まおーたいじ
その村はみたび、オークに支配されていた。
一度目はオーク三兄弟によって。
二度目はオーク腹違いの兄によって。
そして今回は……
「オーク三兄弟が支配してた村だってぇ? ぬはは、ヤツらは俺の使いっ走りだった! この俺様、ハイオークとは格が違ぁーう! 冒険者など恐るるに足りん!」
他のオークに比べ、二回りは巨躯なハイオークが支配していた。
ハイオークはオークらを従え、村の中央に鎮座している。
ただでさえ頑強な肉体をしている上に、鎧までも身に纏っている。
その手には、人間の身体をゆうに超えるほどの大きさのアックスブレード。
なるほど、確かにオーク三兄弟やオーク腹違いの兄より強そうだ。
それでも。
「そこまでだ! ハイオーク!」
「ぬっ?」
「村を解放しろ!」
俺と、俺たちのクラン”スーパー朝陽軍団”は退くわけにはいかない。
「おお! 助けが来てくれたー!」
「スーパー朝陽軍団だ! スーパー朝陽軍団が派遣されてきたぞー!」
「おにいちゃん! また来てくれたんだ!」
村のみんなが喝采を上げる。
馴染みの女の子、アンちゃんも目に涙を浮かべて喜んでいる。
良かった、村のみんなは無事なようだ。
にしてもスーパー朝陽軍団って名前、返す返すもどうなの?
もう慣れたけど。
「これ以上の狼藉は許しませんわ!」
「そうですね」
グローリアが先陣を切る。あとに続くのはクオン。
我がクランの切り込み隊長の二人だ。
「援護は任せてください! すぐに回復します!」
「買ったばかりの杖の威力を見せつけてやるのだわ!」
回復役のソフィと、魔術師のユイシスは後方に控える。
その二人を守るように、殿をマヤ姉が務めている。
マヤ姉がその気になれば、クランのみんなが何もせずともこの一味鏖殺しちゃえるとは思うんだけれど、マヤ姉の強さ(あと俺の弱さ)はいまだヒミツなのだ。なのでサポートに回ってもらっている。
ちなみに俺の配置は、前衛と後衛の真ん中らへん。
サッカーで言うところのボランチよろしく、クランの舵取りをしているのだ。良い風に言えば。
「ふん、女ばっかのパーティーじゃねえか……俺様が出るまでもねえ。てめえら、やっちまえ!」
「うっす! ハイオークさん!」
「人間のくせに生意気だぜ!」
オークたちが襲いかかってくる。
女ばっか……そう言って見くびると、手痛い目に遭うぞ?
「とくと味わいなさいな! 『グレイスフル・ストライク』!!」
「ぎゃあああ!!」
「続きます、お嬢。『電光石火・六連』!」
「ほぎゃあああああ」
「皆さんに癒やしの加護を! 『リジェネレイト』!」
「継続回復魔法!? ズリィぞ!」
「凍えるといいのだわ! 『エターナルブリザード』!!」
「かか、身体が氷漬け……に……」
ほら。
この女性たち、えげつないんだから。
「すげーな、みんな。あっという間にオークの取り巻きがやられていく……ん? 取り巻き?」
では、ボス格であるハイオークは誰が相手するんだろう。
「こういうときは集団のアタマを叩くのが鉄則よ……」
ズシンズシンと足音をたてながら、ハイオークが俺めがけて迫ってくる。
「テメェだろ!? アタマはよぉー!!」
「いやー!? どうなんでしょうねー!?」
アックスブレードを振りかぶる。
そんなモノで攻撃されたら、だるま落としよろしく俺の一部がどっか行っちゃう!
「剣を振り上げろ、朝陽!」
不意に聞こえてきたその声に反応し、無我夢中で剣を振り上げる。
すると次の瞬間、その剣の軌道に合わせて斬撃が放たれ、ハイオークの身体は真っ二つになった。
「バ、バカな……!?」
信じられない……そんな表情のまま、二つに分かれたハイオークは地面に転がる。
やがてその瞳から光が失われた。
一瞬の静寂の中、真っ先に声を挙げたのは配下のオークたちであった。
「ひ、ひいいい! ハイオークさんが一撃で!?」
「リーダーがやられたー!!」
「オークの鬼門だ、この村! 二度と近付いちゃいけねえええ!」
オークたちは散り散りに村から逃げ去った。
剣を握ったまま唖然としている俺の肩を、誰かがポンと叩く。
マヤ姉だ。
「アタマを叩くのが鉄則……なるほど、その通りだったな」
「マヤ姉」
今の斬撃は、俺のアクションに合わせてマヤ姉が放ったものだろう。
「助かったよ……ふう、魔王の生まれ変わりとか言われたって、俺が現状弱いのは変わらないんだもん」
「ははっ。まあ何事も一歩ずつだ。さあ、住民たちに解放を伝えに行こう」
魔王の生まれ変わり。
そんな設定をいきなり言われても、俺の日常は何一つ変わらず。
俺ツエエエではなく、姉ツエエエな日々を送っていた。
「アサヒ様……あなたこそがやはり、勇者さまですじゃあ……!」
すっかり顔馴染みになった村長が、涙ながらに感謝を告げてくる。
いや俺、勇者どころか魔王らしいんす……
アンちゃんが目を輝かせながら言う。
「おにいちゃんならきっとできるよ!」
「アンちゃん? 何ができるって?」
「まおーたいじ!」
うっ。魔王退治。
これまた、反応に困る一言を……。
そりゃ俺だって以前までは、盲目的に”魔王退治”を最終的な目標にしたりもしてたけど……
俺が魔王だってユージーンさんに言われて、さらに魔王六将の知り合いが何人も出来てと、今となってはその目標はちょっと。
俺が返答に困っている中、クランのみんなは乗り気であった。
「スーパー朝陽軍団は順調に成果を上げていますし……」
「そうね、クオン。そろそろ魔王討伐の任が与えられてもおかしくはありませんわね! 早くぶっちめたいですわ!」
「あはっ! 魔王なんてあたしの特大魔法でぶっ飛ばしてやるのだわ!」
「人間に仇為す邪悪な王……未来永劫、その薄汚い存在を消し去ってやりましょう!」
「!!…………」
絶句する俺。
最後のソフィが一番酷い。さすが毒舌キャラ。
「ま、まあまあ、みんな。魔王ってのも? 言うほど悪いヤツじゃあないかもよ?」
みんなが俺の方を向く。
「話せば分かる可能性だってあるんだし、まずはね? 対話のイスを用意して……」
魔王擁護の意見を言ったら、めちゃくちゃみんなから白い目で見られた。
電子コミックアプリ『サンデーうぇぶり』でコミカライズ連載中。
1/12に新刊9巻が発売となりました。よろしくお願いします。