次代の勇者かもしれん
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中です。
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俺の窮地を救ってくれた謎の女性、キルマリア。
彼女は自らを、”魔王軍幹部”と名乗った。
しかも”魔王六将”という身分と、”壊乱のキルマリア”という大仰な二つ名付きだ。
突然そんなことを言われて、FXで有り金全部溶かしたような顔になる俺。
まさに茫然自失。唖然呆然だ。
遅れて、感情がドドドドドドッと押し寄せてくる。
はああ!? 今なんかすげぇワード出なかった!?
魔王軍幹部!? 魔王六将!?
それ、三闘神とか四天王とか七英雄的なヤツじゃねーの!?
こんな序盤で会うか、フツー!?
っていうかあの角、飾りじゃなくてマジモンじゃねーか!!
魔族だよ、この人ぉぉぉ!!
頭がフットーしそうになった。
当然だ。まだレベル一桁台なのに、魔王軍幹部と出くわしたのだから。
他に出くわさなきゃいけないモンスター、山ほどおるやろ!
内心ビビりまくる俺に対し、しかしキルマリアは予想外の言葉を放った。
「安心せい、少年」
「へ?」
「わらわは弱者には興味ない、襲いなどせぬよ」
「は?」
魔族でも、必ずしも人間の敵というわけではないのか?
まあ最近のゲームやアニメ、ラノベでも、魔族と共生しているタイプの作品は結構あるから、それほどイレギュラーな事態でもないのかもしれない。現に俺はキルマリアに二度も助けられた。
直ちに危険はない……そう判断した俺は、ホッと胸をなで下ろした。
「な、なんだ……よかった。安心した」
「カッカッカ、”弟”を襲う”姉”などおるまい」
キルマリアは冗談めかしながら、そんなことを言った。
いや、それがいるんですよ……隙あらば弟を押し倒して襲おうとする姉がね。
身近にね。
「どこかにわらわを楽しませてくれる強者はおらんのかのう……そうじゃ、ひとつ尋ねたいんじゃが」
「ああ、俺が答えられることなら」
「”イクサバアサヒ”という者を知らんかの?」
心臓が口から飛び出そうになった。比喩じゃなく、本当に。
なぜ魔王軍幹部の口から、ピンポイントで俺の名前が飛び出る!?
「彗星のようにギルドに現れ、最近急激に評価を上げてきた冒険者らしいんじゃ。噂によればオーク三兄弟やワイバーンも一撃で倒したとか」
身に覚えはめちゃくちゃある。殺ったのは俺ではないが。
「オーク三兄弟は魔族でもそれなりに知られた猛者なんじゃが、それを瞬殺とはな……カッカッカ! 次代の勇者かもしれんな、そいつは! 一度死合ってみたいものじゃ!」
キルマリアはまだ見ぬ宿敵を想像して、楽しげに笑っている。
一方、俺は抜き足差し足でコッソリ逃げ出そうとしていた。
「じょ、冗談じゃない……! 魔王軍幹部とか、今までのモンスターの比じゃない超弩級の厄ネタじゃん!! 関わったらマズい……さりげなく退散……!」
小声でそう呟きながら、その場を後にしようとする。
そのとき、何かが胸ポケットから落ち、コロコロとキルマリアの足下まで転がっていった。
俺の見間違いでなければ、あれは……バッジ……かな?
「少年、何か落としたぞ」
キルマリアがバッジを拾い上げる。彼女はバッジに描かれていた名を読み上げた。
ターニャいわく”王都が認定した冒険者の身分証明書みたいなもの”だけあって、バッジにはご丁寧に名前が彫られているのだ。ボーンヘッドである。
「イクサバアサヒ……ほう、おぬしが。人は見かけによらんのう?」
かくれんぼで標的を見つけた鬼のように、無邪気かつ邪悪な笑みを浮かべるキルマリア。
「……いや、案外見かけ通りなんですけどね」
滝のような冷や汗を流しながら、引きつった笑みを返す。
これはもしかして、RPGでよくある負けイベントですか。
負けてもOKならば安心して負けますが、先ほどのカイザーベアのように灰になってもストーリーって進行するんですかね。いや、無理でしょう。
魔王軍幹部とまさかの邂逅を果たし、絶体絶命のピンチに陥った俺。
ああ、俺はただキノコ狩りがしたかっただけなのに。