マリアひめ
毎週土曜TOKYO MXにて22:30から、TVアニメ『異世界ワンターンキル姉さん』放映中です。
各種動画サイトでもアーカイブ視聴できますので、ぜひご視聴よろしくお願いします。
それからの日々はアグニの奴隷戦士として、ただ殺し、ただ屠り、ただ蹂躙した。
倒す対象は同じ魔王六将の配下たち……つまりは魔物だ。
アグニは他の六将の戦力を削ぐことに尽力していた。
今思えば、魔王が空位だったことをアグニは知っていたのだろう。だから、自らが魔王の座につくために同じ魔族を狩っていたのだ。
それを私は楽しんでいた。
ああ、それは嘘偽りない。
それ以外の生き方を知らなかったから。
そんな殺伐とした生活に身を置いている最中、わたしは人間の廃墟でとある物を見つけた。子供向けの絵本だ。
その絵本に幼い頃のわたしは夢中になった。
気高き半獣の姫、マリア姫が世を統治するお話。
わたしには出自が出自だけに、教養も誇りも気位の高さもない。
ならば、それならばと……その絵本を見ているうちに私は思うようになった。
自ら形作ってしまえばいいと。
アグニの城を歩いていると、背後から声を掛けられた。
「小娘。貴様、最近名を名乗っているそうだな。我に仕えるだけの奴隷戦士が、名など贅沢なものを……」
「小娘ではない」
「ぬっ…!」
妖気を漂わせながら振り返る。
その圧にアグニも一瞬怯む。
10歳にも満たぬ少女に魔王六将が怯んでいるのだ。
「わらわはキルマリア。キルマリアじゃ」
数年後、わたしはアグニを倒し魔王六将となった。
マリア姫は半獣ながらも人間を殺めることなく、人と魔物の架け橋になろうとしていた。
ああ、その理念は素晴らしい。ただ私は力を振るうことしか能がない。
物心ついたときに初めて学んだ”弱肉強食”……それもまた、嘘偽りないわたしのルーツ。
色んな魔物と、冒険者と戦った。
戦って、戦って、戦って……強者で居続ければ、いつか何かが分かると思った。
だが、どいつもこいつも手ぬるい。
私を満足させてくれる勇者はいないのか。
“それ”は唐突に現れた。
マヤ……イクサバマヤ。
そして、イクサバアサヒ。
地面に叩きつけられる。
“姉サイクロン”だと……?
巫山戯た技名だ。しかし恐ろしい威力だった。
アサヒという藪につついて出たのが大蛇の姉とはな。
「わらわが敗れるとは……おぬし、名は……?」
「真夜。軍場真夜」
「…………」
「わらわに情けをかける気か、少年……!? ふざけたことを……!」
「姉なら弟の言うこと、少しは聞けよな!」
「!…………」
敗れることで知った。
守護られることで知った。
こんな居心地の良い世界があるのだと。
だからわたしは……
☆
「何をブツブツ言っている」
「ふごぉ!?」
真夜に脇腹をチョップされ、キルマリアは我に返った。
「何すんじゃい! 今せっかくいい感じの回想しとったのに!」
「海藻? ワカメ?」
「回想? キルマリアの昔のこと?」
朝陽が尋ねる。
「……うむ。心配してくれる家族がおるおぬしらが羨ましいよ。わらわは天涯孤独の身でのー」
キルマリアは寂しげにそう言った。
「……」
「……」
朝陽と真夜が互いに顔を見合わせる。
「何言ってんだよ」
「ああ」
「へ?」
「”キルマリア姉ちゃん”も、俺たちの家族みたいなもんだろ?」
「フッ…私にとっては手の掛かる妹といったところだがな」
軍場姉弟のその言葉に、目を見開くキルマリア。
それは親から捨てられ、修羅の道を歩まざるを得なかった彼女が、おそらくは一番欲しかった言葉。
絵本の内容を思い出す。最後のページだ。
『マリアひめは、ひととまもののかけはしになったのでした』
人も魔物もみんな、みんな笑っていた。
陳腐なハッピーエンドだった。
だからこそ惹かれた。
「わた、わ……わらわが家族か……そう言ってくれるのか」
キルマリアは顔を伏せた。
その目に浮かんだ涙を見られたくはなかったからだろう。
朝陽は心配するし、真夜はからかってくるだろうから。
だからいつもの調子で、キルマリアは言った。
「カッカッカ! イクサバ姉弟、やはり興味深い!」
その言葉を聞いて、軍場姉弟にも笑顔が浮かぶ。
「というか妹ってなんじゃい! わらわの方が年上なんじゃから長女じゃろい!」
「精神年齢はこの中で一番下だろうが」
プリプリ怒るキルマリアに詰め寄られ、真夜は肩をすくめた。
「なにをう! アサヒ、弟のおぬしが決めい! どっちが長女かを!」
「当然、私だよな!? 朝陽!」
「俺をめんどくさい争いに巻き込むなー!」
ここが自分の安住の地……そのことを改めて感じたキルマリアであった。