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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
軍場姉弟のマイホーム大作戦
33/180

人間の暮らしというもの

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

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コミカライズ第1巻発売中です。

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「な、何者だ、アンタ!? ただの住民じゃないな!?」

「ほう……」

 異様な雰囲気を漂わせた黒髪の女性は、ゆっくりとその口を開いた。


「存外やるのう、アサヒ。わらわの正体を肌で感じ取ったか」

 微笑を浮かべながら、そんなことを言った。

 俺は目を丸くした。その声と口調に覚えがあったからだ。


「キ……キルマリアか!?」


「カッカッカ! 大正解じゃ!」


 出た、居丈高な笑い方と、特徴的な老人言葉。

 見た目はエプロンドレスを着た清楚な町娘だが、中身はゴリゴリの魔王軍幹部のようである。


「そ、その格好はなに!? っつーか、頭のツノどこいったのよ!?」

「これも認識阻害の魔術の為せるワザよ。見よ」

 キルマリアがパチンと指を鳴らす。

 すると身体に一瞬ノイズが走り、本来の魔族の姿へと切り替わった。

 もう一度パチンと指を鳴らすと、先ほどまでの町娘の姿へと戻る。

 まるでテレビのチャンネルをザッピングしているようである。

「とまあ、こんな風に人々の認識の方を操って、町娘の姿に見せているんじゃよ。どうじゃ、いい容姿じゃろ?」

「サブ垢でキャラクリし直した2キャラ目みたいなもんか……」

 俺の出した例えに、キルマリアはきょとんとしている。それ何語?と思っていることだろう。


「それにしても、なんで扮装してまでまた街に?」

 ゴーストハウス騒動の時も、街へと彼女はやってきた。

 マヤ姉とのアームレスリング勝負の末に昏倒し、気付いたらいなくなっていたのだが、よもや再び人里に降りてくるとは。

 この魔王軍幹部、どんだけヒマなんだろう。

「おぬしら姉弟と出会って、人間の暮らしというものに興味が湧いたのじゃ。というわけで街を案内せい、アサヒ」

「ま、街を案内……!?」

 人間の姿に扮した魔王軍幹部に、この王国の首都を案内するのは、とてつもない国家反逆罪に当たる気もするのだけれど。

 まあキルマリアは強者との戦い以外は興味がない、根っからの戦闘狂だ。街への侵攻など考えてもいないだろうし、別に案内くらいしてもいいか。


「いいよ、了解」

「うむ、頼む」



 エピファネイアはシーザリオ王国の首都だけに、散策や観光に事欠かない都市である。

 店舗や屋台が多く建ち並ぶ大通り、交易品が数多く見られる港沿いの市場、広大なリンゴ農園、軍馬や農耕馬が入厩している厩舎、冒険者御用達の鍛冶工房、かつて神が住んでいたとされる街外れの古塔、街の中央にそびえ立つ女神像。

 色んな場所を回るたび、キルマリアは実に興味深そうに目を輝かせていた。


 そんな姿を見て、不覚にも少し思ってしまった。

 可愛いところもあるんだな、などと。


「ぷっはー! 美味い!」

 しゅわしゅわな喉ごしのアルコール飲料を飲み、キルマリアはご満悦な様子。

 歩き疲れた俺たちは、酒場に入って一休みすることにした。

 ちなみに俺は未成年なので、ブドウジュースを飲んでいる。


 思えば、キルマリアって何歳なのだろう……見た目は、17歳のマヤ姉とそう変わらないのだが。

「いい呑みっぷりだねぇ、嬢ちゃん! ほれ、注文の串揚げ盛り合わせとミニドラゴンのシッポ焼き!」

「おお、これは美味そうじゃ……ではなく、美味しそうですね」

 物憂げな淑女然とした姿形からは想像できないほど、酒に料理にがっつくキルマリア。

 その姿は目を引くらしく、他の飲食客らもテーブルから身を乗り出し、その姿に見惚れている。


 普通の人にも本当にただの町娘に見えているんだな。俺は安心した。

 魔族が、それも魔王軍幹部がいるなんてことが知れたら、町中が大パニックになるのは必至。ギルド中の冒険者が討伐せんと彼女に向かってくることだろう。


 もしそうなった場合は……俺とマヤ姉は、どちらを味方すべきなんだろう。


「では行こう、アサヒ」

 もう満足したのか、ほろ酔い気分のキルマリアが席を立つ。

「ん? おお、わかった」

「ちょ、ちょっと嬢ちゃん! お会計は!? お金、払ってないよ!」

 カウンターから身を乗り出し、酒場の店主がキルマリアを呼び止める。

 たらふく飲み食いしたのだ、それ相応の額になったことだろう。

 しかしキルマリアは次の瞬間、とんでもないセリフを言い放った。


「お金とはなんだ?」


 ズコーッと、床に顔面からすっ転ぶ俺。

 もしかしてキルマリアさん、一般常識がないタイプなんですか!?

 そりゃまあ一般人ではないけどさぁ……


「ふざけんな! 無銭飲食か!?」

「ほう……やるか?」

 床に突っ伏している間に、店主とキルマリアが一触即発な雰囲気になっている。

 いけない、店が焦土と化す!


