ダンジョン探索はロマン
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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俺たちは今、シーザリオ王国の近隣にあるクローディオ森林にいる。
どこだそれ?とお思いの方も多いだろう。
かつて俺が虹色キノコ収集のクエストを受けて訪れ、クマの襲撃に遭い、キルマリアに助けられ、森の主が一撃で葬り去られ、そしてマヤ姉とキルマリアが雌雄を決した森だ。
女傑二人の争いによって、天変地異が巻き起こったかのように地形が変わってしまった森でもある。
うちの姉と魔族が生態系を乱してすいません。
「この先なのか?」
背後からマヤ姉が話しかけてくる。
「たぶん。ギルドからはそういう説明を受けたけど……あ、これかな!?」
茂みを掻き分けて進んだ先に、古い遺跡のような建造物があった。
まだ人の手が及んでいない様子で、建物にはコケやツタが生い茂っている。
入り口にもびっしりと植物が生えており、自然と侵入者を阻んでいるようである。
「”クローディオ森林の奥地に、ダンジョンの入り口らしき建造物発見。調査を求む”……そういうギルドの依頼だったか」
「そ。前にこの森でマヤ姉とキルマリアがドンパチやったでしょ? あれで地形が変わって、それまで人目に付くことのなかったこのダンジョンが顔を出したみたい」
その現地調査を俺たちは仰せつかったわけだ。
これもまた、オーガ級としてジャンジャンバリバリ功績を重ねてきた信頼に寄るものだろう。
いやまあ、俺は殆ど何もしてないんですけどね。姉がね。
「ところで、ダンジョンとはそもそも何なんだ? 朝陽」
マヤ姉が質問をしてくる。
ゲームをやらない姉だけに、ダンジョンというものがピンと来ていないのだ。
「ダンジョン! それはRPG好きにとって心躍るワード!」
いきなりテンションブチ上がるゲームオタク。
「閉鎖的で迷路状になっている構造。侵入者を阻むモンスターやトラップ。そこかしこに感じる旧文明の名残。最深部に鎮座するは迷宮の主。そして踏破の暁に手に入る、金銀財宝や隠し武器……ダンジョン探索はロマン! 異世界ファンタジーの醍醐味なんだよ!」
早口ゲームオタクになった自分がそこにはいた。
「よくわからんが、朝陽が楽しそうでお姉ちゃん何よりだよ」
楽しそうな弟を、優しく微笑みながら見守るマヤ姉。
理解のある実姉を持って良かった。
まあゲームに限らずこの人基本、弟全肯定スタイルなんですけども。
入り口に生い茂っていた植物を剣で切り裂いて除去し、ダンジョンの中に入る。
当然、中には照明器具などなく、陽の光も届かないため真っ暗だ。
俺たちは持参してきたたいまつに火を灯した。
「ずいぶん暗いな……朝陽、足下には気を付けろ」
「うん」
「確かに迷路状だ。迷わないように進まなければな」
「任せてよ。ダンジョン攻略はゲームで何度もしてお手の物さ」
俺は右手にたいまつを持ち、左手をダンジョンの壁につけたまま、ゆっくりと先頭を歩く。
「左手の法則ってのがあるんだ」
「左手の法則?」
「そう。壁に左手をつけたまま進めば、いずれ必ずゴールに辿り着くって法則で……」
その左手が、壁の一部をゴゴゴと押し込んでしまう。
例えるなら、なんらかのスイッチを押してしまったような感覚である。
「ん? 今なんか押した?」
ヒュッ。
空気を切り裂く音が聞こえる。
何の音だ?と思うより早く、肩越しからマヤ姉の手が伸び、その音の正体を俺の眼前で掴んで止めた。
それが矢だということに気付いたのは、俺の腰が抜けてからであった。
「ひ、ひえ……!? 矢のトラップか……!?」
「大丈夫か、朝陽!」
「た、助かったよ、マヤ姉……」
前方から飛んできた矢を素手で掴むとは、我が姉ながら達人の技である。
「よいしょ」
俺は立ち上がろうとして、床に手をついた。
その手が、またもゴゴゴと床の一部を押し込んでしまう。
悪い予感しかしねぇ。
「なにっ!?」
声の主はマヤ姉だった。
マヤ姉が立っていた場所の床が、ガパッと開いたのだ。
その落とし穴の先には、無数の槍。
実に典型的な、しかし世代問わず万人に恐怖を与えるトラップである。
こんなキレイな動線に沿ってトラップを置いているとは、このダンジョンの主は刻命○シリーズでもやり込んでいたのだろうか。もしくはピタゴ○スイッチ好きか。
「マ、マヤ姉ー!」
俺は急いで穴の中を覗き込んだ。
そこから見えた光景にぎょっとする。
穴だらけになっていた姉がいた?
違う。
マヤ姉は逆立ちの体勢のまま、一本の槍の先端を二本指で掴み、事なきを得ていたのだ。
もはや曲芸である。
「子細ない。お姉ちゃんは無事だ」
事も無げにそんなことを言う。
「に、人間業じゃねえ……」
迷宮のトラップすら意に介さぬ姉を見て、ダンジョン攻略は俺に任せてよ感は二度と出すまいと誓った。
気を取り直して、俺たちはクローディオ森林にあるダンジョンの奥へとさらに進んだ。