される。

「え!? やだ、落ち……」

 宙に投げ出された彼女を抱きかかえ、地面に着地する人物。

 それは軍場朝陽いくさばあさひであった。

 右手には剣を構えている。彼が茎を斬ったのだろう。


「大丈夫か!?」

「あ、あなたは……?」

 自分を助けてくれた人物を確認しようとするも、暗いせいでボンヤリとしか見えない。

 そしてソフィは助けが来た安堵からか、そのままカクンと項垂れ、気を失ってしまった。

「ソフィ!? ……いや、気を失っただけか。はぁー……良かった、目立ったケガがなくて」

 朝陽は大きく息をついた。


 ホッとしたのも束の間。

 自らの茎を切断され、食事を奪われもしたマンイーターが、怒りの咆哮をあげながら朝陽に襲いかかる。

「こいつか、このダンジョンの主は……!」

 しかし朝陽の表情に恐怖の色はない。


 朝陽がここにいるということ、それすなわち、異世界最強の姉もここにいるということだから。


「破ぁぁぁ!!」


 朝陽とマンイーターの間に瞬時に出現した軍場真夜いくさばまやが、すかさず豪腕を振るう。

 強烈なアッパーカットを食らったマンイーターは、食べていたものを吐瀉しながら宙を舞い、地面に落下。そのままピクリとも動かなくなった。まごうことなき、ワンパンである。

「ナイス、マヤ姉!」

「ふっ、他愛ない。む……ヤツが吐き出したもの、あれは人間じゃないか?」

 吐瀉物をよく見ると、どうやら漆黒の旅団のメンバーのようであった。

 全員、マンイーターの胃液でベットベトだが、五体満足の様子。

「救難クエスト……無事完遂だ」


「はっ!」


 目を覚ますソフィ。

 起き上がって周囲を確認すると、そこはダンジョンの外、森の中であった。

「こ、ここは……どうして私、洞窟の外に……?」

 酸味のある異臭に気付き、さらに周囲を見渡す。

 すると、ベトベトの液体まみれの漆黒の旅団メンバーも同じく森の中に放置されていた。

 白目を剥きながらピクピクと悶えてはいるが、息はあるようだ。

「漆黒の旅団のみなさん! あの食人植物に食べられたはずでは……」

 

 気を失う前の出来事を必死に思い出そうとする。

「そうだ、私……おぼろげだけど、覚えてる。私を……私たちを助けてくれた人……」

 その顔には見覚えがある。

 以前、街中で傷を癒やしてあげた少年だ。

 今はどこにもその姿はない。助けるだけ助けて、そのまま颯爽とこの場をあとにしたのだろうか。


「あの人が……あのお方こそがきっとそうなんだ……!」

 ソフィは天を見上げ、瞳を輝かせながら呟いた。


「勇者さま……!!」

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