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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
軍場姉弟のマイホーム大作戦
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朝陽を怖がらせたな

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

 悪霊が取り憑いたらしい物件に辿り着いた俺とマヤ姉。

 意を決して玄関の扉のノブに触れた瞬間、それは起こった。


 ぞわぞわぞわぞわ! 


 ノブに触れた右手から、得体の知れないものが身体中を駆け巡る感覚に襲われ、全身が怖気立つ。

「う、うわぁ!」

 驚きのあまりノブから手を放すと、そのままの勢いで後方へとすっ転んでしまった。


「どうした、朝陽!?」

「ド、ドアノブを触った瞬間、悪寒が……いや、これは……力を吸い取られた……!?」

 事実、まるで100メートル走を全力疾走した後のように、俺の身体は疲弊している。

 ドアノブを通して、力を吸い取られたのだ。


「フォフォフォ……」


 周囲に黒いモヤが立ちこめ、何者かの声が響く。

「エナジードレインだよ……ドアノブを触ると、力を吸い取る仕組みになっている。この家に近付く輩の生気を吸い取る罠さ……」

 誰もいないところから聞こえてきた警告の声にゾッとする。

「ま、まま、まさか……これ、あ、悪霊の声か!?」

 ビビリ散らかす俺。

 悪霊が取り憑いているという噂は本当だったのか。

「命惜しくば立ち去るがいい……」

 悪霊は続けてそう言った。


「立ち去れだと? ふざけたマネを……ならば私が!」

 マヤ姉が玄関の扉へと向かう。

「ダメだ! マヤ姉も力を吸い取られる!」

 マヤ姉はドアノブに手を掛けた。


「バカめ……その生気、根こそぎ吸い取ってくれる!」

「…………」

「フォフォフォ…! みなぎる……みなぎる……!」

「…………」

「あ、あれ……? く、苦しくなって……う、うぷっ……」

「…………」

 平然としているマヤ姉をよそに、悪霊の方がどんどん苦しくなっている様子である。

 そしてついに。


「オロオロオロオロオロ……!!」

 悪霊は吐いた。


「吐いた!? エナジー吸い取りきれなくて悪霊が吐いたよ!?」

 悪霊の許容量を遥かに上回る生気の持ち主とか、我が姉マジパネェ。

 ドラ○ンボールで見たことあるよ、パワー吸い取りきれなくて逆に相手が参るヤツ。

「失礼するぞ」

 悪霊を根負けさせた超人姉さんは、勢いよく玄関の扉を開けた。


 家の中に入る。

 木とレンガで作られた西洋風の建物で、リビングは開放的な広さがある。

 例えるなら古風なコテージのような内装と言うべきか。ロハス感漂う雰囲気の良い家である。


「ほう、いい家じゃないか」

 リビングの中央に置かれている一枚板テーブルを触りながら、マヤ姉がそんな感想を漏らす。

 不規則な形をしたテーブル使ってる人って、なんか意識高い系な気がする(偏見)

