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異世界ワンターンキル姉さん ~姉同伴の異世界生活はじめました~  作者: このえ
ブラコン姉さんは止まらない
27/180

俺にはマヤ姉だけでいい

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

 路地裏から聞こえてきた争いごとの声が気になった俺は、こっそりその現場を覗いてみることにした。


 見ると、どうやら一人の男性が3人のガラの悪い輩に絡まれているようである。

「おい、酔っ払い!」

「どこ見て歩いてんだ!? ボケが!」

 男性がチンピラAに突き飛ばされ、ゴミ置き場に頭から突っ込む。


「うい〜……ヒック……」

 男性はどうやらずいぶんと酔っているようである。

 みすぼらしい身なりをしておりヒゲもボーボーで、伸ばしっぱなしの髪をちょんまげのように頭頂部で結っている。良くいえば世捨て人、悪く言えば浮浪者のように見える。いや、どっちも悪いかこの表現は。


「アニキの肩が外れちまったじゃねえか!」

 舎弟感漂うチンピラBがそう凄むと、アニキと呼ばれたスキンヘッドの男が肩をコキコキ慣らしながら、それに続いた。

「こりゃあ医者代が必要だなぁ……?」

 下卑た笑みを浮かべながら、金をせびろうとしている。

 ああ、なるほど。

 どうやらガラの悪い輩が因縁を付けて、酔っている男性をカツアゲしている現場のようだ。


 周りの住民は見て見ぬフリである。それはそうだ。ヘタに関わったら自分の身が危ないし、そもそも見知らぬ酔っ払いを助けてあげる道理もない。

「金……? あは、酒代に全部使っちゃったよーん」

 俺も現実世界ならば、ノータイムで素通りを決め込んでいただろう。

「ちっ、文無しですぜ、アニキ」

「もういい。おっ死んじまいな」

 そう言うと、スキンヘッドの男が腰に携えていた剣を抜き始めた。


 ヒュッという音と共に、3つの石つぶてが不良連中に放たれる。

「ぎゃっ!」「いてっ!」「ほごっ!」

 すべて後頭部に命中。

 ああ、”俺の『投石スキル』”は今日も正確だ。


「見過ごせないよなぁ、やっぱり」

 現実なら関わらずにいただろうが、ここは夢と希望溢れる異世界だ。格好付けたいよなぁ、こういう時はさ。

「俺が注意を引く! その間にアンタは逃げろ!」

 不良連中を挟んで向こう側にいる男性にそう伝える。

「!?」

 彼は目を丸くしている。

 こんな自分を助ける人がいることに心底驚いている……そんな様子だ。


「このガキぃ!」

 石をぶつけられた3人がこちらに向かってくる。

 モンスター退治を重ねそれなりに強くはなったが、さすがに3人相手はキツい。俺はなるべく引きつけてから、先日覚えたばかりの逃走スキル『エスケープ』を発動し、離脱する作戦を実行することにした。

「……え?」

 そこからが予想外の展開だった。


 酔っ払いの男性は埋もれていたゴミ置き場からスッと立ち上がると、こちらに向かって一気に跳躍してきた。

 跳躍……そう、10メートルほどの距離を助走も無しに飛んだのだ。

 そしてチンピラAとチンピラBの間に降り立つと、カンフー映画のようなアクロバティックな蹴りを放ち、二人を同時に昏倒させた。その動きはまるで、達人のそれであった。

「な、なんだテメェ!?」

 スキンヘッドの男が、男性の頭部に向けて剣を振り下ろす。

 男性は素手だ。やられる……そう思ったのだが、しかし。


 トン!


 なんと男性は、その一閃を片手で白羽取りしてみせたのだ。

「か、片手で受け止めたぁ!?」

 顔面蒼白のスキンヘッド男。

 男性は剣を奪い、放り投げると、流れるような動きで敵の懐に潜り込み、そのまま掌打を放った。

 数メートル吹っ飛び、舎弟らと同じく昏倒するスキンヘッド男。


 一瞬で3人を片付けた酔っぱらいの姿に、俺はただただ驚愕している。

 何者だ、この人は……!?

「…………うぷっ」

 土煙の中、ユラリと佇むその男性は、しかし次の瞬間思いっきり地面に嘔吐をし始めた。

「オロオロオロオロオロ」

 酔っていたのに急激な運動をしたせいであろう。

 その様子を目の当たりにしてしまい、俺もめちゃくちゃ気分が悪くなる。

 アカン、もらいゲロしそう!

 ホントに何者なんだ、この人!?


