姉サンダー
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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再びキルマリアと邂逅した、俺こと軍場朝陽。
「わらわの真の目的は……」
「真の目的……?」
駆けだし冒険者と魔王軍幹部という、不思議な組み合わせでの会話は、しかし無粋な来訪者によって遮られることになった。
上空から数羽のワイバーンが襲いかかってきたのだ。
先ほどキルマリアが倒したワイバーンらの仲間だろうか。
「会話の途中なのにワイバーン!?」
ソシャゲのシナリオで既視感のある展開だ。
「ハッ! 案ずるでない、アサヒ! こんな雑魚共、返り討ちにして……」
キルマリアが右腕から灼熱の炎を発し、ワイバーンを迎撃しようとする。
しかしそれより速く、幾重もの稲妻がワイバーンらの身体を貫いた。
「『姉サンダー』!!」
消滅するワイバーンの群れ。
強大な威力とは裏腹に、この脱力感を誘うクソダサネーミング……間違いない。
「マヤ姉!」
我が実姉、軍場真夜である。
「大丈夫か、朝陽!」
マヤ姉もこの場に駆けつけたようだ。
俺は安堵し、自然と顔をほころばせた。
マヤ姉がいるなら、ワイバーンなどピーピー囀る小鳥のようなもの……身の安全は保証されたようなものだ。なにせ、ソロプレイで目の前にいる魔王軍幹部を圧倒する姉だもの。
「フッ……ハハァ!!」
マヤ姉の襲来に、キルマリアも喜色満面。
一度は敗北を喫した天敵だろうに、驚きでも恐怖でもなく、なぜ喜びの感情が発露するのか。
「来よったな、マヤ! わらわの真の目的はマヤ! おぬしと再戦することじゃ!!」
キルマリアはマヤ姉を指差し、高らかにそう宣言した。
リベンジマッチを挑みに来たのか……さすが身体が闘争を求める女。アーマー○コアの新作待ってます。あ……今気付いたけど、異世界にいたままじゃあエルデン○ング遊べないじゃん!
マヤ姉がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「カッカッカ! いざ尋常に勝負……」
しかしマヤ姉は、華麗にキルマリアをスルーした。そして俺の下に来た。
「朝陽! 姉を置いてワイバーン退治など、無茶なマネを! 心配したぞ!」
「い、いやぁ、俺も成り行きでこうなっちゃって……」
緊急クエスト受けたら、馬車にムリヤリ押し込まれたもので。
「ケガはないか? ポーション、キメるか?」
「へ、平気だよ。無傷だって、ほら」
マヤ姉はホッと胸をなで下ろした様子。相変わらず過保護な姉である。
というかそれより、前方にファイティングポーズ取ったまま固まっている魔王六将がいるんですけど、見えてないんですかねぇ。
マヤ姉は俺の肩に手を回すと、そのまま歩き出した。
「では帰ろう。すぐ帰ろう」
「待たんかコラァァァ!!」
キルマリアが全力でツッコミを入れる。
それはそうだ、完全にシカトされていましたものね。
マヤ姉はそれはもう面倒くさそうに振り返った。
「……なんだ。いたのか、半裸ツノ女」
「おったわ! そして誰が半裸ツノ女じゃ!」
「そんな卑猥な格好をしていてよく言う。朝陽の目に毒だ、視界から外れてくれないか?」
マヤ姉が俺の目に手を被せ、視界を遮ろうとする。
「おぬしのヘソ出しルックとて、肌色率はそう変わらんだろうに!」
「ふっ……これは朝陽が選んだファッションなのだ。ビキニアーマーを好む弟の趣味さ!」
「おおおい! 俺を巻き込むな!?」
お姉様方二人の口喧嘩に、いきなり参戦させられた俺。
「アサヒ……おぬし……」
キルマリアが引いている。
「キルマリアもドン引きすな! っつーかマヤ姉じゃないけど、そんな大胆な格好をしている魔族に引かれたくないわ!」
トリオ漫才のようなマシンガントークが続く。
仲良しかよ。
キルマリアは右手から炎を発し、再びマヤ姉に宣戦布告をしてくる。
「さあ、再戦じゃ! 今度は負けんぞ、マヤ!」
「……なぜ私がお前と戦わなければならない?」
二重の意味で燃えさかるキルマリアに対し、しかしマヤ姉は冷静かつ淡々と返した。
その戦闘意欲のなさに拍子抜けしたのか、キルマリアがガクッとずっこけそうになる。
「なぜって……え? いや、え? た、戦いに理由などいらんじゃろ!? どっちが上か! それだけで血が滾らんか!?」
いかにも戦闘狂の弁だ。サ○ヤ人なのかな、この人。
「面倒くさい。朝陽の世話以外に労力を割きたくない」
しれっとそんな台詞を吐くブラコン姉さん。
ハイテンションのキルマリアに対し、真夜は一貫してローテンションである。
どこまでも陽と陰で非対称な二人だ。
「くっ、そうか……ならば……」
ギラリと、キルマリアの双眸が怪しく光る。
「ならば闘う理由を作ってやろう! 弟を人質に取る!!」
そう言うとキルマリアは俺を抱き寄せ、その身を拘束した。
「なに!?」
この行動には、さすがのマヤ姉も動揺を隠せなかったようだ。
いや、もっと動揺してるのは、急に二人の争いのダシにされた俺なんですが!?