表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/180

マジでRPGの街っぽい

 シーザリオ王国の首都エピファネイア。

 異世界にあるこの街で、俺、軍場朝陽いくさばあさひは冒険者として第二の人生を始めた。

 最強の姉である軍場真夜いくさばまやも、同様に。


 そうなった経緯について、少し振り返りたいと思う。



「あるんだなぁ…”咄嗟に身体が動く”ってヤツ……実際……」


 ブレーキ痕の先にある大破した車、泥だらけで泣き叫ぶ子供、転がるサッカーボール。

 大破した車の下には、血痕が広がっている。

 あれはきっと自分の血痕なんだろうなと、宙に浮かんでいる俺はまるで他人事のように考えていた。


 思ってもみなかった。自分が車から子供を庇えるような人間だなんて。

 

 俺は幽体離脱体験の最中、呑気にそんなことを考えていた。

 見ず知らずの人間が、TVのニュースやネット記事の活字で死んだことを伝えられても、「可哀想にね」くらいにしか思わない……そんなごく一般的な感性の持ち主だ、自分は。

 それでも、今まさに目の前で事故に遭おうとしている子供を助けるために車道に飛び出すくらいには、勇気と正義感がその身にはあったらしい。自分でも驚きである。


「というか俺、コレ……死んじまったのか……!?」


 宙に魂となってプカプカ浮いているんだ、そうに違いない。

 漫画やアニメで知っているもの、ええ。

 しかしいざ自分が生死の境を彷徨ってみると、死んだ実感がまるでない。もっと後悔とか未練とか生への執着とかで、まさに”この世の終わりのように”泣き叫ぶものと思っていたが……驚くほど淡泊だ。

 魂魄だけに淡泊。やかましいわ。


「……お………こ……え……」


 なんだ?と俺は耳を澄ました。

 頭上からかすかに、俺を呼ぶような声が聞こえる。

 状況が状況なだけに、これはもしかして天の声か。

 

 すると俺の身体がまるでアメーバ状に溶けていき、その声のする方へ吸い込まれていく感覚に襲われた。西遊記で瓢箪に人が吸い込まれる描写があるだろう、あんな感じだ。擬音を付けるとすれば「にゅおおおん…ギュルギュルギュル~!」だろうか。


「おお!? おおおおお!?」


 吸い込まれた先、気付くと俺はまたも宙に浮かんでいた。

 しかし今度は浮くことなく、俺の身体は重力によって地面に叩きつけられる。


「ぎゃん!」


 モビルスーツみたいな声を発し、俺は地面に倒れ込んだ。


 その地面には魔法陣のようなものが描かれており、妖しげに発光していたのだが、程なくして消えてしまう。

 俺は「いつつ…」とこぼすと、膝に手を掛け、ゆっくりと立ち上がった。


 痛みを感じる身体がある?

 立ち上がれる身体がある?


 俺は自分の身体を確認した。確かに五体満足の身体がある。先ほど事故に遭ったばかりなのに、ピンピンしている。

 信じられない……と感じるのは、自分の身体だけではなかった。目の前に広がる世界にも、だ。


「な、なんだここ…!? ファンタジー世界…!?」


 俺は崖の上から、眼下に広がる世界を眺めた。

 そこは先ほどまで自分がいたコンクリートジャングルではなかった。

 広がる山々に生い茂る木々、広大な草原、モンスターと思しき野生動物の数々、荘厳な外壁に囲まれた城塞都市……自分がディスプレイ越しに慣れしたんだ、RPGの世界さながらの光景であった。


「つまり俺は……現実世界で事故に遭って、ファンタジー世界に転生した!?」


 瞬時に自分の状況を理解する、察しのいいオタク男子。それが俺だ。

 一般人ならば混乱し、この状況を理解するまでに相当な尺を要するだろう。しかし俺はRPG好きの漫画好き、アニメも好むしラノベも好む十代。

 急に異世界転生しても、「あ~…あるある!」と飲み込めるのだ。


 ムダな導入を省いたところで、俺はさっそく街へと繰り出した。

 レンガ造りの建造物に、石畳の街道。

 行き交う人々は、ファンタジー風の衣装や装飾品を身に纏っている。

 実に異国情緒溢れる街並だ。


「おお…! マジでRPGの街っぽい! スカイ○ムとかウィ○チャー3で見た見た、こういう風景! ドラ○エやテ○ルズ、ア○リエっぽくもあるなぁ! F○シリーズでは……最近じゃこういう街あんま見ないな。12ではあったけど」

 ゲーム歴を垂れ流しながら、街を探索するオタク男子。


 街行く人々が俺のことを怪しげな視線で見ている。

 そうだ。俺は高校一年生で、あの事故が起きたのは学校帰りだったため、服装が学校制服なのである。麻の服より、布のローブより、鋼の鎧より、この世界ではよほど奇異に映る。

 郷に入っては郷に従え…俺は身なりを整えるため、防具屋へと向かった。


 しかしその道中で、自分が文無しであることに気付く。

「やべ……俺、この世界の通貨持ってないぞ」


 だがしかし、数多の異世界転生作品を見てきた俺に脱せぬ危機など無い。

 俺は質屋へと向かい、この世界では電波が無くて使い物にならないであろうスマホを売ることにした。


「ほう……これは珍しい材質の代物じゃ。古代のオーパーツか何かかのう……よし、500マニー出そう」


 老齢の店主はそう言うと、スマホと引き替えに金貨の入った袋を渡してきた。

 俺はこの世界の通貨が”マニー”であることと、そして同時に”言葉が通じること”も確認した。

 言語が通じるか若干の懸念はあったが、そこは異世界モノのお約束……しっかりとこの世界の言葉にローカライズされていることに、俺はホッと胸をなで下ろした。ローカライズが雑な洋ゲーほど萎えるものはない。


 防具屋で装備一式を整える。

 甲冑などの重装備にも憧れはあったが、俺の理想はタンク職よりスピードを活かした前衛職……身軽さを重視し、革装備を中心に身なりを整えた。

 武器は銅の剣。現実世界では銃刀法違反に当たるが、この世界では合法も合法。

「おお、これが剣か…すげえ、本物だ…!」

 憧れの剣を手に構え、俺はニヤニヤと笑みを浮かべた。

 街行く人々がまたも怪しげな視線で見ている。

 ここが大通りだと言うことを失念していた。剣をしまう。


 俺はハッと、あることに気付いた。そして唐突にこう叫ぶ。

「ステータス!」

 目の前にディスプレイ状の、半透明のステータス画面が現れる。

 お約束キター!と叫びたいところだったが、ここが大通りであると言うことを失念してはいない俺は、グッと歓喜の声を我慢した。マジで出た、ステータス画面。すげえ。


 ここが異世界ということは理解した。

 言葉も通じる。

 装備品も整えた。

 ならば、このあとやることはひとつだろう。


 俺は意気揚々と、冒険者ギルドへと向かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