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暗がり、密室、愛し合う姉弟

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

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コミカライズ第1巻発売中です。

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 たいまつ片手に、ダンジョンを奥へ奥へと進む。


「なんだか急に冷えてきたな」

 ビキニアーマー並に露出度の高い服装のマヤ姉がポツリと呟く。

「まあそんな薄着してたら無理も……え!?」

 そんな返しをした自分の口から白い息が出たのを見て、ぎょっとする。

 いくら何でも、息が白くなるほど冷気が立ちこめているのはおかしい。


「気を付けろ、朝陽! 何かいるぞ!」


 マヤ姉がそう叫ぶ。

 前方を見ると、剣や槍を構え、侵入者を阻むように立っている十数体の人物がいた。

 人物……という表現が適切かはわからない。

 なぜならそいつらはいずれも、血肉の通っていない骸骨であったから。

「ア、アンデッドだぁぁぁ!」

 冷気の正体は、この世ならざるアンデッドたちのせいだったようだ。


「ダンジョンを守る亡者……さしずめ、ガイコツ騎士と言ったところか。ふっ、冥府に送り返してやろう!」

 右手を前にかざし、魔法陣を展開し始める。

 その姿を見て、俺はまたもぎょっとした。


「ダメだ! ストーーップ!!」

「朝陽!?」

 マヤ姉に飛びかかり、地面に押し倒す。


「暗がり、密室、愛し合う姉弟……何も起きないはずはなく……」

 頬を赤らめながら、扇情的な表情で実姉が何か言っている。

「ちっがーう! そうじゃなくって!!」

 無理矢理押し倒したのには違う理由があるのだ。


「ダンジョンでいつもの特大魔法なんてぶっ放したら、どうなるか分かる!? 崩落! 生き埋めになるよ!」

「あ、なるほど。確かにそうだ」

 合点がいったようだ。

 マヤ姉が放つ凄まじい威力の魔法を受ければ、古代に建てられた遺跡など容易く崩壊するだろう。

 圧死も窒息死も御免である。


 アンデッドたちが一斉に襲いかかってくる。

 俺は鞘から剣を抜き、臨戦態勢に入った。

「マヤ姉の魔法は使えない……なら、ここは俺の踏ん張りどころか……!」

 

 マヤ姉は空中でハイキックを放った。アンデッドは粉々になった。

 マヤ姉は旋風脚を浴びせた。アンデッドは粉々になった。

 マヤ姉はバックハンドブローを繰り出した。アンデッドは粉々になった。

 マヤ姉は蹴って、殴って、打ち上げて、叩き潰した。アンデッドたちは粉々になった。


 踏ん張りどころなんか、どこにもなかった。

 俺が呆然と立ち尽くす中、マヤ姉は肉体言語により一瞬で十数体のアンデッドを叩きのめしたのであった。

 地面には文字通り、屍の山。

「素手でもクッソつええええええ!!」

 俺の姉は範馬○次郎だった?

「よし、片付いた。先へ進もう、朝陽」

 事も無げにそう言ってのけ、ズンズン先へ進むマヤ姉。

「思えばマヤ姉、全パラメータがカンストどころか、グラフ突き破ってるんだもんな……」

 そりゃあ素手でも無双するか、と納得した。


 ダンジョンの最深部へと到着する。

「ここが最深部か……迷宮の主とやらはいないようだな」

 金銀財宝などもないようだ。若干肩透かしではあったが、まあ仕方がない。

「そこまで広大ってわけでもなかったね。危険度もトータルまずまずってとこかな……? トラップで何度か死にかけはしたけど、凶悪モンスターとかもいなかったし」

「クエストは調査だったな。調査後はどうなるんだ?」

「各ランクの冒険者に解放されるらしいよ。レベル上げとか、パーティーの練度上げとか、宝探しとかの用途で」

「なるほど……む? 何かいるぞ」

 マヤ姉の視線が、ダンジョンの隅で動く生物に注がれる。


 そこにはのそのそと歩く数体のモンスター……いや、子供のクマがいた。子グマだ。

「子グマじゃないか……カワイイな」

 愛らしすぎるその姿に、マヤ姉も自然と頬が緩んでいる。

「なんでこんなところにクマの子供がいるんだろ……?」

 疑問を呈した後、ハッとあることを思い出す。


 それはかつてこの地でキルマリアが倒した大型モンスター、カイザーベアのことだ。

 確かキルマリアは、カイザーベアのことを”クローディオ森林の主”と呼んでいた。

 それにカイザーベアは、地中から地面を突き破って出現した。

 もしかしたら、この遺跡を根城にしていたのだろうか。

 となると、この子グマたちはカイザーベアの子供……?


「ここはあの子たちの家だったか。参ったな……」

 マヤ姉がそう呟く。

 そうだ。このダンジョンを解放するということは、この子グマたちの居場所を奪うということ。

 それどころか、他の冒険者らに討伐されてしまう可能性も高い。


「…………」

 俺は少しのあいだ逡巡すると、くるりと踵を返し、子グマたちに背を向けた。

「帰ろう、マヤ姉」

「朝陽?」


「”状態が不安定で、崩落の危険性が高い。ダンジョンとして解放するのはオススメしない”」


「……ふふ、ギルドにはそう報告するんだな」

 マヤ姉はフッと微笑んだ。

 


 俺たちはダンジョンを引き返し、地上へと無事帰還した。

「ふう、ようやく新鮮な空気が吸える」

「ダンジョンはドキドキの連続だったなぁ」

 でも楽しかった。

 また何処かのダンジョンを探検したいものである。


「ドキドキだと……!?」

 マヤ姉が何かを閃いたような顔をする。なんだ、イヤな予感がするぞ。


「朝陽……”吊り橋理論”というものを知っているか?」

 マヤ姉がそんなことを言う。

「吊り橋理論? なにそれ?」

 俺が迂闊にもそう言った瞬間、いつものようにガッと抱きついて押し倒してくる我が実姉。


「危機的状況を共にした男女は、恋愛に陥りやすいという心理効果だー! ダンジョンだけに男女がってなー!(爆笑)」

「やかましいわー!!」


 今日も今日とて、異世界ライフを楽しむ軍場いくさば姉弟であった。

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