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ソフィ=ピースフル

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021


コミカライズ第1巻発売中です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4098501929/ref=tmm_other_meta_binding_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=1593677320&sr=8-1=

 弟を軽率にペロペロしたがるブラコン姉から逃げに逃げ、首都エピファネイアの城下町まで辿り着く。


 逃走スキル『エスケープ』などを駆使して、なんとか逃げ切った。

 苦しい戦いだった。

「ぜーはー…ぜーはー…! ウルフと戦うよりすげえ疲れた……!」

 膝に手を当て、肩で息をする。

 もう一歩も動きたくない。


「おい、ガキ! 道の真ん中で突っ立ってんじゃねえよ!」

 自身に向けられた荒々しい怒声に驚き、顔を上げる。

 目の前には三人の冒険者がいた。

 俺に対して声を荒げた戦士職と思しき男。性格のキツそうな魔法使いの女。深々とフードを被ったシーフ職めいた男。

「邪魔ねえ、往来で」

 魔法使いの女が吐き捨てるように言う。

「あ、す、すいません」

 俺は反射的にそう謝ると、彼らに道を譲った。


 譲った後に、じわじわ不満が募ってくる。

「なんだよ、態度の悪い連中だなぁ……」

 後ろ姿に向けて、聞こえない声量で愚痴る。

 もしここにマヤ姉がいたら、アンタら全員ボコられていたぞ。

 ブラコン姉から逃げ切っていた俺に感謝するんだな!


 などと脳内でよく分からぬマウントを取っていたら、前から走ってきた人とぶつかってしまう。

「うわ!?」

「きゃっ!」

 女性はぶつかった拍子に転んでしまったようだ。

 持っていた杖が、カランと音を立てて地面を転がる。

 しまった。後方に呪詛を送るあまり、前方不注意だった。


「す、すいません! 大丈夫ですか!?」

「う、うーん……」


 ぶつかった相手は、同年代の女の子だった。

 白を基調としたローブに、リボンの付いたまん丸帽子。

 髪型は金髪のショートボブで、サイドには結った三つ編みがなびいている。

 スリット上のスカートから覗くガーターベルトのおみ足がとても目を惹く。

 いかにも神官か僧侶といった格好である。

 そして何よりカワイイ。見た目は正統派な清楚美少女だ。

 俺は思わず息を呑んだ。


「だ、大丈夫……?」

 昏倒していた女の子が、パチッと目を開く。

 すぐさま乱れた衣装を正し、正座をする。

「ご、ごめんなさい! 急いでいてぶつかっちゃって……お怪我はありませんか!?」

 自分のことよりまず相手の心配をする。

「あ、いや、俺は……うん、大丈夫」

 現実世界で陰キャだったことがバレそうなくらい、どもってしまう。


 彼女は俺の右腕を見ると「あ!」と声を上げた。

「右腕に怪我を……! ご、ごめんなさい!」

 それはウルフとの戦いで負い、マヤ姉がペロペロしたがっていた傷だ。この子の過失ではないのだが。

「い、いや、これは今負った傷じゃないから……」

「患部を見せて下さい」

 女の子が、俺の右腕に両手をかざす。

 そして魔法を詠唱し始めた。


「その傷、癒やしたまえ……『ヒール』!」

 

 彼女の両手から、光の粒子が発せられる。

 右腕に負っていたすり傷が、みるみるうちに治っていった。

「こ、これは……回復魔法!? もしかしてキミはヒーラーなのか!?」

 俺がそう問うと、彼女はニコリと微笑みながら頷いた。


「ソフィ=ピースフルと言います」


 名前まで清楚だ。

「あなたのお名前は?」

 ソフィが俺の名前を聞いてくる。

「えっと、俺は軍場いくさば……」


 名前を言いかけたところで、後方から清楚とは真逆の粗野な声が聞こえてきた。

「早く来い、ヒーラー! 他のパーティーに先越されたらどうすんだ!?」

 それは先ほど俺に罵声を浴びせた戦士職の冒険者であった。

「鈍くさい子ねぇ……使えるの、あの子?」

「ダンジョン探索に回復役は必須。ゼータクは言えねえって」

 魔法使い女とシーフ男もそんなことを言っている。

 ソフィは彼らの仲間なのだろうか?

 あまりにもキャラが違いすぎるが……メガ○ンで言えば、ソフィはロウ、あっちはカオスだろう。


「は、はい! ごめんなさい! では私はこれで……」

「う、うん」

 ソフィはぺこりと会釈をすると、彼らの元へと小走りで駆け寄っていった。

「行くぞ! 我らが漆黒の旅団! ダンジョンの金銀財宝は俺たちのもんだ!」

 戦士が意気揚々と叫ぶ。

 漆黒の旅団ってもしかしてクラン名か。なんて恥ずかしい名前を。

 彼らは城門をくぐり、街の外へと出て行った。


「追いついた! さあ、ペロペロターイム!」


 いつの間にか背後に現れたマヤ姉が、俺の右腕にパクリとかぶりつく。

「どわあああ!? マヤ姉!?」

「おや? 傷が消えている?」

 マヤ姉は俺の腕の傷が治っていることを不思議に思っているようだ。


「私がいない間、何があったんだ、朝陽?」

「いや……」


 俺はマヤ姉の疑問には答えず、ただただソフィたちが去った方角をボンヤリと眺めるだけだった。

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