俺ツエーできる力だ
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~9巻発売中。
2023年4月8日(土)TOKYO MXにて、22時30分からTVアニメが開始します!
よろしくお願いします!
策謀のゾラと名乗る老魔術師。
その姿を見てキルマリアは驚いた。
「ゾラ!? 魔王城に…王の間にいるはずのジジイが、なぜここに!?」
「フォフォフォ……」
以前、参謀越しにのみ魔王と話したことがあると言っていたが、ではその参謀がこの老人か。
「同じ魔王六将だろう? キルマリアはどうして気付かなかったんだ」
「わからん……ゾラの力を感じなかった」
ゾラがローブの脇から左腕を出す。
そこには俺に巻き付いた物と似た腕輪が装備されてあった。
「”封印の腕輪”……覚醒の腕輪とは対をなす魔道具じゃ」
「封印の腕輪……?」
「装備者のレベルを一時的に格段に下げる効果がある。村人と同程度にまでレベルダウンしていたのだ、”壊乱”が気付かぬのも無理はない」
自分の右腕に巻き付いている覚醒の腕輪を見る。
「これと対をなす? えっと、それって……」
「20年前……そう、20年前じゃ」
ゾラはこんこんと語り始めた。
「20年前……忌まわしき勇者一行に魔王の肉体は討ち滅ぼされた。じゃが彼奴らには誤算があった。儂の存在じゃよ」
「あんたの存在…?」
「ゾラは20年前も魔王六将じゃったらしい。いたんじゃよ、最終決戦の場に」
キルマリアが補足する。
「そうじゃ。そのときも魔王六将だった儂は、魔王が倒されるその瞬間に咄嗟に異空間を旅することが出来るという魔道具”天宙の羅針盤”を使い、魔王の魂だけをなんとか異なる世界へ転送した」
「魔王の魂を俺たちの世界に!?」
「この老人が元凶だったのか」
ゾラの口から明らかになる衝撃の事実。
次の言葉が、さらに衝撃だった。
「そして魔王の魂は10歳の少年に移った」
「は!? 10!?」
生まれ変わりだと思ったら、とっくに物心ついてた頃の俺に魔王の魂が!?
もしかして上書きされた系!?
「20年前なら、15歳の朝陽と計算が合わないとは密かに思っていたが……」
「マヤ姉、思ってたなら言って!? え、でも……ということは、この世界と俺たちの世界って時間の流れが四倍違うとか?」
異世界に来てからそれなりの月日を経たが、向こうの世界ではそこまで時間経過はしていないのかもしれない。
「おーい。今度はわらわが置いてけぼりなんじゃけど」
キルマリアはそのあたりの事情が分かっていないので、ちんぷんかんぷんな様子。
あとで説明しておこう。
ゾラが続ける。
「時が来たら、自動的にこちらへ戻ってくる仕組みになっておった。それは叶った」
「自動的って……もしかして俺が車に惹かれたの、自動帰還装置みたいなヤツ!?」
異世界へ運ぶトラックみたいなものだろうか。
これもまた驚きの事実である。
「じゃが魔王の力は儂が感知出来ぬほど弱体化しておった。それは誤算ではあったが、じゃが贄さえあればすぐに力を取り戻すと思っていた……が、それも強大な二つの力に阻まれた」
「私とキルマリアか」
「カーカッカ! ジジイの思惑が外れて残念よのう!」
キルマリアが笑う。
同じ魔王六将だけれど、キルマリアは完全にこっち側の味方になっている。
というか、ハッキリ弱体化って言われちゃった。悲し。
「忌まわしい……ならば……」
ゾラが笑う。
「ならば魔道具で強制的にレベルアップさせてしまえばいい! そう、魔王として覚醒レベルまで!!」
右腕に巻かれた覚醒の腕輪が光る。
「レベルダウンの逆ってやっぱりそうだよね!? 魔王になるまでレベルアップって、それ一体どれだけ……!?」
身体の芯が震える。
身体の奥底から力の波動がやってくる。
身体が破壊衝動で埋め尽くされる。
なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ。
「朝陽!」
「くっ! なんと邪悪な力じゃ!」
マヤ姉とキルマリアが何か叫んでいるが、声が聞き取れない。
意識が遠のく。
ああ。
あ。
☆
朝陽をよく知る人物、4人。
その4人だけが、その力を遠方からも察していた。
一人はゴッド級の大僧侶、ノエル・ピースフル。
星辰教会の総本山サートゥルナーリアにて、その波動を感じる。
「こ、この力は……20年前と同じ……!?」
一人は同じくゴッド級のエルフ、ユージーン。
彼が長を務めるエルフの里にて、その波動を感じる。
「ぬう……目覚めてしまったのか、イクサバアサヒ……!? だが、なぜこうも突然……!?」
一人は魔王六将、”冥境”のウートポス。
死者の世界である冥府エリスライトにて、その波動を感じる。
「冥府にまで届くオーラやて……!? とんでもないで、これ!」
一人は同じく魔王六将、”蒼海”のエスメラルダ。
王都エピファネイアにある軍場家にて、その波動を感じる。
「アサヒ……その力はダメだよ」
☆
黒い霧が晴れ、その中から先ほどまで朝陽だったモノが一歩一歩歩み寄ってくる。
真夜が身構え、キルマリアは認識阻害の術を解く。
急激に伸びた、身の丈ほどある髪の毛。
上半身の服が破れ、半裸となったその胸には大きな黒い紋章。
右腕には、いまだ巻かれた覚醒の腕輪。
怪しく光る瞳は、見るからに正気を失っていた。
いつもの朝陽ではないことは一目瞭然だ。
「マヤ、気を付けい! これは……この力は……」
「ああ」
マヤが小さく頷く。
皆まで言わずとも彼女には……姉には分かるのだ。
それが、弟がずっと前から心底望んでいた、その力、その姿であると。
ただし望んでいたのは魔王ではなく、勇者としての”それ”ではあったが。
「俺ツエーできる力だ」
魔王朝陽、誕生である。