良いお尻をしているな
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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ゴブリン。
それはRPGの序盤に現れる、雑魚モンスターの代名詞とも言うべき存在だ。
しかし雑魚と言っても、その醜悪な見た目と残虐性は十分驚異に値する。
人里近くに多く生息していることもあって、この世界に住む人々にとっては最も身近な恐怖の対象と言えるのかもしれない。
実際、冒険者ギルドではゴブリン討伐の依頼が後を絶たない。
この俺、軍場朝陽は、今まさにそのゴブリンと相対している。
スライムやキラーラビットと違い、ゴブリンは人型でかつ武器を持っており、そして明らかな敵意をこちらに向けてくる。
今、自分は実戦に身を投じているんだなと、より実感させられる相手だ。
冒険者ランクでラビット級止まりのビギナーたちは、まずこのゴブリン相手に躓くらしい。ラビット級の次がゴブリン級とは、言い得て妙というか理に適っているというか……この相手を倒す実力がなければ、その名の通りゴブリン級にはなれないのである。
ゴブリンの棍棒による攻撃を躱し、剣を振るって応戦する。
ワイバーンやオークや熊や魔王軍幹部と相対した俺だ、今さらゴブリン程度の驚異に臆したりはしない。
いやまあ、前述のモンスターを倒したのはすべて俺ではないが。
「ギエエ! イテェ! イテェ!」
俺の攻撃を受け、ゴブリンは瀕死状態に陥る。一対一ならば、もうゴブリンも相手ではない。
「ミ、ミンナー! コイツ、ヤッチマエ!」
その声を合図に、物陰に潜んでいたであろうゴブリンの仲間たちが何匹も現れる。
ちょっと、あの、一対一なら負けないけど、多対一なら話は別なんですけど!?
俺は驚きのあまり、地面に尻餅をついてしまった。
「「「キシャアアアア!」」」
ゴブリンたちが一斉に飛びかかってくる。
「ちょっ、待っ、仲間呼ぶのは卑怯だって!!」
俺がそう叫ぶと、背後からこの世界で最も卑怯と言える存在が飛び出してきた。
「『姉ファイア』!!」
マヤ姉こと、軍場真夜。
魔王軍幹部をもソロで圧倒する、単体最強の姉だ。
「「「ギィヤアアアアアア!!」」」
メ○すらもメ○ゾーマ級の火力に変えてしまいかねない圧倒的な魔力で、何匹もいたゴブリンらを一瞬で黒炭に変える。
その黒炭もすぐに風に流され、ゴブリンたちがこの世にいた形跡がすべて消え去ってしまった。
恐ろしい……こんな死に方、しとうない。
「大丈夫か、朝陽!」
マヤ姉が俺の元へと駆け寄ってくる。
「あ、ああ。っていうかマヤ姉……手助け無用って言ったのに」
レベル上げと実戦慣れのために、あえて加勢は不要、陰から見ているだけにしてくれと頼んでおいたのだけれど。
「一対一ならな。多勢に無勢となれば、看過などできん」
「まあ……ね。うん、助かったよ、実際」
俺は照れくさそうに頬をかいた。
どんな敵をも1ターンで鏖殺する姉……言わば、最強の召喚獣をデフォルト装備しているようなものだ。
頼もしいことこの上ないが、この姉にはひとつ大きな問題がある。
「ほら、立って。砂埃を払わないと」
「ありがとう、マヤ姉」
マヤ姉は俺の手を引いて立ち上がらせると、パンパンと手でお尻についた砂埃を払ってくれた。
その手がガシッと俺のお尻を掴む。
「へ?」
なんですか、このケツタッチは。
「良いお尻をしているな……興奮を禁じ得ないぞ♡」
マヤ姉は俺のお尻を掴みながら、ヨダレを垂らして顔を上気させている。
まごうことなきヘンタイである。
姉の問題……それは、極度のブラコンということだ!
「お尻だけじゃあ満足できん! 身体の隅々まで成長を確かめさせてくれ!」
マヤ姉は俺を押し倒してきた。
「やめろぉぉぉ! ヘンタイ姉ぇぇぇ!」
「違うぞ、朝陽! これは性的満足を得るためじゃなく、単に姉として弟のメディカルチェックをだなぁー!」
「なら、そのヨダレは何なんだぁー!?」
今日も今日とて、てんやわんやな異世界ライフを送る軍場姉弟であった。