あたしがアサヒくんの初めて
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。1~9巻発売中。
2023年4月8日(土)TOKYO MXにて、22時30分からTVアニメが開始します!
よろしくお願いします!
「へえ、受付嬢と冒険者が!」
「そうなんすよー」
馬車に乗り、隣町へ向かうまでの道中、世間話をする朝陽とターニャ。
話題はどうやら先ほどの恋バナのようだ。
「聞けばそのクリューガーって冒険者さん、マリリンパイセンにモテたくてクエスト頑張ってたとか! 動機がフラチっすよね!?」
ターニャはいまだ憮然としている。
「まあ、お金や名声のためって冒険者も多いしなぁ。そんなものじゃない?」
「でもアサヒくんは違うっすよね」
「俺? 俺だってそんな大層な理由は……」
「お金にも経験値にもならない小さなクエストを頑張ってくれてるじゃないすか。上位ランクの冒険者なのに!」
「えーと、それはその、そのへんが実のところ適正なので……ゴニョゴニョ」
朝陽はターニャに聞こえない声でボソボソと言い訳している。
「今は王都住まいだけど、あたしたち一家って前は辺境の小さな村に住んでたんす」
「へえ、そうなんだ」
ターニャは外を眺めながら、ポツポツと昔話をし始めた
「その村がゴブリンに襲われちゃって……小さい頃のあたし、村から抜け出して、必死に走って、王都の冒険者ギルドに助けを求めに行ったんだ。でも、どの冒険者も”そんな小さなクエストはやらない”とか”報酬が少ない”とか言って受けてくれなくて」
「……」
「そんなときだった。ひとつのクランが”俺たちが村に行ってやる。安心しな、お嬢ちゃん”って言ってくれて……」
「正義感の強いクランだ」
「うん。大きなクエストも控えてたみたいなのに、そっちは後回しにして。おかげで村は無事だったんだ」
「そいつは良かった」
ターニャは握りこぶしを作って言った。
「そのとき誓ったんだ! 大きくなったらギルドで働いて、冒険者さんたちを支えたいって!」
それが、若干15にしてギルドの受付嬢になった理由のようだ。
「そっか。俺も支えてもらったもんな……一番だった、ターニャが俺の」
朝陽のその言葉にターニャは一瞬キョトンとし、そのあと一気に顔を上気させた。
(い、一番!? ターニャが俺の!? ももも、もしかしてこの流れ、告られるー!?)
ナタリーの言葉が脳裏によぎる。
「冒険者には、受付嬢に気に入られたくて頑張ってる子もいるからね」
頭が沸騰するターニャ。
「まさかアサヒくんもー!? だだ、ダメッスよ! フジュンでフラチっす、アサヒくーん!」
「は?」
今度はアサヒがキョトンとする番だ。
馬車はちょうど、川が流れる橋の上を渡っていた。
その橋に異常が発生し、馬車が大きく揺れる。
「おわ!?」
「きゃあ!」
「橋の下にモンスターが! 橋の支柱を折ってる!!」
御者が叫ぶ。
朝陽がターニャに覆い被さる。
「ぎゃー! 実力行使はもっとダメっすー!」
「何言ってんだ!? 喋るな、舌噛むぞ! 『エスケープ』!」
朝陽は離脱スキル『エスケープ』を唱え、馬車から川の中州に移動する。
橋の下を見ると、エビの頭に筋骨隆々の肉体という甲殻類系のモンスターが橋を破壊していた。
「な、なんすか!? こんなレアモンスターが王都の街道に出るなんて……」
「贄ぇぇぇ!!」
朝陽が叫ぶ。
「わっ、ビックリ! 知ってるモンスター!?」
「い、いやいやいや、知らないにえ!」
「なにそのかわいい語尾!? キャラ変!?」
レアモンスターを前に、コントをする二人。
「御者さんとお馬さんたちは、なんとか川岸に逃げられたみたいっす」
「それはよかった」
「あとはアサヒくんがあのエビを倒すだけ! さあゴーレム級の力見せてくださいっす!」
「マヤ姉ー…キルマリアー…ど、どこかで見てない? 尾けてないー…?」
朝陽は剣を構えながら、周囲をキョロキョロと見回して助けを求めている。
「どうしたんすか? キョロキョロして」
「なな、なんでもない!」
そのとき朝陽は胸に光るペンダントに気付いた。
魔王六将、エスメラルダの海竜の姿のウロコを使ったペンダントだ。
「そうだ、このペンダントで……何か起これ!」
朝陽がペンダントを掲げると、川に渦が発生。
その渦の中心部から水の波動砲が放たれ、モンスターを一撃で撃ち抜いた。
いわばハイドロカノンのようなものだ。
「すっごーい! さすアサっす!」
「へ、へへ…どど、どんなもんだい……!!」
喜ぶターニャに抱きつかれるも、予想外の威力に朝陽は心臓がバクバク波打っていた。
馬車を失ったため、隣町まで歩く朝陽とターニャ。
その道中で先ほどの話の続きをする。
「さっきの話の続きだけど」
(こ、告る流れ!? またも!?)
「異世界……いや、王都に来て、右も左も分からない中で初めて会ったのがターニャでさ。思えば、それからずっと支えてもらってたなって。ありがと、感謝してる」
そう言って、朝陽はニコリと笑った。
「あたしがアサヒくんの初めてだったんだ…そっか、へへ、あたしが一番……!」
頬をかきながら、ターニャは嬉しそうに笑う。
良い雰囲気である。
しかし朝陽は逡巡した後、自分の言葉をすぐに引っ込めた。
「あ、違う」
「へ?」
「一番最初に出会ったのホアンさんだわ。質屋の」
「質屋のホアンさーん!?」
ホアンさんがサムズアップしているイメージがカットイン。
確かに、朝陽がこの異世界で初めてお世話になったのはホアンさんであった。
そのあと、ターニャがいる冒険者ギルドへ行ったのだ。
「思えばその時買った武器と防具ずっと使ってるし、ホアンさんにまず感謝だったわ。あっはっは!」
「い、一番でも、初めての出会いでもなかった……!!」
愕然とするターニャ。
朝陽とターニャ、特に進展することもなく、友人関係は変わらぬようであった。