「元はミッドデイ家に仕える使用人のための貸家だったんだって。豪邸ってほどじゃないけど、二人で住む分にはちょうどいい広さだよね」

 2階には部屋数もあるし、仲間が増えれば4〜5人くらいまでなら同居できそうではある。


「耐久性や防音性も申し分ないようだ」

 真夜が壁をコンコンと叩く。

「宿ではやはり近隣が気になるからな……だが一軒家ならばやりたい放題だ……じゅるり……」

 ヨダレを垂らしながら舌なめずりする実姉。

「そこ! なに悪霊より怖ぇこと考えてんの!?」

 このブラコン、隙あらば弟を手籠めにすることばかり考えているようだ。

「予め釘刺しとくけど、マイホームを手に入れても俺を襲うの禁止ね!?」

「はっはっは」

「はいって言ってよ!?」

 言質を取らせぬ我が姉、リスクマネージメントが上手い。


「フォフォフォ……まだだ……!」


 再び黒いモヤが室内に立ちこめ、悪霊の声が響く。

 俺とマヤ姉が振り返ると、そこには実体化した悪霊の姿があった。

 黒く蠢く不気味なモヤが、ボロボロの外套を身に纏っているような見た目の霊だ。


「出たぁぁぁー!!」

 霊をガッツリ視認するという初めての体験をした俺は、弾みで隣にいたマヤ姉に抱きついてしまった。

「うはっ!」

 抱きつかれたマヤ姉は喜色満面。

「あ! いや、こ、これはわざとじゃ……」

 俺は頬を赤らめながら弁明しようとした。しかしその弁明は、マヤ姉による強烈なハグで封殺される。

「オバケにかこつけて姉に抱きつくとは、なんてえちちな弟だ! たまらん!」

「もがもがぁー!!」

 弁明どころか、息も吸えないんですが!

 濃厚接触過ぎる、ソーシャルディスタンスを守って下さい!


「私を無視するなぁー!!」

 悪霊が魔法攻撃を放ってくる。

「破ッ!!」

 しかしその衝撃波は、マヤ姉の気合いひとつで、パアアンという音ともに弾け飛んでしまった。

「ひっ……! き、気合いだけで掻き消した……!?」

 戦慄する悪霊。霊をもビビらせるマヤ姉の凄さよ。


「朝陽を怖がらせたな……万死に値する!」

 窒息寸前だった俺を解放すると、マヤ姉は悪霊と対峙し、臨戦態勢に入った。

 万死に値するというか、悪霊なんでもう死んでるんだけどね、そいつ。


「実体のない死霊モンスターには物理攻撃は通じないよ!」

「ならば私の魔法で昇天させてやろう」

 マヤ姉が魔法陣を展開しようとする。

「ま、待ったぁ! 建物を吹っ飛ばさない程度にね!? なんか悲惨なオチが待ってそうだから予め釘刺しとくけど!!」

 家爆破オチからの多額の借金を抱えるルートだけは勘弁してほしい。

 詳しいんだ、俺はそういうケース。アニメや漫画でよく観たもの。ええ。


「わかる……わかるぞ……その女の強さは……」

 悪霊がマヤ姉に話しかける。

「エナジードレインから感じた桁違いの力……魔王六将である冥府の王にも匹敵しうる力だ……だが……」

 悪霊の身体がシュルシュルと流線型になり、床に影のように溶けていく。

 その影が這い寄るようにマヤ姉の足下へと移動してくる。


「ならばその身体、乗っ取ってしまえばよかろうなのだ……!!」


 マヤ姉を侵食するように、黒い影が足下から上へ上へと駆け上がっていく。

「なに!?」

「マヤ姉!!」

 影が侵食していくたび、マヤ姉の顔が苦悶で歪んでいく。

「く……ぐう……! わ、私の中に……入って……くるな……!!」

「い、一体何が起こっているんだ!?」

 事態が飲み込めない俺は、ただ狼狽するばかり。

 ただひとつ分かるのは、マヤ姉がピンチだと言うことだけだ。

 

 やがてマヤ姉の抵抗が弱まり、顔から表情が消える。

 先ほどまでマヤ姉を侵食していた黒い影は霧散している。

「マ……マヤ姉……?」

 俺は恐る恐る声を掛けた。


 無表情だったその顔が微笑を浮かべる。

 そしてその双眸が、ギラリと怪しく光る。


「手に入れたぞ……! 最強の身体を……!」


 マヤ姉の口から、そんなセリフが飛び出す。

 えっと、もしかしてこの展開は……アレですか?


「マヤ姉の身体が乗っ取られたあああ!?」


 異世界転に召喚されて以降、最大のピンチ到来である。

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[一言] このシスコン、隙あらば弟を手籠めにすることばかり考えているようだ。 シスコンX ブラコンO
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