姉ホームラン
毎週土曜TOKYO MXにて22:30から、TVアニメ『異世界ワンターンキル姉さん』放映中です。
4/12にはコミカライズ最新10巻が発売されました。
どちらもよろしくお願いします!
メテオ襲来。
空からやってくる厄災を目の当たりにし、王都の人々は混乱していた。
大気が乱れ、突風が舞う。
逃げ惑うどころか、吹き飛ばされないようにその場に留まることしかできなかった。
「な、なんなんすか、アレぇ!?」
「隕石!?」
ギルドの受付嬢であるターニャとナタリーは、ギルドの玄関先からその隕石を見ていた。
「と、とにかく冒険者に緊急クエストを発令しましょう! 少しでも強い冒険者を集めて!」
「は、はいっす!」
「お嬢! 避難を!」
グローリアとクオンは貴族街にいた。
煌びやかなドレスやスーツを身に纏った貴族たちが、しかし今は優美さのかけらも無く泣きわめいている。
馬車で逃げようとする貴族もいたが、その馬車も強風で横転する始末。
だが、グローリアは違った。
「逃げなどしませんわ! まずは街の人たちの避難が優先……貴族街を解放します!」
「反発もあるかと思いますが…」
「こんな事態で身分の差などしゃらっくさいですわ! 文句を言う貴族の方がいましたら、わたくしがパワーでねじ伏せます!」
「ふっ…お嬢らしい。分かりました、貴女の思うがままに」
ソフィは教会の前にいた。
街の人々に避難を促しているのだ。
「皆さん、教会へ入って下さい! 神が……神がお守り下さいます!」
隕石が降ってきているのだ、もはや神頼みくらいしか対処のしようがないのも分かる。
「勇者さま……!」
ソフィは姿が見えぬ勇者に、朝陽に願った。
その隕石を呼び寄せた張本人が朝陽だということも当然、知らずに。
ミストルテイン邸の中庭では、ユイシスが杖を構えながら腰を抜かしていた。
「い、いい、隕石め! ユユ、ユイシス・ミストルテインがとと、特大魔法で打ち返してやるのだわー!!」
半泣き状態で強がっている。
「腰抜かして強がってんなって、お嬢さま! ムリしないでほら、逃げんぞ!」
メイドのジルはそんなユイシスを引っ張って、屋敷の地下に連れて行くのであった。
郊外で稽古をしていたジークフリートとロイも。
質屋のホアンも。
王宮にいるユージーンとノエルも。
皆が、ただ空を眺めていた。
☆
真夜とキルマリア。
この二人も、今まさに落ちんとするメテオを眺めていた。
ただ、この二人には力がある。
無力感に苛まれることもない……メテオすらも、どうにか出来てしまう希望を感じさせる二人だ。
「よもや投石の最終進化はメテオとはのう……」
「……」
「あんなものが落ちたら、ここら一帯タダではすまんぞ! ったく、アサヒめ……はしゃいでとんでもないモン呼び寄せよって」
「……」
「どうする、マ…」
「弟の反抗期を諫めるのは姉の役目」
真夜はそう呟くと、斜塔に立つ魔王化した朝陽めがけて特攻をかけた。
「おい、マヤ!?」
「はあああ!」
真夜の攻撃と朝陽の迎撃が空中でぶつかり合う。
周囲の半壊した建物や瓦礫などが、まるで木の葉のように吹き飛ぶほどの衝撃。
二人はそのまま、目に止まらぬスピードでぶつかり合った。
どの一撃もが、ドラゴンやゴーレムなどもワンターンキル出来るほどの威力。
それを互いに浴びせ合っている。
驚くべきは、異世界チート姉さんである真夜と五分に渡り合っている朝陽の成長か。
それとも魔王とソロで五分に渡り合っている真夜の実力か。
キルマリアはその激闘を遠くから眺めていた。
「なんて派手な姉弟ゲンカじゃ……大気が震えているぞい。魔王とも五分に…いや、五分以上にやり合うかえ、マヤ!」
キルマリアが言うように、この姉弟ゲンカは真夜が押していた。
しかし……と思う。
「術者を無力化せねば、喚びだした隕石は消えぬ……まさかマヤ、アサヒを…弟をその手に掛けるつもりか…!?」
弟の反抗期を諫めるのは姉の役目。
あの一言が、世界平和を守るために弟を打倒する覚悟ではなかったのかと。
キルマリアは疑念を抱いた。
