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面白い姉弟

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

 マヤ姉とキルマリアの激闘。


 ヒザをついたのはキルマリアの方であった。


 ボロボロになっているのはキルマリアであり、マヤ姉はまだ余裕があるようだ。

 息は僅かに乱れているが、ピンピンしている。


「マ、マジか……マヤ姉……!」

 魔王軍幹部ですら、そりゃあさすがに一撃とはいなかったけれども、しかしソロで圧倒してしまうとは……ステータスカンスト姉さん、ヤバすぎませんか!?


「バ、バカな……! わらわが負ける……? 魔王六将たるわらわが……?」

 愕然としているキルマリア。

「ふう……朝陽のために仕立てた装備が汚れてしまった」

 そう言ってホコリを払うマヤ姉。


「こ、こんな人間が居るとは……!」

 敗色濃厚で打ちひしがれているのかと思いきや、キルマリアは破顔一笑。

「愉しい! 愉しいぞ!」

 やるかやられるかのヒリヒリとした戦いが、楽しくて仕方がないといった表情だ。

 なるほど、これは戦闘狂の看板に偽りなし。

 草刈り無双ゲーより、難易度の高い死にゲーの方が俺も好きだから、その気持ちも分からないでもない。


「笑うのか」


「カッカッカ! 笑うともぉ!」


 キルマリアはマヤ姉相手に啖呵を切ると、天高く舞い上がった。

 そして両手に魔力を集中させ、巨大な火球を発生させる。

「わらわの最大火力、受けて見よ!」

 カイザーベアを消失させたときより、何倍も凄まじい魔力だ。

 これはさすがのマヤ姉と言えど、直撃したらひとたまりもないのでは……というか、周囲にいる俺がひとたまりもない! 死、不可避!?


「『フィアフル・フレア』!!」


「『姉サイクロン』!」


 厨二心をくすぐるカッコいいキルマリアの秘技は、しかしマヤ姉のクソダサ魔法で一蹴されてしまった。

 姉が竜巻を発生させるから姉サイクロンですか、そうですか。


「がはっ!」

 吹き飛ばされたキルマリアが、地面に叩きつけられ吐血する。

 決着は付いた。マヤ姉の勝利だ。


 大の字になって地面に倒れるキルマリアと、それを悠然とした様子で見下ろすマヤ姉。

「わ、わらわが負けるか……おぬし、名は……?」

「真夜。軍場真夜」

「あの少年も……強い姉を持ったのう……ト、トドメを刺すがいい……」

「いいのか?」

 マヤ姉が拳を構える。


 気付くと、俺は走り出していた。

「ま、待ったぁぁぁ!」

 両手を広げて、二人の女傑の間に割って入る。


 庇われたのが意外だったのか、キルマリアは目を丸くする。

「しょ、少年……?」

「ま、待ってくれ! マヤ姉!」

「どうした、朝陽」


 マヤ姉は「ああ、なるほど」といった具合に、ポンと手を叩く。

「経験値稼ぎのために、ラストアタックは譲れと言うんだな?」

「ちげぇわ!」

 実の弟をどれだけ非情な人間と思っている!?


「こ、この人はそもそも、俺をモンスターから2回も助けてくれたんだよ。魔王軍幹部だけど、根は悪人じゃないというか……」

 俺はキルマリアのために弁明した。

 この言葉にウソはない、キルマリアは俺を助けてくれたんだ。

 反社会的勢力でも善人は居るだろう。”龍○如く”シリーズをプレイしてそう学んだぞ、俺は。


 とにかく、魔王軍と言えど、マヤ姉と敵対した人物と言えど、殺めるような結末は避けたいと思った。


「見逃せと? 朝陽の貞操を奪おうとする女だぞ」

「常日頃襲ってくるマヤ姉が言えた立場か!?」

「私のは家族のスキンシップさ。触れ合い、触れ合い!」

「毎回、目ぇ血走らせてハァハァ言ってるけど!?」

 突如始まる姉弟漫才。

 シリアスバトル作品から急にコメディへと移行する。

 この姉、ホントにさっきまでドラゴン○ールじみた攻防戦を繰り広げていた人ですか。


 そんな姉弟漫才に対し、地面に突っ伏しながら苛立ちを覚えるキルマリア。

「わらわに情けを掛ける気か…? 巫山戯たことを…」

 怒気を強めて、俺にそう言ってきた。

 戦闘狂……いや、戦士の矜持として、潔く生殺与奪の権利を勝者に委ねているのだろう。


 ただ俺は、そんな血生臭い命のやり取りをするためにこの異世界に来たのではない。

 そのやり取りを委ねられたのが実の姉であれば、なおさら御免だ。

 だから俺は、キルマリアにこう言ってやった。


「”姉”なら、”弟”の言うことも少しは聞けよな」


 キルマリアはまたも、目を丸くして唖然としている。

 カイザーベアに助けられたとき「”姉”と呼ばれたからには、”弟”は助けんとのう?」とキルマリアに言われた、それに対してのアンサーソングってヤツだ。

 いやホントお姉様方、たまには俺の言うことマジで聞いて下さい。自由気ままに生きすぎです。


 呆けたキルマリアを置いて、俺とマヤ姉はその場をあとにした。



「アサヒ……マヤ……。カッカッカ、面白い姉弟と出会えたわ……!」


 去りゆく軍場姉弟の背中に向けて、キルマリアはそう呟いた。

 その表情はとても楽しげであったという。



 街へ向けて、クローディオ森林を歩く俺とマヤ姉。

 結局、クエスト依頼であった虹色キノコの収穫はままならなかった。

 まあその虹色キノコも、爆風やら衝撃波やらで殆ど吹き飛んでしまったのだけど……方方の関係者様、女傑二人がどうもすいません。


「それにしても手強い相手だった。魔王六将か……今までのモンスターとは桁違いだった」

 マヤ姉が意外にも苦戦を認める。

 端から見ればまだまだ余裕があるようにも見えたが、存外ギリギリの戦いだったのだろうか。

「でもそんな相手にソロで快勝とか、マヤ姉マジでチート過ぎるよ。てか、あれだけ戦ってよくMP切れとか起こさないね」

「ああ、見ての通り大丈夫……」


 何かを思い付いたのか、カッと目を見開くマヤ姉。イヤな予感がする。

「おおっと! MPが切れて足腰に力が入らない! おんぶしてくれ朝陽ぃー!」

 マヤ姉が俺を押し倒してくる。

 ちょっとこれ、いつもの流れ!?


「ウソつけぇぇぇ! さっきまでピンピンしてたやんけー!!」

 必死に抵抗するが、魔王六将をぶっ倒したチート姉に勝てるはずもなく。

「今ならさっきの魔女の気持ちも分かる! 朝陽を襲いたくなる気持ちが!」

「助けてくれー! キルマリアー!!」


 俺は”もう一人の姉”に、届かぬ助けを求めたのであった。

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