 俺はキルマリアを背後から羽交い締めにした。

「待てぇぇぇぇぇぇ!!」

「ひゃあ!?」

 キルマリアが素っ頓狂な声を上げて驚く。

「俺が払う! 払いますから!」


 店を出て、街道を歩く。

 無銭飲食で膨らませたキルマリアのお腹とは対照的に、俺の懐はすっかり寂しくなっていた。

「せっかくマイホームを手に入れて宿代がかからなくなったのに、余計な出費が……」

「わらわに代価を要求するとは、不敬な人間よのう」

 当事者が呑気なことを言っている。俺はキレた。

「郷に入っては郷に従え! 街に来たんなら、人間のルールに従うこと! いいね!! いいな!!」

 鼻先が触れるほどの近距離で、魔王六将相手に説教をかます。

 その圧に気圧されたのか、キルマリアは素直に「お、おう……わ、わかった……」と納得してくれた。

 俺の周囲にいるお姉様方は、なぜにこれほど破天荒なのか。もっと粛粛と生きて。


「アサヒくん」

「え?」

 見知った顔が話しかけてきた。

 薄汚れた格好に無精ヒゲ、伸ばし放題の金髪を頭頂部で結っている、長身の男性。

 ドラゴン級の冒険者のジークフリートだ。

 今は傷心中ゆえ、ただの飲んだくれニート(でもクソ強い)だが。


「ジークさん!」

「デートかい? キミも隅に置けないね」

「そ、そんないいもんじゃないですよ!」

「デートだなんて照れますわ」

 芝居がかった調子で、キルマリアまでもがそんなことを言う。

 良い大人が二人して、いたいけな少年をからかうのはよくないぞ。


「僕はジークフリートって言います。よろしく、お嬢さん」

「ええ」

 ジークさんがキルマリアと握手を交わす。

 その時だった。

 彼の毛穴という毛穴から、ブワッと大量の汗が噴き出した。

 そしてみるみるうちに顔が青くなっていく。

「?」

 対面のキルマリアは不思議そうな表情をしている。

「ど、どうしたんですか、ジークさん!? 顔が真っ青……あと冷や汗かきまくってますけど!?」

「い、いや、僕にもよくわからないんだが……その、彼女に触れた瞬間に寒気と悪寒が……す、すまない、疲れているのかもしれない。ぼ、僕はこれで……」

 そう言うと、おぼつかない足取りでジークさんは去って行った。


「キルマリア、もしかして会ったことある?」

「いや、まったく知らん男じゃ。見覚えがない」

 キルマリアは顎に手を当て、首を傾げている。本当に知らないらしい。

 もしかしたら実は戦ったことがあって、敗北を喫したジークさんは心にトラウマを抱えて……などとも思ったが、当のキルマリアに覚えがないのならば、違うのだろう。


 街の散策を終え、俺とキルマリアは軍場姉弟の拠点へとやってきた。

 元ゴーストハウス、現イクサバハウスである。


 家に入ろうとすると、キルマリアが小悪魔的な表情で俺にある提案をしてきた。

「のう、アサヒ。この町娘の姿を利用して、マヤを驚かせてはみんか?」

「マヤ姉にドッキリ? いいね、乗った」

 たまにはマヤ姉の驚く顔も見てみたい。俺はキルマリアの提案に乗ることにした。


 玄関扉を開け、リビングへと向かう。

 リビングでは、マヤ姉がホウキ片手に部屋を掃除していた。

「た、ただいま! マヤ姉!」

「おかえり、あさ……ひ?」

 俺の隣にいる黒髪の女性に気付いたのか、目をぱちくりとさせている。


「初めまして、お姉様!」

 ロングスカートの両側を掴みながら、お嬢さま風の挨拶をする。

 ノリノリだな、この魔王軍幹部。実に堂に入った演技をしている。

「わたくし、アサヒくんとお付き合いさせて頂いているマリアと申しま……」

 言い終わる前に、マヤ姉がホウキでスッカーンとキルマリアを殴り飛ばした。

 それはもうフルスイングである。


 マヤ姉を驚かせるどころか、俺の口から心臓が飛び出しそうになった。

 隣にいた人が、ノータイムでホウキで殴り飛ばされたのだからそりゃもう驚くでしょう。

「マヤ姉!? しょ、初対面の女性にいきなりなんてことを!?」

 しかし次の瞬間、マヤ姉の口から予想外の言葉が飛び出した。


「何のマネだ、キルマリア」


 マヤ姉、どうやら彼女の正体を見抜いていたらしい。

「へ!? この子がキルマリアだってこと、気付いてたの!?」

「姿形をいかに幻術で変えようと、気配までは隠せないさ」

 事も無げにそう言ってみせた。

 人の気配まで見透かすとは、どこまでチートなんだこの姉。

 

 ホウキで殴られたキルマリアがゆっくりと起き上がる。

 殴られた拍子に認識阻害の術が解かれたのか、いつものキルマリアの姿である。頭には当然ツノも生えている。

「ふ…ふふ…さすが我がライバル……認識阻害を見破るとはな……」

「ライバルになった覚えはないが、どうも」

「じゃが、それはそれとして……」

 キルマリアの目がカッと光る。その瞳は怒気に満ちている。


「来客をいきなりホウキでぶつヤツがあるかー!」

「やる気か? 上等だ、かかってくるがいい!!」

 突如始まるドタバタキャットファイト。

 この二人が顔を合わせると、いつもこうなるのだ。


「暴れるなー! 拠点が壊れるー!!」


 本日も、常識外れの姉キャラたちに振り回されっぱなしの一日であった。

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