イクサバ姉弟、やはり興味深い
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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「キルマリア!? どういうつもりだ!?」
いきなり俺を人質に取ったキルマリアに問う。
背後から抱き寄せられているせいで、胸が顔に当たって苦しい。
そして柔らかい。イイ匂いもする。
いかん、混乱してきた。酸欠のせいかな。
「おぬしの姉と闘う口実作りじゃ! 付き合え、アサヒ!」
「付き合えって……そんなむちゃくちゃな」
「ほれ、『ぴえ~ん、お姉ちゃん助けて~』といつものように泣き喚いて助けを懇願せんか!」
「できるかー!! んな情けねえマネ!!」
弱者にだってプライドってものがあるんですよ!
そして「いつものように」と決めつけないでもらえるだろうか。
普段の俺はこんなに情けなくないはずだ、多分。
そんなやり取りを交わして、一瞬目を離した隙に、前方にいたマヤ姉の姿が忽然と消えていた。
「む!? マヤはどこへ……」
ごつん。
いつの間に背後に移動したのか、マヤ姉がキルマリアにゲンコツをお見舞いする。
キルマリアは気絶したのか、無言でそのまま地面に突っ伏してしまった。大きなたんこぶからはシュウウウと湯気が立っている。めちゃくちゃ痛そう。
「まったく、迷惑な女だ。行こう、朝陽」
マヤ姉は俺の背中に手をやり、この場から立ち去ろうとする。
「あ、ああ……」
ボブサップ戦の曙よろしく、失神KOしているキルマリアを案じる俺。死んでないよな……?
キルマリアは死んでいなかった。
立ち去ろうとするマヤ姉の足を掴み、彼女を地面にビタンとすっ転ばす。
顔面からいった!
こちらもめちゃくちゃ痛そう!
マヤ姉がゆっくりと起き上がる。その顔面は真っ赤に赤らんでいる。
いつも冷静なマヤ姉がついにブチ切れた。
「しつこいぞ、お前ぇー!」
「カーッカッカ! その調子でかかってこんかー!!」
マヤ姉にしては珍しく、熱くなっている。それを煽るキルマリア。
鼻面を赤くした姉と、デカいたんこぶをこさえた魔王軍幹部の戦いが始まった。
組んずほぐれつ、蹴り合い殴り合い、髪の毛の引っ張り合い。
まごうことなき、キャットファイトの始まりである。
女同士の戦いマジ怖い。
「何なんだ!? この状況!?」
置いてけぼり状態の俺。
それにしてもマヤ姉とキルマリア、初戦と違って結構互角な模様。
前に戦った時は、キルマリアはクマ十数体やカイザーベアと闘った後だったものな……それなりに消耗した状態だったから、あそこまで圧倒されたのかもしれない。
そんな風に後方解説役ヅラを決め込んでいると、何者かにグイッと服のフードを引っ張られた。
「ちょっと、やめてよ」
そう言って振り返ると、目の前にワイバーンの顔があった。
ワイバーンが俺のフードを口で咥えていたのだ。
「どわぁぁぁ!?」
その叫声に驚いたのか、ワイバーンは俺を掴んだまま上空まで一気に上昇した。
「あーーーれーーー!!」
地上でキャットファイトをしているマヤ姉とキルマリアの姿が一気に遠ざかって、アリほどの大きさになる。
逆バンジーでこんな感じなんですかね……言ってる場合か!
「朝陽!」
「アサヒ!」
マヤ姉とキルマリアが同時に叫ぶ。
二人は一瞬視線を合わせ、目配せし合うと、上空までジャンプしてきた。
マヤ姉が、俺を掴んだワイバーンと同じ高度までやってくる。
何十メートル飛んでいるのか……相変わらず異常なジャンプ力である。
いや、それより、右手に溜めたオーラがめちゃくちゃ気になるんですが……
「朝陽を~……」
「マ、マヤ姉!? 待った! この状態でコイツを倒したら、俺が真っ逆さまに落ちてしま……」
「放せッ!!」
マヤ姉が魔法を射出し、俺を捉えていた罪深きワイバーンを滅殺する。
そして俺は自由落下の一途を辿る。
「ほらぁぁぁぁぁぁ!!」
今度は紐無しバンジーの気分ですか!? 言ってる場合じゃねえ!!
しかしその自由落下は、なぜか途中で止まる。
「間一髪じゃな、アサヒ!」
「キ、キルマリア……!」
キルマリアが空中で俺を抱き留めてくれたのだ。
そうだ、キルマリアは飛べるんだった。
そのままゆっくりと地面に着地をする。
天高くまで舞い上がっていたマヤ姉も着地する。
再び対峙するマヤ姉とキルマリア。
お互いに相手の目をジッと見つめている。
「……迷いなく”そちら側”を請け負ったか。意外じゃな」
「お前は……”キルマリア”は飛べるからな。適材適所、任せたまでだ」
「ほう……信用したのかえ。魔王六将たるわらわを」
「ふっ……笑わせる」
ニヤリと、かすかに笑い合う二人。
このやり取りで、お互いに何か通じ合うものがあったのだろう。
この二人……性格は真逆だけれど、やっぱり似た者同士のような気がする。
「カッカッカ! イクサバ姉弟、やはり興味深い!」
破顔一笑。
「ではな! マヤ、アサヒ! また顔を出す!」
キルマリアは手を振ると、意気揚々とその場から去っていた。
嵐のような来訪者であった。
「冗談じゃない。朝陽、塩撒け、塩」
「はは……」
憎まれ口を叩くマヤ姉。
しかしその表情が妙にほころんでいたことを、俺は見逃さなかった。