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姉ドリルブレイク

電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~9巻発売中。

2023年4月8日(土)TOKYO MXにて、22時30分からTVアニメが開始します!

よろしくお願いします!

 RPGのミニゲームで釣りスキルを磨き上げた俺が釣り上げた釣果は、人であった。

 いや、人と表現していいものだろうか。

 なぜならその女性、尻尾とヒレ耳がついている半魚人なので。


「ふわぁ……久しぶり、アサヒ……」

 エスメラルダは背伸びをしながら言った。

「何で王都にエスメラルダがいるんだ?」

 彼女の住処は以前俺たちがバカンスで訪れた海、ルペルカーリア海のはずだが。


「あ、えっと、うん。アサヒ……またペンダントの力使った……でしょ?」

 相変わらずたどたどしい喋り方をする。

 キルマリアから陰キャ扱いされるのも分かる。


「ペンダントの力? ああ、使った」

 ターニャと一緒に甲殻類のモンスターに川で襲われたときに、何か起これと確かに使った。

 使ったらハイドロカノンが放たれ、モンスターは一撃で四散した。


「”力”を感じて…『アサヒがピンチかも』って思って、飛んで来ちゃった…えへへ…」

 エスメラルダはにへらっと笑った。

「もしかして街中で起こってる魚の大量発生って…!?」

「私についてきちゃったみたい……」

「移動するだけで、海と河川の生態系を乱すとは……さすが魔王六将、蒼海のエスメラルダ……!!」


 そのときだった。

 川底からおどろおどろしい声が聞こえてきた。


「嘆かわしい……これが魔王六将の姿か?」


「ん…?」

「な、なに? このおどろおどろしい声……?」

「陸に侵攻もせず、海に引き籠もり、果ては人間に与するか? エスメラルダ、貴様に海を統べる資格はなーい!


「うおう!? なんだこのバケモン!?」

「ダゴンちゃん……か……」

 川底から現れたのは巨大な半魚人のバケモノであった。

 半魚人と言ってもエスメラルダのような可愛げはない。

 身体はオークのような巨躯で、顔はアンコウのような造形。不気味としか言い様がない。


「海から離れた今こそクーデターの好機! 六将の座は俺様が……この海王ダゴン様がいただぁく!!」

「ダゴンちゃん…そんなの欲しがってたの?」

「そんなのだとう!? 海から離れ孤立! さらに海竜ではなく人間体! 今の貴様など恐るるに足らず!」

 とてもちゃん付けで呼ばれるには値しない怪物が、三叉の槍片手に跳躍し襲いかかってくる。

 あれ、これ俺も危なくない? 


「そこの人間もろとも亡き者にしてくれる!」

 ダゴンの攻撃が大地を切り裂く。

「当然のように巻き込まれる俺ー!!」

 何回転もしながら大地を転がる。


 エスメラルダは無事かと回転中に確認すると、なんのことはない、エスメラルダは華麗に回避していた。

 いつも眠たそうにしているが、さすがにそこは魔王六将。陸での戦闘力も抜群のようだ。


「だ、大丈夫…!? アサヒ……!!」

「あ、ああ、なんとか……」

「わたしはいいけど、アサヒまで傷付けようと……ゆ、許さない…!」

 エスメラルダが手刀のような手の形を作ると、そこから水が出てムチのようにしなる。


「ぐふふ! 貴様の力は水量に左右される! 川ではその力は半減……」

 川の水がどんどん吸い上げられる。

 右腕から伸びたムチはどんどん長さを増し、最終的にはおそらく数キロメートルにも及ぶ長さとなって空中にたゆたう。

 その圧倒的な光景に、ダゴンの顔が青ざめていく。

「なっ…なな…!?」

「半分もあれば十分だよ……六将の座を与えられた所以、その力の一端……身をもって知れ……!」

「ちょっと待っ……!!」


「『アクアウィップ・ジェノサイド』!!」


 ムチが周囲の丘を、木々を、岩を、ナイフでバターを削ぐように切り刻んでいく。

 その刻まれる対象にはダゴンも含まれており、「ひぎゃああああ!」という断末魔と共にその身は細切れになった。


 エスメラルダもマヤ姉やキルマリアと同じく、地形を変えるレベルで戦うワンターンキルキャラだった……



 程経て。

 自宅に戻って、マヤ姉、キルマリアと合流する。

 エスメラルダもそこに連れて行った。


「エスメラルダが来とったのか」

「魚の異常発生も納得だ」

「さ、魚さんたちは…帰らせたから…」

「ヒレ耳と尻尾見られたら大変だろ? 布被せて連れてきた。」

 エスメラルダは中東の女性のような着こなしで、目だけ布から出ている格好だ。


 エスメラルダがキルマリアを見る。

「キルマリア…アサヒの家で暮らしてたんだ…ず、ずるい…!」

「カッカッカ! わらわは大切な客人じゃからのう!」

「勝手に居候してるだけなんだよなぁ」

 俺は半目でキルマリアを見た。この人、家賃も食費も払ってないんですけど。


「私も…住んでみたいなぁ、ここ……」

 エスメラルダがそんなことを言う。

「マジ?」

「おぬし、水がなければ住めまい」

「うっ…そ、そうだけど…でも池くらいあれば平気だもん…」

「池って言われてもなぁ…」

 我が家の庭には池はない。

 作るにしても、相当な労力が必要だ。


「水があれば良いのか? キルマリア、認識阻害の術で周辺からこの庭を見えないように出来るか?」

「む? まあ可能じゃが」

「マヤ姉?」


 庭の隅っこに移動すると、マヤ姉は右手を天にかざした。

「はぁ!」

 すると、マヤ姉の頭上に魔法のドリルが出現した。

 そのドリルがズン、ズンと大きくなり、最終的にロードローラーくらいの大きさになった。


「『姉ドリルブレイク!!』」


 天をも突きそうなドリルで、庭の地面を一気に掘っていくマヤ姉。

 水脈に行き着いたのだろう。

 水が吹き出て、あっという間に池が出来てしまった。


 水浸しになったマヤ姉が池から這い上がってくる。

「池の完成だ。これならどうだ?」

「わ、わぁ…! ありがとう…!」

 エスメラルダが小さく拍手する。


「秒でガーデンリフォームしちゃったよ!?」

 ここにいる4人でまともなのは俺だけか!?



 とある日の軍場邸。

「キルマリア! 酒瓶は分別して出せと言ったろう!」

「分別ぅ? 炎で燃やしてしまえば一緒じゃろう」

「それでは環境問題にだなぁ……」

 ブツブツ言いながらゴミの分別をする真夜に、二階から降りてきた朝陽が尋ねる。

 下半身にはバスタオルを巻いている。


「マヤ姉ー、俺の替えのパンツどこー?」

「それなら今朝方洗濯して……ほら、温めておいた」

「なんでマヤ姉のマフラーん中から俺のパンツが!?」

「騒ぐでないわぁ。二日酔いでアタマ痛いんじゃから」

「ふふっ……賑やかだなぁ……」

 そんな軍場邸の騒々しい様子を、池の中でくつろいでいるエスメラルダがニコニコしながら聞いている。


 異世界最強の姉。

 魔王六将二人。

 魔王の生まれ変わり(らしい)


 賑やかな家になったものである。


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