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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
軍場姉弟のマイホーム大作戦
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夢のマイホーム

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

 とある日。

 俺こと、軍場朝陽いくさばあさひは冒険者ギルドへと向かった。

 ギルドでクエストを受け、それをこなし、お金と名声を稼ぐ……これが冒険者の日常だ。


 冒険者ギルドは現実世界で例えれば、ハロワのようなものなのである。

 …………そう考えたら途端に行きたくなくなってきたな。例えを間違えた。

 

 ギルドには入り、馴染みの受付嬢であるターニャに話しかける。

「また宿代が尽きたよ……」

「またっすか。アサヒくん、いっつも”金ねンだわ”状態っすね」

 人を経済力のないヒモみたいに言わないで頂きたい。

「この街に来てからずっとお姉さんと宿暮らしなんすよね、アサヒくんって」

「ああ。連泊も連泊」

 

 宿代がかかる上、過保護なマヤ姉がいつも俺のためにと回復薬を買い込むから、我ら姉弟はいつも素寒貧なのだ。

 すり傷ひとつで毎回ポーションをガン飲みさせるのはやめて欲しいものである。そもそも俺がすり傷を負うのは、ほぼほぼマヤ姉の魔法の爆風で吹っ飛ばされるせいなのだが……なんだろう、このマッチポンプ。


「そろそろ冒険の拠点というか、アジトがあると便利なんだけどなぁ……」

 溜息交じりにそうこぼす。

 そうだ、RPGには主人公の拠点が付き物である。

 なのに、我ら姉弟にはそれがない。異世界にやって来て向こう、ずっと宿暮らしである。コスパが悪いったらない。


「なら、良い案件があるっすよ!」

 ターニャが依頼書を出す。

「シーザリオ王国でも有数の貴族であるミッドデイ卿。そのミッドデイ卿が所有する物件のひとつに、とある問題が起こっているそうなんだ。それを解決してくれれば、無償でその物件を貸し出してくれるんだって!」

 驚きの情報である。

 それは願ったり叶ったりというか、渡りに舟というか。

「ぶ、物件を無償で!? なんでそんな大盤振る舞いを……」

「その問題のせいで、あらぬ噂が立てられたりして困ってるんだって。それを解消してくれるなら、そのくらい安いもんだってさ。さすきぞっすね」

 さすが貴族でさすきぞか。俺でなきゃ見逃しちゃうね。


 貴族イコール、むしろお金にがめつい高飛車なイメージがあるのだが、ミッドデイ卿という人は懐の広い大人物らしい。この名前、覚えておこう。

「で、やるかな?」

「やるやる! 夢のマイホーム!」

 他の冒険者に先を越されるわけにはいかない。

 俺はノータイムで依頼を受けた。


 俺の返事を聞くと、ターニャは喜色満面ニッコリと微笑んだ。

 なんだろう、怖いんですが。

「じゃあ頑張ってね! “悪霊退治”!」

 …………悪霊?

 目が点になった。



 その日の深夜。


 俺たち軍場姉弟は、件のゴーストハウスへとやってきた。

 住宅街の外れにある二階建ての一軒家で、庭や家庭菜園まである。

 一見するととても良い物件である。

 ド級のいわく付き物件だということを除けば……であるが。


「朝陽。ここが依頼の、悪霊が取り憑いたらしい家か」

「そ、そそ、そうみたいね」

 堂々としているマヤ姉に対し、俺は脚が震えている始末。


 どうやらこの家に悪霊が取り憑き、夜な夜なポルターガイストを起こしているらしい。

 近隣住民からも苦情が多く、それでミッドデイ卿が困って、ギルドに除霊の依頼を出しているとか……

「こ、高ランクのクレリックでも失敗続きの依頼で、ギルドもほとほと手を焼いているって」

 それゆえの、ターニャのあの笑みだ。

 先を越されるどころか、誰も受けたがらない難解なクエストらしいのだ。

 なんつー案件を寄越しやがるんだ、あの黒ギャル受付嬢。


「その悪霊を祓ってくれれば、そのまま住んでいい……だったか。お金と名声が手には入り、さらに住居まで貰えるだなんて、至れり尽くせりじゃないか」

 失敗することなど毛ほども思っていないのだろう、マヤ姉は余裕の笑みを浮かべている。


 俺も情けなく怖がってばかりはいられない。

 懸命に虚勢を張った。

「は、ははん! 霊なんていない、いない! きっとホームレスが悪霊に扮して住み着いてるとかいうオチに決まって……あれ?」

 ふと気付くと、マヤ姉の姿が忽然と消えていた。

 一体どこに行っ……


「バアッ!」


「ぎゃあああああ!!」


 背後から大声で驚かされ、腰が砕ける俺。

「あはは! オバケを怖がる弟、実に可愛いなぁ」

 おどかした張本人は、それはもう楽しげな表情をしている。

 好きな子にイジワルしたい系の小学生かな、この姉。

「おど、お、おどかすなぁぁぁ!」

 心臓の鼓動を必死に抑えながら、涙目でツッコんだ。


 腰を抜かして地面に座り込んでいる俺に、スッと手を差し伸べるマヤ姉。

「15年も一緒にいるんだぞ? オバケが苦手なことくらい知っている。姉の前では無理に強がらなくていい」

 そう言って、優しげに微笑む。


 敵わないな、この姉には。

「…………おう」

 照れ半分、ふて腐れ半分の返事。

 差し伸べられたマヤ姉の手を取って、俺は立ち上がった。


 気を取り直して、ゴーストハウスに訪問する。

「じゃ、じゃあ入るよ……後ろから『わっ!』とかやめてね!?」

 マヤ姉に釘を刺す。

「ふふ、了解」

 

「オバケなんていない、オバケなんていない、オバケなんていない……」

 ブツブツとそう呟きながら、玄関のノブにゆっくりと手を掛けた。


 その瞬間、”それ”は起こった。

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