表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/180

朝陽の貞操

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。

https://www.sunday-webry.com/detail.php?title_id=1021

 「はあ! はあ! はあ!」


 クローディオ森林を、木々の合間を縫いながら必死に走る。

 なぜ走るのかって、それは猛然と追いかけてくる魔王軍幹部がいるからです。


「少年! なぜ逃げるのじゃ!」


「アンタが追いかけてくるからでしょうよぉぉぉ!!」


 キルマリアは舞空術さながら、空を飛びながら追いかけてくる。

 空まで飛べるなんて卑怯すぎる。

 もっと地に足をつけて生きて欲しい。


「ツレないことを言うでない! わらわと死合おうぞ!」


 キルマリアは顔を紅潮させ、愉しげに俺を追いかけ回している。

 これは戦闘狂だ。

 灰になったカイザーベアさん、今ならあなたの憂慮が俺にもわかります。

 

 死合いになるならまだいいのだけれど、この戦力差では確実に俺に一方的な死が訪れることだろう。

 俺が召喚された世界は非対称型オンラインマルチゲームの世界だった?

 サバイバー側がキラー側に捕まると死確定的な。


(冗談じゃねぇぇぇ! よわよわ冒険者の俺と、つよつよ魔王軍幹部の戦いなんざ1ターンで決着付くわ!!!)

 内心でそう叫びながら、必死に逃げる。

 しかし徐々にその差は狭まっていく。


「ほれ、捕まえ……」


 キルマリアが俺の肩に手を掛けようとした瞬間、彼女がハッと何かに気付き、急停止する。

 その刹那、俺とキルマリアを分かつように地面が割れ、巨大な大地の槍が出現した。

 キルマリアはその特大土属性魔法を軽やかに回避する。


「なんじゃ……!? この強大な魔力は……!?」


「どわぁぁぁ!」

 大地が割れた衝撃で、前方に吹っ飛ぶ俺。

 そして何者かの胸に、またもズボッと顔を埋めることになった。

 この感触、このニオイ、今度は間違いない。

 この胸の主は……


「マヤ姉!」

 俺は顔を上げると、実姉の名を叫んだ。

 頼れる姉、軍場真夜いくさばまやの登場だ。


「大丈夫か、朝陽!」


 俺が頷くと、マヤ姉は安堵したような表情を見せた。

 一転、剣呑とした表情を見せると、マヤ姉はキルマリアと対峙した。


「お前か。私の弟を追いかけ回していた輩は」

「弟……? そうか、おぬしが少年の姉か」

 キルマリアは天高く隆起した大地の槍を見上げながら、続けた。

「この攻撃はおぬしの仕業じゃな? 少年との戦いに割って入りよって……無粋な女じゃ」

「朝陽の身に何かあったのではと思い、急いで馳せ参じてみれば……やはりピンチだったな。ああ……」

 マヤ姉はキルマリアを指差し、こう言った。


「朝陽の貞操のピンチだ!!」


 キルマリアは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。

 俺はハニワみたいな顔になった。

 この姉、何言ってんの!?


「そんなはしたない格好で朝陽に迫るなど、それ以外の理由は考えられない! いや、分かるぞ! 朝陽は可愛いからな、襲いたくなる気持ちも分かる! かくいう私も気持ちは一緒だ!」

 マヤ姉が拳を握りしめながら熱弁する。

 この姉、何言ってんの!?(30秒ぶり二度目)


「何を言っとるんじゃ……?」 

 キルマリアはただただ当惑している。

 奇遇ですね魔王六将、俺もですよ。急に親近感沸いてきた。


「わらわはただ、この少年と一戦交えようとしていただけじゃが」

「一戦交える!? やはり襲う気満々じゃないか、このスケベ女め!」

「一戦ってそういう意味じゃないから! マヤ姉!」

 突如始まるトリオ漫才。

 マヤ姉のせいで、場が一瞬でコメディ空間になってしまった。


「何者かは知らんが、邪魔立てするなら容赦はせんぞ!」


 キルマリアがどす黒い魔力を放出しながら、こちらに迫ってくる。

 マヤ姉は魔法陣を展開させ、反撃に打って出る。


「それはこちらのセリフだ!」


 キルマリアの掌底と、マヤ姉の鉄拳。

 魔力を乗せた二人の攻撃がぶつかり合い、相殺する。

 あまりの衝撃に、周囲の地形が変わる。

 木々がなぎ倒れ、岩が吹き飛び、地面が陥没する。


「「!?」」


 二人の表情が同時に変わる瞬間を、俺は見た。


 『一撃で終わらない……!?』


 両者の表情は共に、そう雄弁に物語っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