その疑念と姉弟ゲンカに、決着がつこうとしていた。
朝陽を地面に叩きつけると、真夜はとどめを差さんとばかり飛びついた。
「やめーーーい!!」
キルマリアが叫ぶ。
だが、遅かった。
「お姉ちゃんを困らせるとはいけない子だ! おしおきだぞー!」
ハートマークを飛び散らせながら、朝陽をガッと押し倒す真夜。
いつものヤツである。
キルマリアはギャグ漫画みたいにさかさまにひっくり返った。
真夜の熱い抱擁を受ける朝陽。
すると胸の紋章が少しずつ消え、右腕に巻き付いていた覚醒の腕輪も粉々に砕け散った。
「おや? 腕輪が砕けた。胸の紋も消え……強大な邪気も消え失せた」
真夜はきょとんとしている。
「まあそんなことはどうでもいい! 抱擁、抱擁!」
真夜は朝陽をスリスリしたりクンカクンカしたりした。
「な、なんじゃ…?」
キルマリアが呆けていると、瓦礫に頭から突っ伏していたゾラも起き上がってきた。
「な、なんじゃとぉ!?」
「うお!? ビックリさせるな! 生きておったか、しぶといジジイじゃ」
ゾラは困惑していた。
「なんなのじゃ、あの女は……!? すべてが儂の思い通りじゃった。魔王の魂を転送したことも、引き戻したことも、強制的に覚醒させたことも……」
「……」
「ただひとつ! 唯一! あの女だけが誤算! 何者なのじゃ、あの女はぁ!!」
キルマリアはフッと息を吐いてから、答えてやった。
「姉じゃ!」
「姉だよ…」
「姉やね」
いつの間にかエスメラルダとウートポスもやってきていた。
「エスメラルダ。ウートポス。おぬしらも来たのか」
「う…うん…アサヒが心配で……」
「ボクはなんや楽しそうなことになっとるなぁって。あはっ、魔王六将の内、四将が勢揃いって豪華やねぇ」
「カカッ! 魔王と、魔王をボコる姉を前にしたら、豪華でもなんでもなかろう」
「ん…あれ?」
朝陽が目を覚ます。
魔王化は解け、すっかりいつもの弱キャラ朝陽くんである。
「俺、何してたんだっけ……?」
真夜は困惑している朝陽を抱き枕のように抱え、スリスリ頬ずりをする。
「お姉ちゃんと合意の元、ラブチュッチュしていたんだろーが!」
「うそーん!? どういう流れで!?」
朝陽は自分に抱きつく姉の背後に、やたらデカい岩が近付いていることに気付いた。
メテオである。
「っつーかマヤ姉! 後ろ後ろー!! 隕石降ってきてるんですけどー!!」
自分が喚んだ隕石ではあるのだが、朝陽はもちろん自覚がない。
何はともあれ、大陸のピンチは継続中だった。
ふうっと真夜は溜め息をつくと、ゆっくり立ち上がった。
「弟との逢瀬を邪魔するとは、隕石風情が生意気な……」
魔法のバットを右手に召喚すると、それを思いっきり振り抜いた。
「『姉ホームラン』!!」
大○翔平並のパワフルなスイングで、メテオを打ち返す。
ビッグフライマヤサン。
キラーンと、ギャグ漫画さながらメテオは星の藻屑と消えた。
その様子を呆然と見送る魔王六将たち。
「い、隕石でも…魔王六将が三人居ればなんとかなる…かも…」
「そう思って馳せ参じたんやけど、イラン心配やったね」
「カカッ、そのようじゃな。末恐ろしい姉じゃ!」
エスメラルダもウートポスもキルマリアも、引きながら苦笑いを浮かべている。
「くっ! 今日のところは退散じゃ! わしぁ諦めんぞー!」
チンケな悪投のような捨て台詞を吐いて、ゾラはワープでその場を去った。
朝陽は今になって、自分の髪が伸びていることと、服を着ていないことに気付く。
「頭重いなって思ったら、なにこの毛量!? 服も着てないし! 上半身マッパ!? マヤ姉、俺に何した!?」
「真っ先に姉を疑うとは傷付くー」
真夜はフグみたいにプクーッと顔を膨らませた。
真夜は再び朝陽にガッと抱きついた。
「傷ついた姉のブロークンハートをお前の胸で癒やしてくれー!」
「ギャー! キルマリア、ウー、エスメラルダ! 助けてー!」
「魔王六将に助けを求めるとは、カッカッカ、やはり魔王じゃな」
「あはぁ。どないする?」
「えへへ…このまま眺めてよっか……?」
そう言って笑う六将たちであった。