わたしは一人だった
毎週土曜TOKYO MXにて22:30から、TVアニメ『異世界ワンターンキル姉さん』放映中です。
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とある日。
俺は自宅のリビングで、羊皮紙に羽ペンを走らせていた。
手紙を書いているのだ。
「えーと……俺は元気にやっているので、心配しないで……」
「なーに書いとるんじゃ!? アサヒー!」
「ラブレターか!? お姉ちゃんへの!」
「どわー!?」
急に現れたのは暇を持て余したお姉さん方二人。
マヤ姉とキルマリアだ。
俺は咄嗟に紙を隠したが、思えば特に見られていても支障は無いものだった。
「えっと、その……親への手紙だよ」
「親? 私たちのか?」
「マヤ姉が現実世界に戻ったときに安否を伝えたって言ってもさぁ……やっぱり息子本人からの手紙とかもあった方がいいかなって」
少し照れながらそんなことを言う。
ただでさえ反抗期のお年頃なのだ、親孝行なことを口走るなど小っ恥ずかしい。
「なるほど。私に郵便をして欲しいと」
「カカッ、親思いよのう!」
「そ、そんなんじゃねーって」
しかし、とマヤ姉が言う。
「ただ私が異世界間ワープしたとき、身に付けていた物までは向こうへ持っていけなかったが…」
「あ、そうか。じゃあ手紙書いても向こうには送れないのか」
ターミ○ーターさながら、真っ裸でワープしてきたマヤ姉の姿を思い出し、また顔が赤くなる。
「そうだ、朝陽! 私の身体に字を書け! 姉を手紙代わりにするんだ!」
「耳なし芳一かよ!?」
「ほらほら。遠慮するな! ペンを走らせろ!」
「ギャー! なんで俺を組み伏せる!?」
「カカッ、騒がしいの。ふぅ…………」
そんな姉弟の喧騒をよそに、キルマリアは何やらひとり物思いに更けている様子だった。
「親……家族か……」
☆
わらわは。
”わたし”は一人だった。
薄汚れた衣服。
日の差さない魔窟。
血生臭い匂い。
それがわたしにある最初の記憶。
物心ついたとき、すでにわたしは一人だった。
捨てられたのだ、両親に。
生まれ持った強大な魔力。
両親は我が子に恐怖を感じ、魔物がひしめくダンジョンに捨てたのだろう。
いや、あるいは赤子の時分に殺めてしまったか?
今となっては知る術もない
わたしは飢えを凌ぐため、ダンジョンのネズミを捕まえてはそのまま食べていた。
魔族ゆえ、食事を取らずとも魔力を吸えば生きていられるのだが、幼い頃はまだその術を知らなかった。
今日も新鮮なネズミを捕まえることが出来た。
が。
「おらぁ! よーう、ネズミ女!」
リザードマンが私の食事を蹴飛ばす。
「おめぇ、誰の許可を得てこの階層に住んでんだよう!?」
後ろにはオークもいる。
何処にでもいるのだ。
弱者を食い物にしようというタチの悪い魔物は。
ましてやここは屑共の吹き溜まり。
弱ければ淘汰されるのは仕方ない。
ああ、弱ければ。
「ぎゃあああ!!」
「いで! いででで!!」
ヤツらも驚いたことだろう。
汚らしい格好をした幼女に呆気なく一蹴されたのだから。
「つ、つええ! このガキ!」
「く、くそう! 覚えてろ!」
とどめを刺すまでもない、わたしはその二匹を見逃してやった。
しかし新たな脅威は予告もなく現れる。
「グハハァ…! 強いな、小娘……!」
突如現れた巨躯の怪物によって、リザードマンとオークが一瞬で焼却される。
「だが、まだぬるい! この程度の雑魚、一撃で屠れるようにならなければなぁ……!!」
わたしはその身を硬直させた。
腕に覚えはある。
捨て子でも、魔物蔓延るダンジョンで生き延びた経験もある。
自分は強いのだろうという自負は幼いながらもあったのだが、瞬間的に分かった。
この怪物には到底敵わないと。
「我は魔王六将が一人、”壊乱”のアグニ! 殺しの術を! 破壊や殺戮の楽しさを! 世を乱す理を、貴様に叩き込んでやろう!」