姉アースクエイク
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021
コミカライズ第1巻発売中です。
https://www.amazon.co.jp/dp/4098501929/ref=tmm_other_meta_binding_swatch_0?_encoding=UTF8&qid=1593677320&sr=8-1=
俺の名前は軍場朝陽。
ある日、車から子供を助け……以下略。
とにかく何やかんやあって、異世界召喚されてきた普通の高校生である。
そして俺は今、拠点としている街近くの平原でウルフと戦っている。
現代にいた頃は、近所で飼われていたやたら吠える大型犬にもビビっていた俺だが、異世界へやって来てはや数ヶ月……踏んできた場数がもう違うのだ。ウルフ一匹程度ならば、問題なく倒せるようになっていた。
突進してくるウルフに、スキル『投石』を見舞い、動きを止める。
「てやああ!」
怯んだ隙に距離を詰め、剣を振るう。ウルフを倒した。
「ふう、レベル上げ完りょ……う?」
ひと息つく俺に、フッと大きな影が差す。
振り返ると、そこには今し方倒したヤツの5倍はあろうかという、巨躯のウルフが佇んでいた。
ダーク○ウルで見たことあるな、この大きさのオオカミ……剣咥えてるヤツ。
サイズ感と遠近感がバグってるよ、ちょっと。
俺は冷や汗をダラダラかきながら、言葉が通じぬであろうそのウルフに試しに話しかけてみた。
「え、ええと……あの、親御さん……ですか?」
親ウルフと思しきそいつは、怒りの形相で俺を見下ろしている。
子供想いのいい親だ……などと思っている場合ではない。大ピンチである。
俺は顔面蒼白になった。
「ギャオオオオオオ!」
「うぎゃあああ!!」
親ウルフが俺を噛み殺そうとした刹那、その人は現れた。
「『姉アースクエイク!!』」
局地的な大地震が起き、地面が陥没する。
親ウルフはその陥没に巻き込まれ、地底深くへと落ちていってしまった。
「大丈夫か、朝陽!」
「ああ、ありがとう、マヤ姉……!」
数十メートルある親ウルフを一撃で倒した人物。
異世界最強のチート姉さん、我が実姉の軍場真夜である。
マヤ姉は腰を抜かしている俺の手を引き、起こしてくれた。
「ウルフ退治、一人で見事だったぞ。成長したな」
「巨大ウルフを一撃でぶっ倒したマヤ姉にそれ言われても、複雑な気分ではあるけどね……つーか、姉アースクエイクなんてまた安直な名前を」
姉ファイア、姉サイクロン、姉サンダーに続く姉魔法シリーズである。
「朝陽! 右腕をケガしているじゃないか!」
マヤ姉が焦りの表情でそう言う。
「ホントだ。いつの間に……」
右腕を見ると確かに服の一部が破れていて、そこからじわりと血が滲んでいた。
ウルフと戦っている最中はアドレナリンが出ていて気付かなかったが、どうやら一撃加えられていたらしい。
意識し出すと、地味にヒリヒリして痛い。
「ポーションを使おう!」
過保護であるマヤ姉は、HPが一桁台削れただけでもポーションを使いたがる。
そのせいでどれだけお金を浪費しているか……
「こ、この程度でアイテム使うのはもったいないって」
「そうか……舐めれば治るか」
「そゆこと」
話の流れでついそう返してしまった後、ハッとする。
今、舐めれば治ると言ったか、この姉。
マヤ姉を見ると、彼女は実に淫靡な表情で舌なめずりをしていた。
周知の事実だろうが、この姉、度を過ぎたブラコンなのである。
隙あらば弟をペロペロしたがるほどに、やべーブラコンだ。
俺は踵を返すと、全力で走り出した。
すかさず、マヤ姉がテンション上がった犬みたいに、舌を出しながら追いかけてくる。
「言質取ったぁぁぁ! お姉ちゃんが患部をペロペロ舐めてやろうー!」
「だぁぁぁ! 追いかけてくるなぁぁぁ!」
仲睦まじい姉弟(?)による鬼ごっこは、街まで続くのであった。