いい友達に恵まれた
毎週土曜TOKYO MXにて22:30から、TVアニメ『異世界ワンターンキル姉さん』放映中です。
各種動画サイトでもアーカイブ視聴できますので、ぜひご視聴よろしくお願いします!
馬車で平原を行き、山林を歩き、目的地のアルマンディン洞穴へと向かう。
自然に出来た穴らしく、人の手が行き渡っていないため照明などもない。真っ暗だ。
気温も外よりだいぶ寒い。
ここにドラゴンが住み着いているのか……ゾッとしない話だ。
俺たちスーパー朝陽軍団は身を寄せ合いながらダンジョンを進む。
「く、暗いですね…」
「本当にここにドラゴンがいるのかしら?」
「ちょ、ちょっと! みんないるー!?」
「います。そしてユイシス様、私の足を踏んでいます」
ドラゴンがいるのに普通に騒いでいる女子たち。
「待っててくれ。今『フラッシュ』で灯りを灯すから…」
フラッシュを使った瞬間、眼前にドラゴンの顔面が現れた。
いつの間にかドラゴンがいる最奥までやって来ていたのだ。
「ぎゃああああ! いたぁぁぁ!! ドラゴンだあああ!!!」
「ギャオオオオオン!!」
みっともなく大声を上げてしまった。
けれど同時にドラゴンも耳をつんざく咆哮を上げたため、俺の悲鳴はうまく掻き消された。
「うきゃあああ!!」
新たに悲鳴を上げる者が一人。ユイシスだ。
パニックとなったユイシスは、ドラゴンに向けて特大魔法を放った。
「バカッ! ユイシス! ダンジョンで特大魔法使ったら崩落に……!!」
ドラゴンは口から火球を放ち、ユイシスの特大魔法を弾き飛ばした。
上へと軌道が変わり、天井を貫いていく魔法。
結果、陽が入ってきたことでダンジョン内が明るくなった。
不幸中の幸い、棚からぼた餅だ。
「天井に穴が開いて視界が開けましたわ!」
「あはは…け、計算通りなのだわ!」
「ウソおっしゃい、ユイシス様」
冷淡にクオンがツッコミを入れる。
だが、これで戦いやすくなったのは事実。
俺はみんなに指示を与えて体勢を立て直した。
「落ち着けみんな! ソフィは全員にバフを! クオンはスピードで攪乱! グローリアは先陣切って攻撃を頼む!」
「物理と属性の防御力を上げます! 『エンゼルソング』!」
天使のような歌声が響き、全員に防御のバフがかかる。
「ルリ姉の技…使わせてもらいます。『泡沫夢幻』!」
クオンの姉貴分だった、忍者のルリが使った分身の術だ。
「新必殺技を食らいなさい! 『セイクリッドブレード』!!」
聖属性のエンチャントを纏ったグローリアの一撃である。
みんないずれもしっかりとした実力者。
幾多の修羅場をくぐり抜けているので、ドラゴン相手でも十分に渡り合っている。すごい。
……いや、俺だって魔王だし?
将来性で言えばこの中でも抜きん出て一番のはずなんだけれど、今はね……半人前冒険者なのでね……
そんな俺の服を引っ張る者がいる。ユイシスだ。
「どうした、ユイシス」
「どうしたじゃないのだわ! あたしへの指示は!?」
そういえばユイシスには何も言っていなかった。
「いやだってユイシスの魔法一発きりだから、指示も何も……」
「今はひと杖二発撃てるようになったのだわ! あたしだって成長してるんだから!」
得意げな表情をする。
確かにヒビは多少入っているものの、杖はまだ無事な様子。
「そうか、じゃあ……って、あぶねえ!」
ユイシスと会話をしている最中、ドラゴンがこちらへ向けてファイアブレスを放ったのだ。
「どわあああ!!」
「きゃあああ!!」
咄嗟にユイシスを庇うも、ちゅどーんとギャグ漫画みたいに吹っ飛ぶ俺たち。
グローリア、クオン、ソフィたちもブレスを受けて満身創痍である。
「くっ! さすがドラゴン…手強いですわ!」
「大丈夫ですか、お嬢。こちらの攻撃が満足に通らない……ジリ貧です」
「み、皆さん! 回復します!」
劣勢だ。
やはり頼れるマヤ姉がいないと、このクラスのモンスター撃退は難しいのか。
くっそー。ドラゴンなら狩りゲーでたくさん倒して、弱点も把握済みなんだけど。
……狩りゲー?
俺はハッとした。
そしてドラゴンめがけて、あるスキルを使った。
伝家の宝刀、『投石』である。
「狙うは喉元ッ! くらえ!!」
ドラゴンの喉元、ウロコが裏返っている部分を狙う。
石が命中したドラゴンは途端に苦しみだした。
「ドラゴンが堪えている……!?」
「投石で!?」
クオンとソフィが驚く。
「逆鱗! ドラゴンの喉元には逆鱗っていう、一箇所だけ逆さになっているウロコがあるんだ! そこが弱点なんだ!」
狩りゲーで何度も狙った場所だ、間違いない。
しかしそれを警戒してか、ドラゴンは前屈みになって急所を隠した。
「前傾姿勢に…」
「これでは逆鱗を攻撃出来ません!」
狩りゲー百戦錬磨の俺には通用しない!
俺はすかさずグローリアとユイシスに指示を出した。
「グローリア、頭をカチ上げろ! そしてユイシス、特大魔法だ!」
「応ですわ!」
グローリアがドラゴンの懐に潜り込んで、大剣で頭をカチ上げる。
「行くのだわ! 『ブラストウェーブ』!!」
杖から再び特大魔法を発射し、ドラゴンの喉に大ダメージを与える。
ブリガンダイン家とミストルテイン家の令嬢ふたり、ナイスコンビネーションだ。
ズウウンと大きな音を立てて、ドラゴンは倒れた。
「やった! 倒せた!!」
「勇者さまの的確な指示のおかげです!」
「ええ、さすがアサヒですわ!」
「ちょっとー! とどめを刺したのはこのユイシス・ミストルテインなのだけれど!?」
「皆さん、弛緩せぬよう。ドラゴンはまだ動いています」
一人警戒心を解いていなかったクオンが、そう忠告する。
確かにドラゴンは息も絶え絶えながらも、とある場所へと向かっていた。
その場所にはタマゴがあった。
ドラゴンのタマゴだ。
「タマゴ……! このドラゴン、洞穴で子供を守っていたのか……!」
俺は逡巡したのち、振り返ってクランのみんなを見た。
そしてあることを言おうとしたのだが、それはみんなにとって口に出すまでもないことだったようだ。
「とどめは刺さずに見逃さないか…ですわね? もちのロンですわ!」
「ふっ…わかりやすい人です」
「ふふーん! その甘さがアサヒって感じよね!」
「お母さんドラゴン、私が回復してあげますね!」
自分の意図をすぐ汲んでくれる……
いいクランに、いや、いい友達に恵まれたな。
こっちの世界で俺は。
心の底からそう思った。
ドラゴンの回復を終える。
この場所のことは、ギルドへは適当にごまかしておこう。
「じゃあみんな、帰ろう!」
「おー!」
俺たちスーパー朝陽軍団はアルマンディン洞穴を後にし、王都へ帰還するのであった。