 放っておくわけにもいかない。俺は男性に近付くと、その背中をさすってあげることにした。

「だ、大丈夫か? ホラ、背中さすってあげるから……」

「うう……ありがとう、親切な子……」

 近くで顔を見てみる。どこかで見覚えがあるような。

 あれ、この人、もしかして……


「”竜狩り”ジークフリートさん!?」


 それは王国屈指の実力者、ジークフリート氏その人であった。



 程経て。

 俺が汲んできた水を飲み干すと、ジークフリートはふうっと大きく息をついた。

「水を飲んだら落ち着いてきたよ……ありがとう、アサヒくん」

「それは良かったです。でも……あの、え? ジークフリートさん……ですよね? ドラゴン級の……竜狩りの……」

 かつて壮行式で見かけたときの騎士然とした姿からは程遠い、ホームレスさながらの彼を見て、俺は再度尋ねてみた。

 いやだって変わりようが凄いんですもの。ア○ンジャーズ/インフィ○ティー・ウォーとア○ンジャーズ/エン○ゲームのソ○並に、ビフォーアフターがエグい。


「竜狩りジークフリートなんて大層な名前、今の俺……いや、僕には不相応だよ……忠犬ポチくらいがちょうどいいのさ……はは……」

 乾いた笑みを浮かべながら、体育座りで落ち込むジークフリート。


「ひと月前……僕らのクラン、バルムンクは魔王軍討伐へ盛大に送り出された。でも結果は散々だった……魔王軍らしき謎の敵に惨敗を喫し、街まで命からがら撤退。落胆、失望……人々の反応は冷ややかだったものさ」

 持ち上げるだけ持ち上げて、失敗したらバッシングか。世知辛い話である。

「僕は一気に自信を喪失し、こうして酒浸りの毎日に……」

「そ、そうだったんですか……」

 なんて分かりやすい転落っぷりであろう。

 

 ジークフリートはくわっと目を見開き、思いの丈を吐露し始めた。

「イタい両親にジークフリートなんて大仰な名前を付けられ! それでも名に恥じぬよう、必死に努力して! 虚勢を張るためクールキャラに徹し、一人称も僕から俺に変えて! 気付いたらなんか流れで魔王軍討伐とか行くハメになって! そんで全滅して!」

 吐露というか、この勢いはもはや大放流では。

 ヒートアップしすぎです、ジークフリートさん。

「悲惨すぎないか!? 僕の28年間んんん!」

 地面をゴロゴロと転がり、世の無常を叫ぶ元エリート冒険者。

 不良連中を一瞬で撃退した動きを見るに、強さ自体はまぎれもなく本物なのだろうけれど、本性が色々と残念すぎる。


「で、でもほら! かけがえのないものも得たでしょう!? 仲間との友情とか、思い出的なヤツとか!」

 俺がそうフォローすると、ジークフリートは転がるのをやめ、ピタッと静止した。

 そしてゆっくり立ち上がると、俺の両肩を力強く掴んだ。

「いいかい、アサヒくん……」

「はい?」

「パーティーに夢を見るな」

 しっかりと目を見て、諭すようにそう言ってきた。


「そもそもバルムンクは不仲だったんだ! 男好きのミモザはクランの金を使って連日ホスト通い! エルフのシューレインは150歳越えの高齢だからって、いつも上から目線で僕に説教! ゴードンは全然喋らないコミュ障! そういえばいつも兜被ってて、素顔もろくに見たことなかったよ! みんな僕の指示を聞かず、好き勝手やって……僕がどれだけ胃痛で苦しんでいたことか……!」

 ジークフリートはキリキリ痛む胃を抑えている。

 パーティーのリーダーじゃなく胃痛枠だったのか、この人……?


「全滅したことを良い機会と捉え、バルムンクは解散したよ。ああ、せいせいした」

「か、解散したんですか!?」

「うん。やっぱり一人が一番! ソロが最高だよ、アサヒくん!」

 陰キャの総意みたいなことを高らかに宣言する、かつて竜を狩った男。


 ”竜狩り”ジークフリート率いる、クラン”バルムンク”。

 理想のパーティーどころか、こんなにギスッていたとは……



 ジークフリートと別れると、俺はマヤ姉が待つ宿屋へと帰ってきた。

「ただいま、マヤ姉」

「おかえり、朝陽」

 マヤ姉の顔を凝視する。

「どうした、ジッと見つめて。私の顔に何か付いているのか?」


「いや……俺にはマヤ姉だけでいいかなって」


 俺がそう言うと、マヤ姉はカッと目を見開いた。

 ああ、そうさ。

 無理にパーティーを作らなくても、マヤ姉だけいれば戦闘面は問題なし。

 パーティー結成はいずれ縁があったら程度に考えて、しばらくは姉弟二人だけでいいだろう。


「そ、それはつまり……」

「うん?」

「『マヤ姉以外何も要らない』という熱烈なプロポーズか!?」

 マヤ姉は顔を上気させ、目を潤ませながらそんなセリフを放った。よく見るとヨダレも垂らしている。


 え、なんで!?

 どういう解釈!?

 それ、解釈違いなんですけど!?


「私も朝陽だけでいい! 朝陽単推しだー!!」

 マヤ姉がいつものように俺を押し倒してくる。

「そうじゃなくって、パーティーの話だからぁぁぁ!」

「ああ、今夜はパーリーナイトだ! 寝かさないぞー!」

「そのパーティーともちげえええ!」


 強い人ほど、変人になりがちなのだろうか。

 マヤ姉に組み伏せられながら、俺はそんなことを考えていた。

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